トラブル
そうして城の人達が準備を進め――とうとう観光を行うその日、クラスメイト達が準備を進める中で雪斗だけはリュシールと行動を開始した。
「まずは屋敷ね」
「ああ」
城を出て雪斗達はシェリスやナディが待つ屋敷へ向かう。雪斗にとっては辿り慣れた道。時折フレンドリーに町の人に声を掛けられながら、その場所に到着した。
庭園もある小綺麗な屋敷。それを見て雪斗は一度ため息をつく。するとリュシールが、
「どうしたの?」
「思い出したんだよ……あの屋敷の中で起きた日々を」
一言で表すならば、戦場であった。王族同士が手を組み、戦う――必要に迫られたことであったし、雪斗も理解はできた。けれど国同士で利害関係が錯綜する中、そうした面々の子息子女が一堂に会し暮らすとなると、トラブルばかり続いた。
レーネは『黒の騎士団』発足後、この屋敷で王族達について対応することになったのだが、あの職務忠実で、大変有能な彼女が二日で「担当を変えてくれ」とジーク王に直談判するほどだったので、どういう状況だったのかは察せられる。というか真面目な話、彼らをきちんと統制できるのは雪斗だけだった。
なので、雪斗は屋敷の面々をどうにか抑えつける(ついでに逃げようとしたレーネの首根っこをつかんで)ことにしたのだが、それこそおとなしくなるまでは戦いどころではなかった。
およそ十日ほどで騒動が収束し、以降は比較的穏やかになったのだが――レーネが根を上げるのも理解できた。そのことを思い出すと、
「ああ、迷宮攻略とはまったく違う修羅場があったよなあ……」
「ユキト、瞳の光が消えているわよ」
指摘に雪斗は口の端を歪めて無理矢理笑うことしかできなかった。
ともかく、以前と比べれば人数も少ないし、幸いながら以前騎士団に所属していたメンバーばかりなので、確執はないだろう――そう思いながら屋敷の扉を開けると、
「…………おい」
早速声を上げた。なぜかエントランスで、シェリスとナディが戦闘態勢に入りながらにらみ合っていた。
「お前ら……早速これかよ……」
「勘違いしないで、ユキト」
と、最初に口を開いたのはナディ。
「これは必要なことなのよ。この屋敷で再び過ごすことになる以上、決めておくべきことはあるでしょう?」
「そのセリフ……以前この屋敷にいた時に何度聞いたことか……」
「歴史は繰り返されるのね」
リュシールは頬に手を当て呟く。それに対し雪斗は隠す気力もなく深いため息を吐いた。
「……それで、内容は?」
「今日の夕食のメインを牛にするか鶏にするか」
「以前も聞いたことがあるわ! お前ら、その話題でこうやっていがみ合ったの何度目だよ!」
思わず叫ぶがナディ達が対峙する状況は一切変わらない。
王族なので自分の意見をグイグイ押すような形が多かった結果、常に小さいことで衝突していた。最終的に雪斗が先頭に立ってどうにか収めたのだが、胃に穴が空くような感覚を抱いたのは一度や二度ではない。
「あのな、ただでさえ色々と大変な状況なんだからもう勘弁してくれ……」
「根を上げ始めたわね、ユキト」
「当たり前だろ……」
リュシールの指摘にがっくりうなだれながら力なく返答する。
「はあ、とりあえず今日のところはどっちも出すってことで俺が交渉しておくから矛を収めてくれ」
「……わかった」
シェリスが同意。彼女が矛を収めたのでナディも「いいわ」と構えを解いた。
「本題に入る前に疲れた……」
「大変ね、ユキト」
「人ごとみたいな感じで言うの止めてくれよ、リュシール……いや、外野から見ていたら面白いのかもしれないけどさ」
「そうね」
「……さすが天神。皮肉が効いているな」
そんな言葉も当の彼女には何ら効果が無い様子。それに対し雪斗は大げさにため息をついた後、ナディに質問。
「とりあえず会議室に。イーフィスは?」
「部屋にいるわ。ダインやディーン卿も部屋だから、私が呼んでくるわ。迷宮調査の件よね?」
「ああ、そうだ。このメンバーなら迷宮の第一層くらいは足を踏み入れても問題ないかもしれないけど……どうするかは現地で調べて判断するぞ」
雪斗の言葉にシェリスは「了解」と返事をしてこの場を去る。一方で残ったシェリスは少し間を置いた後、
「そういえばイーフィスは豚がいいと言っていたけど」
「……こっちが責任を持って話をしておく」
頭が痛くなりそうになりながら、雪斗はそう答えるしかなかった。
気を取り直して雪斗は屋敷の会議室を訪れる。この場にいるのは雪斗とリュシールはもちろんのこと、先ほど対峙していたシェリス、ナディに加えイーフィス、ダイン、そしてディーン卿とゼル。
「では、始めましょうか……迷宮調査について」
リュシールが話し始める。ちなみに会議室で席もあるのだが、今から調査に向かうためか全員立って話を聞く。
「現時点でわかっていることは、少なくとも迷宮内から魔物が出ていることはない……くらいかしら。迷宮を調べる機会はあったけれど、アレイスのことを優先してここまで触れることはなかった。迷宮から魔物が出てこない限りは無害だからね」
「何も情報はないの?」
問い掛けたのはシェリス。リュシールは頷き、
「ええ、現在の迷宮支配者は誰なのかを含め、調査はしていないわ。それをアレイスの監視態勢が確立し始めた現段階でやるわけね」
「迷宮調査の手順を整理しておこうか」
そして雪斗が口を開く。
「調査としてはまず、リュシールが魔法により迷宮を調べる。門を閉じておけば反応する可能性は低いだろうけど、もし迷宮内の魔物が反応したら、俺達が対処する」
「さすがに迷宮の門を破壊するようなことにはならないわよね?」
確認するようなナディの問い。それについては大丈夫だとリュシールが頷き、
「もしそういう存在が出ても、ユキトなら大丈夫でしょう」
「俺頼みかよ……まあいいけどさ」
雪斗の返答に仲間達は笑う。さらに言えばナディが茶化すように「期待してる」と告げる。そこでリュシールは全員を一瞥し、
「場合によっては迷宮内に踏み込むことになる……今回全員で向かうことになるけれど、そう無茶はしないから安心して。それじゃあ全員準備も整っているようだし、行きましょうか」
言葉と共に全員が動き始める。屋敷を出て迷宮へと向かう。
その様子は町の住人にとっても注目の的。とはいえ過去様々な王族がいたため慣れている面もある。問題はなく進む。
(……今頃、クラスメイトも動いているか)
そうした中で雪斗は心の中で思う。何もトラブルがないように――そんな祈りを抱きながら、迷宮へと歩み続けた。




