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黒白の勇者 ~再召喚された異世界最強~  作者: 陽山純樹
第三章

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第一層

 迷宮入口には門番が多数存在し、様々な手続きを行った上で入口を開けることができる。邪竜が出現する前にはそれほど厳重ではなく、ギルドなどで申請すれば入ることができたらしいのだが、雪斗としては厳重な光景しか見たことがないので、目の前の状況は見慣れたものである。

 リュシールが書状を渡すと、門番は複数人動き始める。大きい鉄扉であるため、全開にするようなことはない。人が数人並んで入れる程度開き、雪斗達を中に入れる。


「魔物がいないとわかっていても」


 扉を見上げながら、ナディは声を発する。


「緊張するわね……前の戦いをはっきりと憶えているからかしら」

「そうだと思うぞ……俺も似たような心境だ」


 雪斗は受け答えしながら開閉準備を眺める。その間に雪斗達を見物していた人々はどこかへ去って行った。


「さすがに魔物がいるとわかっているから逃げるか」

「当然よね。ただまあ、その方がいいと思うけど」

「むしろ野次馬感覚でいなくならない方がまずいでしょう」


 と、これはイーフィスの言。


「それはつまり、危機管理能力が欠如していることに他なりませんから」

「そうだな……さて、開くぞ」


 重い音を響かせ、扉が徐々に開く。それから少しして、中には入れる程度の幅で止まった。


「行きましょう」


 リュシールが声を上げ、先導する形で一行は迷宮へと入って行く。雪斗は日陰になった瞬間、迷宮から発せられる独特の冷たい空気を身に受け、ああ戻ってきてしまったと改めて思う。


 リュシールが明かりを作成し、視界に現われたのは岩肌ばかりが存在する天然の洞窟。迷宮という名称はついているが、『魔紅玉』を安置している場所以外に人工的なものはあまり存在しない。基本的には目の前の情景のように、代わり映えしない岩ばかりの世界が広がっている。

 とはいえ邪竜は多少なりとも改造したらしく、前回の戦いでは国が所持していたマップとは構造が変わっていて四苦八苦していたはず。そのために犠牲者がさらに増えたという面もある。


 全員入ると、徐々に扉が閉まっていく。外へ出るときは魔力を扉に込めて戻ってきたことを知らせるようになっている。


「まずは第一層の探索から……と、その前に第二層へ向かう通路に結界を構築して、安全圏を確保しましょう」


 リュシールの言葉に全員が頷き、歩みを進める。下に行けば行くほど構造が複雑になっていくのだが、第一層は二層へ行くための道は一つしかないし、構造も単純。魔物もいないので、調べるのはおそらく三十分もあれば事足りる。

 雪斗達が奏でる足音以外はピント張り詰めた空気が漂う。程なくして階段に到達。元々は下り坂だったらしいが、岩肌を削って階段状にしている。


「処置を行うから少し待っていて」


 リュシールは座り込み準備を始める。横でイーフィスも手伝い、雪斗達は見守ることにする。


「しかし、気味悪いくらい静かだな」


 やがて口を開いたのは、ディーン卿。


「邪竜との戦いでここへ入ったことはあるが、下層から魔物の声がここからでも聞こえていたな」

「ああ、俺も思い出せる」

「私も」


 雪斗とシェリスが相次いで賛同。そこでナディは階段を見下ろし、


「当然だけど、ロクな思い出がないわね」

「逆に聞くがナディ、この迷宮と関わって良かったと思える記憶はあるのか?」

「……言われてみれば、皆無だったわ」


 やれやれといった様子で返答する彼女。


「邪竜との戦い以前であれば、話は違っていたかもしれないけど」

「迷宮を起点にこの都は発展していたからな……正の歴史も負の歴史も存在する」


 そう語ったのは、ディーン卿。


「良くも悪くもここが世界の中心だった……もっとも、邪竜という事例が出てしまった以上、今回のようなケースでなければ二度と迷宮が復活することはない……と思いたいが――」

「人間の欲望は尽きないからな」

「そうだな」


 雪斗の言葉に同意するディーン卿。仮に今から百年、二百年と経てばまた復活するかもしれない。

 さらに言えば、今回の件で仮に聖剣を握る者がこの世界で確実に顕現するようになったのならば、大丈夫だろうと高をくくるものだって現われるかもしれない。あるいは「邪竜に変化したような存在を出さないように管理すれば良い」と言い出す輩が出てもおかしくない。


「そこは未来の人が決めることだ……俺達がとやかく言える立場じゃないな」


 そう雪斗は述べた後、自嘲的に笑う。


「俺のいる世界だってそうだ。歴史は繰り返す……過ちをまたやってしまうなんて何らおかしい話じゃない」

「どこの世界も人間の業は変わらない、か」

「そうだな」

「――なんだか難しい話をしているようだけど」


 リュシールが立ち上がりながら雪斗達へ告げる。


「少なくとも未来に私はいるだろうから、ひとまずこの迷宮が復活させないよう頑張るわ」

「リュシールもやっぱり否定的な見解か?」

「否定的、というより未来の人へ向け警告といったところかしら……もし人類が滅ぶとしたら、きっと邪竜の時みたいな人の手によって生じた因果だと思うのよね」

「……だろうな」


 雪斗は脳裏に元の世界のことを思い返す。人類は人類を滅ぼしかねない兵器がいくつも存在する。それを使わないよう国々は顔を突き合わせて話をしているわけだが――少なくとも、人類が滅ぶだけのきっかけはあるのだ。


「ともあれ、この迷宮の力……ひいては『魔紅玉』がどれほど恐ろしいものなのかは現代において身をもって知っている。少なくとも五十年くらいは大丈夫かしらね」

「ジークが王として統治しているのなら迷宮復活はあり得ないと思うけど、な」


 彼が欲望に染まり再び迷宮を復活させるなんてことはないと思う、が――


「ま、いい。とにかく今は目先のことだ。結界は張れたのか?」

「ええ、つつがなく。わかっていると思うけど私達は結界を通過して下へ進むことができるけど……どうする?」

「ひとまずこの第一層を確認して、何もなければどうするか検討しよう」


 雪斗の言葉に全員承諾し、歩き始める。そこから部屋を一つ一つ見て回るが、魔物がいないのは当然として、声なども聞こえてこない。


「今回の迷宮はおとなしいな……迷宮の主はまだ力を持っていないのか?」

「迷宮の主によってこの迷宮の表情も変わるのだけれど」


 リュシールは壁面を一瞥しながら言う。


「今回はずいぶんとおとなしいわね……むしろ向こうが穏便に済まそうと考えている風にも感じられる」

「だからといって野放しにはできないけど」

「そうね。これは力を蓄えるための時間稼ぎと考えることもできるからね」


 会話をする間に雪斗達は一通り見回り第二層への階段へと戻ってくる。


「さて、第一層が安全なのは確定した……問題はここからね。どうする?」


 リュシールの問い掛け。一同思案し沈黙し――最初に声を上げたのは、雪斗だった。


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