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黒白の勇者 ~再召喚された異世界最強~  作者: 陽山純樹
第三章

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交戦

 雪斗とダインが結界の外へ飛び出した直後、前方の魔物が唸り声を上げた。その姿は、人間のようでありながら、体躯は飾り気のない、漆黒の人形。


「見た目は弱そうなんだが、魔力は相当強いな」


 ダインの評価。雪斗は首肯しつつ、


「間違いなく結界を壊せるだろうな……で、しかも――」


 階段付近からは見えない位置に同じ個体が複数体。これが一斉に襲い掛かれば、どれかが結界を破砕する可能性が高い。

 それをされれば面倒なことになる。よって、雪斗達がそれを対処する――


「ダイン、援護を頼む」

「ああ、任せろ」


 刹那、雪斗は眼前に迫る人形に狙いを定め、一閃した。相手は腕を突き出し受けようという所作を示す。その腕が一瞬で変化し、盾を模したような形へと変貌した。


 だが、雪斗の一撃をそれで防ぐのは無謀極まりなかった。刃が盾に入った瞬間、わずかながら抵抗は生じた。しかし雪斗は構わず振り抜くと、あっさりと腕を両断する。

 そこから体にまで刃は走る。斬撃によって人形は倒れ伏し、消え失せた。


 途端、周囲にいた人形達が警戒を示す。それと共にまとう魔力をさらに増やし、雪斗達を窺うような気配を見せた。


「思考能力が備わっているな……適宜判断して戦うか」

「ユキト、どうする?」

「各個撃破といきたいところだが――」


 狼が迫る。それに対しダインが動き、『次元刀』の効果により相手をすり抜けながら、刃を突き立てた。

 一瞬の早業。刃は狼の全身を駆け抜けると、力をなくし迷宮の床を転がるようにして倒れ伏した。


「こっちは大丈夫そうだな……ただこの場にいる魔物が全てじゃないかもしれないし、数が来る前に潰した方がよくないか?」

「そうだな。なら短期決戦といこうか」


 雪斗は呟くと同時、人形へと走る。相手は警戒はしていたが応じる構えを見せ、双方が激突した。

 人形の腕には刃が握られていたのだが、雪斗は先ほどの盾と同様、刃をものともせず一閃。押し込まれた人形は斬撃を受け、消滅する。


 二体目が迫ってくるが、それも一撃で対処。幾度もこの迷宮で戦い続けた実力が遺憾なく発揮され、多くの魔力を抱える魔物に対しても何ら問題なく対処できている。


「楽勝っぽいな」

「油断はするな、ダイン」


 しかし雪斗は警戒を緩めるどころかさらに強くした。以前の相手であった邪竜は恐ろしいほど狡猾であり、まずはこちらが優勢であることを示した上で戦力を投入するといった手法を用いてきた。

 有利だと判断し突っ込んだ雪斗達を迷宮の奥で蹂躙するような形であり、迷宮へ最初に入り込んだ際はその策にやられ五名が亡くなった。


 以降もさらなる狡猾な策により犠牲者が増えた経験がある――現在の迷宮ではこの第三層まで魔物はおらず、なおかつ魔物の強さも邪竜の時ほどではない。しかし、だからといって今迷宮を支配する者が穏やかな存在だとは思えない。むしろこれは誘い込む罠なのではないか。


「今は階段に結界を張る時間稼ぎだ。それが終わったらすぐに撤退する」

「わかったよ……と、退き始めたな」


 ダインの言葉通り、人形がジリジリと下がっていく。これに対し雪斗は立ち止まり、追わない選択を取った。


「ダイン、突っ込むなよ」

「わかってるさ……さて、後方は――」


 雪斗も一瞬振り返る。人形の力がなければ結界を破壊することはできないようで、階段前に形成したシェリスの結界によって敵は全て阻まれている。そこへディーン卿達の刃が突き刺さり、魔物が一切合切消滅していく。


「順調みたいだな……ユキト、どうする?」

「こちらも少し下がって魔物の様子を窺おう。結界のある場所まで戻ると強引に突破されたら結界破壊に繋がるから、少し距離を置いて待機だ」


 雪斗はそう指示しながら人形を見据え後退。その間に他の魔物が幾度となく襲い掛かってくるが、全て一刀で叩き伏せる。


「腕は完全に取り戻したか?」


 ふいにダインが問い掛ける。それに雪斗は苦笑し、


「できれば使わないまま人生終わりたかったけど」

「それはそうだな……と、敵さんが向かってくるな」


 今度は魔物が突っ込んでくる。雪斗達が下がったことで好機だと感じた様子。


「……向かってくるのなら対処しないと。数は多少いるがあのくらいならどうにかなりそうだな」

「違いないな」


 ダインは同意しながら武器を構える――そうして雪斗達は、魔物達を殲滅し続けた。






 程なくしてシェリスから「上の結界ができた」と報告を受け、雪斗達は二層目に戻ってくる。リュシールと合流して魔物について報告すると、


「邪竜との戦いでは三層目の時点で恐ろしい強さの魔物がいたけれど、今回は違うようね」

「もし同質の敵がいたなら最悪『神降ろし』を使ってでも対処するつもりだったが、とりあえず俺とダインの二人だけで一蹴できるくらいの能力だった」


 地上にいる魔物と比べれば間違いなく強い。しかし、迷宮の魔物――邪竜との戦いを経た雪斗からすれば、ずいぶんと弱い。


「魔物が弱いと油断させて、四層、五層と敵を強くする可能性は十分あるな」

「そうね。ひとまず今回は調査だったわけだし、この下はまた今度にしましょう」


 リュシールはそう語りながら、雪斗に視線を送る。


「ただ、人選が問題よね」

「……聖剣を握る者がいるにしても、まだ経験も少ない。彼女が戦うにしても、迷宮攻略は当面先の話になりそうだが」

「そうね。スイハを介さないにしても、もう少し人手が必要ね……それはアレイスとの戦いが終わってからになるでしょう」

「次に迷宮へ入るのは、まだまだ先の事になりそうだな……よし、それじゃあ戻るとしようか」


 雪斗達は地上へと歩み始める。その後、障害もなく一層目へと戻り、迷宮を出た。


 そして外へ出たと同時、雪斗は体にのしかかる圧迫感が消えたような感覚を抱く。


「やっぱり迷宮は迷宮だな……無意識ながら全身に力が入っていたかもしれない」

「迷宮では厳しい戦いしかなかった。それを体が覚えている以上、当然の話ね」


 リュシールの意見に雪斗は首肯し、


「よし、調査は終了したからジークに報告を――」


 その時だった。一人の兵士が近寄ってくる。


「ユキト様! リュシール様!」


 全速力で向かってくる彼に対し雪斗は不安を抱く。何があったのか。


「ご報告致します。その、来訪者のことで」


 来訪者、とは雪斗を含むクラスメイトの者達。


「どうしたの? 何かトラブルが?」


 返答はリュシールが。言葉を待っていると、兵士は神妙な面持ちで話し始めた。


「皆様、外へ出て都市内を散策していたのですが……その、問題が発生しまして――」


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