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黒白の勇者 ~再召喚された異世界最強~  作者: 陽山純樹
第三章

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とあるクラスメイトの冒険

 貴臣(たかおみ)達が探し回っている間、当事者――如月(きさらぎ)登美子(とみこ)本人はどうしていたかというと、貴臣達が推測した通り、動物を追いかけていた。


「あー、逃げられた……」


 小さな呟きを発し、登美子は立ち止まる。黒髪かつショートカットのハツラツとした顔立ちは、可愛さよりも爽快さを何より発している。身長もそれなりにあるためか人目を引くような容姿であり、実際初対面の人には好印象を与えるケースが多い。

 ただ、持ち前のどこか天然さが出てしまうその性格から、付き合いが長くなればなるほど苦笑いが増えていく。クラスメイトもその奔放さに時に呆れるほどで、実際今も彼女は一人、路地に入ってしまった。


 裏路地の真ん中に立ち尽くし、彼女は天を仰ぐ。猫のような生物を見つけ、興味を抱き追いかけてみたのだが、結局見失ってしまった。


「この世界にも猫がいるのかなーと思ったけど……ちょっと耳が大きかったような気もするんだよなあ」


 鼻の頭をかきながら彼女は呟く。そして戻ろうかと周囲を見回したのだが、


「……あれ?」


 どっちから来たのかわからない。


「あ、やっちゃった」


 そして軽い。楽観的な性格で「まあなんとかなるだろ」という心情の彼女としては大して気にも留めていないのだが、他のクラスメイトからするといい迷惑である。

 ともあれ、追いかけていた猫(?)を見失った以上、ここに留まる理由はない。よって登美子は歩き始めたのだが、問題はきちんと大通りに戻れるのか、ということ。


「こっちかな?」


 当てずっぽうで歩き始める。ここからさらに動いてしまったら泥沼にはまり込むのでは――もし近くに彼女の性格を知る者がいたら、そう考えてしまうようなシチュエーション。実際、彼女の進行方向は来た道とは逆であった。


 そんなことなど露知らず、彼女は路地を歩き続ける。よく大通りから少しでも逸れればガラが悪くなる、といったケースがこの世界の都市にも散見されるが、この都においてはそうした場所は少なくなっている。邪竜との戦いで都を再建する際に区画整理などを行ったためで、言ってみればそういう「吹きだまり」ができにくい状況になっているためだ。


 無論、多数の人がいる以上はそういう場所がいずれ出てきてしまうのかもしれないが、再建して日が浅いこの都ではまだそういう場所が路地に発生しているケースが少なかった。よって登美子は時折目につく装飾品店などに目を奪われながら、歩を進めることになる。


「こういう物が綺麗だなって思う人がこの世界にもいるんだね」


 ガラス越しに存在する宝石のネックレスを眺め登美子は呟く。とはいえ店内に入るようなこともなく、すぐに目を離して大通りへ向け歩き出す。


 ――この状況で声を掛ける者がいないのは、第一に人が少ないこと。そして服装はこの都に溶け込む形だが、その見た目や雰囲気から異世界来訪者であることがわかっているため、どう声を掛けた者かと迷っているのも理由の一因だった。


 見た目的に道に迷っている風ではない。傍から見ればこの路地を散策しているようにも見られるし、放置してもいいのでは。そういう思考が働いている面もある。もし挙動不審でどうすべきか迷っている雰囲気を発していれば、来訪者ということで多少の畏怖と敬意を込めて登美子に話し掛ける者がいてもおかしくはなかった。けれど楽天的な性格の彼女からは負の感情がなかったため、気ままに歩いているだけだろうと考えてしまったのだ。


 もし人を見かければ登美子自身大通りはどちらか尋ねるつもりだったのだが――結局それは叶うことなく、さらに路地の奥へと歩を進めることになってしまった。


「……ん?」


 そんな折、彼女はとある場所に注目した。道の一角に木製の看板が一つ。文字は残念ながら読めないのだが、その看板に吸い寄せられるように近づいていく。

 なぜか目を離すことができない――そんな心情を抱いた矢先、看板のある店から人が出てきた。


「あ……」


 登美子は立ち止まる。出てきたのはローブ姿の女性。フードを被り顔は口元しか見えない。


「……あら?」


 そんな女性は登美子に気付き、声を上げる。


「お散歩かしら? その見た目は……もしや、来訪者様だったりしますか?」


 丁寧な口調と共に女性が話し掛けてくる。フードから覗き見えるその姿は、艶やかな金髪を持つ女性。年齢は二十歳は超えているだろう、不思議な魅力を持つ人物だった。


(わあ、綺麗な人……)


 少なくとも、登美子が目を奪われるくらいの女性。そこで彼女は、


「あ、えっと……実は、道がわからなくなりまして」

「あら、そうなの。もし良ければ案内するけれど」

「本当ですか?」

「ええ」


 にっこりと微笑む女性。


「それはそうと、この店……気になるのかしら?」


 ふいに問い掛けてくる女性。登美子は一度店を見回す。


 そこは木製の小さな一軒家なのだが、他の建物とは異なりどこか古めかしい姿をしている。もし騎士達から区画整理などの話を聞いていたとしたら、この家は邪竜との戦争で残った建物ではないかと推察したかもしれない。


「あの、このお店は……?」

「魔法の道具を販売する店よ」


 魔法――登美子としては霊具に興味を抱いてはいたが、その力の強さを一度目の当たりにして「あれは無理だ」と思ってしまったくらい。しかし魔法の道具――自分が使わないものであれば、少しくらい触れてもいいのではないか、などと考えた。


(あー、でも冷やかしはさすがに無理か)


「もし良ければ入る? 私が同行するわよ」


 思わぬ女性の提案。そこで登美子は目を丸くして、


「いいんですか?」

「ええ。来訪者様のようだから、私も少し話を聞きたいな、と思ったし」


 柔和な笑み。それに対し登美子は小さく頷く。


「では、入りましょう。なんだか買い物を済ませたばかりでまた入るというのも奇妙な話ね」


 そんな風に笑いながら彼女は登美子を店内へと手招く。扉を抜けた先は太陽の光があまり入っていないのか少しばかり薄暗かった。なので一瞬躊躇ったのだが――登美子は、意を決するかのように足を踏み入れた。


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