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黒白の勇者 ~再召喚された異世界最強~  作者: 陽山純樹
第三章

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行方不明

 翠芭の立っている場所からでは小声で話すレーネ達の会話は聞こえない。そのため何が起こったのか視線を向け見守るしかない。

 レーネはいくらか会話を行い、少しして兵士が去って行く。そこで翠芭は、


「あの、どうしたんですか?」


 問い掛けにレーネは一瞬黙った。それは心配掛けまいとするような所作に見えたが、


「話してください。クラスメイトに、何かあったんですか?」

「……そうだな。今更隠す必要もないか」


 そう述べたレーネは翠芭に近寄り小声で、


「一人、先導の騎士が気付かない間に姿を消してしまったらしい」

「……えっ!?」

「とはいっても町中だ。君達異世界来訪者については町の人間も認知はしているし、トラブルに陥ることはまずないと思うのだが……タカオミの班らしく、現在彼は探している」


 ならば自分達は――翠芭が言い出そうとした矢先、レーネは心を読むように首を左右に振った。


「ここで君が右往左往してはこの班の面々が混乱するかもしれない。どういう経緯で姿を消したのかわからないし、今は他の者達に任せよう」

「そう、ですね……あの、誰が姿を消したのかはわかりますか?」

「ああ、把握している。キサラギトミコという人物だ」


 キサラギ――如月登美子だ。


「なるほど、彼女なら確かに……」

「ん? 確かに? どういうことだ?」

「その、なんといいますか……例えば目を引くものがあったら団体行動をしていてもそっちを追っかける人、といいますか……」


 天然、という表現も当てはまるクラスメイトで、確かにフラッとどこかへ行ってしまう懸念はあり得た。貴臣もその辺り配慮していたはずだが、どうやら彼女の行動が貴臣の網をすり抜けてしまったようだ。


「要注意人物、というわけではないか」

「悪意があるような子ではないので……」

「ある意味そちらの方が厄介と言えるかもしれないが……行動を分析できないからな」


 翠芭は深々と頷いた。仮に姿を消したのが自発的なものだったとして、どんな物事によっていなくなったのかが翠芭も予測がつかない。


「……所在がわかるような処置は一応しているのだが、町中で多種多様な魔力が存在するからな。悪戦苦闘しているようだ」


 レーネはそう続けて語った後、小さく息をついた。


「最善を尽くす……ただスイハが語った内容から考えると、探し回る者達はどうすればいいかわからないかもしれないな」

「貴臣がどうするか……ですね。ただ彼女はクラスメイトでもどう行動するか読めないので……」

「町中である以上は大丈夫だと思うことにしよう……さて、私達まで混乱してしまうとまずい。予定通り昼食にしよう」

「クラスの皆には話をするべきでしょうか」

「食事の後に私から話す。とはいえそう悲観的になる必要はない」


 レーネが笑う。それは翠芭を安心させるような意味合いがあったのかもしれない。


「では行くとしよう……食事の味は期待していてくれ」


 そうレーネは述べ、翠芭はクラスメイトと共に歩き続けた。



 * * *



 貴臣の班からいなくなってしまった登美子についてだが、貴臣以外は比較的楽観的に状況を見ていた。


「いっつもどこかへフラッといなくなって、また戻ってくるからな」

「方向音痴ってわけでもないみたいだし、その内戻ってきそうだけど」


 大通りの一角で飲み物に口を付けながらクラスメイトは口々にそう呟く。

 ただ貴臣としてはどうすべきか判断に迫られている状況。探しに行くとしても地形などまったくわからないのだ。ミイラ取りがミイラになりかねない。


「けどここにずっと居続けるのも……」

「近くの店には連絡したので、ひとまず混乱はないと思います」


 騎士の一人はそう告げ、それでいて表情はどことなく硬い。


「周辺を探していますが、現状姿はないみたいですね……どこにいるか魔法である程度わかるようにしていますが、その探索魔法をすり抜けてしまっているようです」

「ということは、かなり離れていると?」

「三十分ほど前の時点で彼女がいたのは確認しています。何かに興味を抱いて立ち止まっているのなら、発見はそう難しくないと思いますが……」

「正直、何をするか読めない人なので……」


 貴臣も困った顔で述べる。クラスメイト――岡市大和から情報は得ていた。登美子については多少なりとも注意を払う必要があると。

 貴臣としても彼女については目を掛けていた。しかし他の班員と喋り、騎士達と話し――そうしたことを繰り返しふと彼女を探したら、いなくなっていたのだ。


「現在、大通りを調べているんですか?」


 貴臣が問い掛ける。騎士は首肯し、


「はい、そうですが――」

「例えば裏路地などは?」

「大通りに面している場所までは探索していますが……路地の奥へ向かう可能性があると?」

「かもしれません」

「――例えばの話」


 と、貴臣達の会話に割り込んできた人物が。大和だ。


「路地を進む猫を見かけて追いかけた……なんて状況だったら、大通りにはいないと思うぞ」

「確かに……探索範囲を広げることは?」

「可能です。なるほど、動物を追いかけるのであれば路地の奥へと進むでしょうね。すぐに範囲を拡大します」


 これで見つからなかったらまずい――貴臣は内心焦り始めたのだが、それを大和がフォローする。


「あんまり気に病むなって。陣馬のせいじゃないから」

「岡市に指摘されていたのに、この結果だからな……」

「ちなみに俺も注意を向けていた。でもいなくなってしまった。どうしようもなかったさ」


 笑いながら語る大和の言葉に貴臣は苦笑する。

 たぶんだが、大和のように注意を向けていた人間がいたかもしれない。しかしそれを全てすり抜けて、彼女は班から離れてしまった。たぶん意図したことではないとはいえ、なんという隠密行動か。


「路地は危険なんですか?」


 ふいに今度は女子生徒が騎士へと尋ねる。大和の幼馴染みである府山泉美だった。


「現在都は区画整理も進み、例えば町中に浮浪者がたむろしているような場所はほとんどありません。大通り周辺ならば路地にも出店もありますし、問題はないかと思います」


 騎士はそう返答し、


「ともあれ、はぐれてしまった以上はすぐに探します。皆さんはここで待っていてください」

「お願いします」


 貴臣は頭を下げ、それに対し騎士は「お任せを」と答え、捜索に呼び出された兵士や騎士へと指示を飛ばした。


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