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黒白の勇者 ~再召喚された異世界最強~  作者: 陽山純樹
第三章

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迷宮前の調査

 程なくして雪斗達は迷宮への入口へと到達する――断崖絶壁の山にまるで埋め込まれるようにして存在する迷宮の門。雪斗としては幾度となく、それこそ飽きるほどに見た景色だった。


「久しぶりに戻ってきて、感想はある?」


 雑談のつもりかリュシールが問う。雪斗はそれに肩をすくめ、


「何も。ああ、ただ戻ってきたんだなと」

「ユキトにとっては悲劇でしかないわね」

「そうかもしれないが、ここに再び来てしまった以上、頑張るさ」

「なんだか気のない返事ねえ」


 そんな評価を下すリュシールに対し雪斗は「どうかな」と答えつつ、門を見据える。

 重厚な鉄製の大扉は、この先が死地であることを暗に物語っている。雪斗もこの光景を最初に目の当たりにした時、その時点で戦闘経験を得ているにも関わらず、思わず尻込みしてしまうほどだった。


 けれど今は違う――ただ複雑な感情が宿っていることは確か。目前の迷宮にある記憶は、どれも凄惨なものばかり、仲間が一人、また一人と倒れ続けた光景が脳裏に蘇り、今度はそんなことをさせないと雪斗は心の中で呟く。


「……それじゃあ、どうする?」

「まずは門の周辺からね。イーフィス、協力してくれる?」

「わかりました」


 リュシールの言葉に従って行動を始める。とはいえ最初は彼女達の出番らしいので、雪斗はもっぱら異常がないかを逐一見張ることくらいだろうか。


『なんだか平和だねえ』


 ディルの声が響く。ただ雪斗はそう思っておらず、


「迷宮の悲惨さは身をもって知ってるだろ? 油断はするなよ」

『はいはい、わかったよ……翠芭とかと一緒に観光する方が良かったかなあ』

「さすがに却下」

『えー、それはトラブル巻き起こすから?』

「正解」


 頭の中でブーブー言い始めるディル。雪斗はそれを無視して周囲を見回す。


 リュシールを始めとした『黒の騎士団』の面々が集まっているためか、遠巻きに雪斗達を眺める人間は多くいる。とはいえ現在迷宮は稼働しており、前回の戦争みたいに魔物が地上に来る可能性はないわけだが――その恐ろしさを知っているため、誰も近寄ってこようとはしない。


「もし近くに来たなら」


 そうした雪斗の視線に気付いたか、ナディが声を上げる。


「サインとか求められるかもしれないわね」

「……俺はともかく、さすがにナディとかシェリスとかは王族だし、そんな無茶は恐れ多くてしないだろ」

「どうかな? 私達は屋敷に結構滞在して町とかも歩き回っていたからね。親近感を持たれている可能性は高いよ」

「それならそうで厄介なことになりそうな気もするが……まあいいや、確かにそんな経緯があるならサインとかねだられそうだな」


 雪斗は他の場所へ視線を移す。ディーン卿やゼルは門を見ながら何やら話を行い、一方でシェリスは雪斗と同じように周囲を見回している。残るダインについては足下にある石を蹴り飛ばしている。暇なのか。


「……場合によっては一層目を調査するって話だが、このメンバーならとりあえずなんとかなるか?」

「聖剣がなくとも今回は切り札もあるし、もしもの場合は大丈夫でしょう」


 ナディの意見。確かに『神降ろし』を使えばまずい状況も打開できそうだが、


「聖剣以外にも切り札ができたのは大きいわね」

「そうだな。今回の聖剣所持者に大きな負担を与えないで済む」

「ちょっとだけ話をしたことがあるけど、頑張らないといけない、って雰囲気を出していたけど」

「真面目な性格っぽいから、そんな風に思うのは仕方のないことだけど、正直俺としてはあまり頑張って欲しくはないかな」

「あんな地獄を見せたくはない、って話か」


 ナディの言葉に雪斗は頷く。


「その気持ちは理解できなくもないけどね……」

「何が言いたい?」

「ごめん、これについては永遠に平行線だと思うからやめとくわ」


 そんな返答を彼女がした矢先、リュシール達が雪斗へ近づいた。


「簡易的なものだけど、調査は終わったわ……結論から言うと一層目付近に魔物の存在は確認できない」

「深部に魔物が集中していると?」

「その可能性は高いだろうけど……地上から観測できる範囲からは、そもそも魔物が非常に少ないようね」

「新たな迷宮の主は、やる気がないってことか」

「それとも門が閉まっているから、余計な力を使いたくないのか」


 ではどうするべきか――雪斗がリュシールへ視線を送り続けると、彼女はさらに述べる。


「これなら一層目に結界とか張って、迷宮を少しばかり攻略するのも悪くないかもしれないわね」


 ――迷宮攻略をする場合、当然ながら一層目を制圧したからといって放置すればまた魔物が蹂躙する。それを防ぐために結界を構築し、魔物が一層目に侵入できないような処置を施していた。そうやって安全圏を少しずつ確保し、雪斗達は迷宮を攻略したのだ。


「けど一層目に魔物がいないのなら、やる意味ってあるのか?」


 そういう雪斗の疑問に対し、リュシールは微笑みを浮かべ、


「ないことはないわよ。というより魔物がいない今のうちに安全圏を確保しておけば……それこそ迷宮内の調査も捗るからね」

「そっか……なら早速動くのか?」

「問題はそこね。一応迷宮内への入場については私やユキトが協議した上でなら、ということになっているけれど」


 リュシールは門を見据えながら語る。


 ――現状、彼女の魔法による調査ならばほぼ間違いないため、一層目に魔物がいないのは事実だろう。ならばさっさと安全圏を確保しておけば後々攻略の際に楽になるのは事実。


「ユキトはどうした方がいいと思う?」


 彼女の問いに雪斗は押し黙る。どうするべきか――


「さすがにそこまで警戒する必要はないんじゃない?」


 そんな声を発したのは、ナディだった。


「迷宮の構造的にも、魔法以外で物理的に一層目に罠が設置されている可能性はないって聞いたことがあるし、邪竜みたいに落とし穴みたいな罠が作られているにしても、確か三層目くらいからでしょ?」


 ――迷宮内の構造については、マッピングを含めて全て完了している。邪竜により多少変わった部分もあったが、それでも大規模な地殻変動でもない限り一層目から迷宮構造が変化することはない。


「だからまあ、偵察がてら一層目くらい調べてもいいんじゃないかしら」

「……どちらにせよ、遅かれ早かれやらなきゃいけないことだからな」


 雪斗は小さく息を吐く。それによりリュシールも頷き、


「そうね。ならば……行くとしましょうか」


 その言葉に全員が頷く。そこから雪斗は門番へ通達し――いよいよ、迷宮の門へと近づいていった。


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