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黒白の勇者 ~再召喚された異世界最強~  作者: 陽山純樹
第三章

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ある部屋の会話

 雪斗達がそれぞれ思いに耽っている間、他の者達は――つまり彼らのクラスメイトは、どのような考えだったのか。

 翠芭などからすれば、突如召喚され城に襲撃もあった。命を脅かされるような事態に発展している以上、相当なストレスが溜まっていると考えた。だからこそ今回色々と企画したのだが――


「ずいぶんと気を遣っている感じなんだよなあ」


 城のとある一室。そこで男女が話し込んでいた。一方は窓の外を見ながらだるそうな目を見せる男子生徒。顔立ちは一言で表すならば「濃い」と表現されるもので、太い眉などが特徴的。

 一方の女子生徒はショートカットのハツラツとした印象を与える人物。陸上部であるためか体も引き締まっており、今回召喚された女性陣の中で身体能力はトップの人物。


「気を遣っているって、どういうことよ?」


 二人がこうして話しているのは、両者がクラス内でよくつるんでいた――より詳しく言えば幼馴染み同士であるためだ。男子生徒の名は岡市(おかいち)大和(やまと)。女子生徒の名は府山(ふやま)泉美(いずみ)。幼稚園からの腐れ縁という関係で、時には「付き合っているんだろ」とはやし立てられるくらいの間柄なのだが、両者にとっては「幼馴染み」としか言えないような関係だった。


「前の襲撃……といってもほら、俺達は正直部屋に隠れて避難していただけで、気付いたら終わっていたレベルだったからあんまり自覚はなかっただろ? けど城の人からしたらそれは衝撃的だったみたいで、俺達のこともずいぶんと気に掛けている」

「召喚された人達を守らないと……って話?」

「それもあるだろうけど、一番の理由は戦っている面々に余計な心配を掛けさせないように……といった感じかな」


 雪斗に翠芭(すいは)――大和は翠芭が覚醒した現場にもいなかった上に、襲撃の際もただ閉じこもっていただけだった。よって彼らが戦っているという事実そのものを見たことがないため、どこか現実味がなかった。


 それはクラスメイトの大半もそうだった。翠芭が覚醒するきっかけになった宝物庫を訪れた件に関わったクラスメイトは戦いや霊具の一端を知っているが、それを知らない大和達のような面々にとっては、現状は「なんだかよくわからないけど異世界にやって来た」という状況でしかない。


「私達も戦った方がいいのかな……」


 そんな呟きが泉美からもたらされる。ただ大和は頭をかき、


「どうだろう。他にも戦う意思を示したクラスメイトが現われたけど、それ以降はやると言っている人はいないんだよな」


 ただそれは、例えば「戦うのが怖い」という理由ではない。どうすればいいのか――召喚され日数経過しているが、まだ迷っている。

 そうした中で戦う意思を示した人物については、それなりに理由があるのだろう。翠芭は必要に迫られて。貴臣(たかおみ)は彼女に追随し、信人(のぶと)は半ば事故ではあるが霊具を持ったことで戦う道を選択した。友人の影響を受け千彰(ちあき)が武器を手に取り、花音(かの)は――唯一大和にも理由がわからない。


(とはいえ、俺達の知らないところで何かあったのかもしれないし)


 偶然などの要素があるとはいえ、彼らは雪斗と共に戦うと決心した。残るクラスメイト達はどうすればいいのか――悩んでいる者もいるだろうが、ここでさらに戦おうとする人が現われない理由が存在する。


「霊具、だっけ? それを手にした人は、あんまり顔を合わせなくなったよね」


 泉美の指摘に大和は頷いた。


 無論、それはクラスメイトを邪険に扱おうという理由などでは決してない。戦う意思を示したため、霊具の鍛錬をしなければならないのが主な理由。

 だがその要因によって、結果的にクラスメイトから遠ざかることになり――また霊具所持者となったクラスメイトは「自分が守らなければ」という意思が宿り、無理に戦わせないよう配慮するのか、クラスメイトと顔を合わせても霊具などのことについては話さないようにしている。


 よって、現在大和達は霊具から遠い場所にいる。加え、


「さっき城の人が気を遣っていると言ったけど、俺達に余計な負担を負わせないようする……で、霊具の話題なんかを意図的に省いているっぽいんだよな」


 こうして会話をする前に大和はこの城にいる侍女に話し掛け、霊具について聞いてみた。もちろん一介の侍女がそうした情報を持っているとは考えにくかったのだが、どういう反応をするのか気になったのだ。

 結果としてははぐらかされたのだが、その言葉には召喚者達に対し「無理矢理戦わせないようにする」ための配慮が見え隠れている――ような気がした。


「たぶんだけど、俺達に戦って欲しいと思っている人間だっているはずだよ。でも俺達に関わる人達はそういうことを話さない」

「つまり、意図的に王様とかが遠ざけているってこと?」

「そういうこと。そう考えるとずいぶん過保護……いやまあ、国の人達からすれば下手な行動を起こさないようにするための処置かもしれないが」


 悪い言い方をすれば腫れ物に触るような接し方だろうか。大和はそうした事柄について不快とは思っていない。ただ、


「このまま今みたいな形は長くは続かないと思うんだよな……で、そのきっかけが今回の観光なんじゃないかと思う」

「町の外を見物するって話かあ……」


 泉美は窓の外から町を眺める。それなりに高層にある建物なので、綺麗な町並が見える。


「城に押し込められてストレス溜まってるだろうから、ってことで企画されたみたいだけど……」

「俺はそんな感じでもないけどね。泉美は?」

「私も同じく。でもそういう子がいるのも事実だと思う」


 大和の記憶では男子にそういう者はいないはずだが、女子にはいるのかもしれない。


「町を見て回るのは、この世界がどういう場所なのかを知る良いきっかけになるかもしれないけど……」

「けど?」

「なんだか嫌な予感がするのよね」


 ――幼馴染みという間柄である大和には、こういう泉美の言動を幾度も見たことがあった。そして彼女の勘が不思議と当たることも、よく知っていた。


「ちなみに何が起こるんだ?」

「私に聞かれても……ただ注意しておいた方がいい子はいるかな」

「例えば……と、言わなくても一人想像できる」


 クラスメイトの中には、天然で何を考えているのかわからない者もいる。泉美も同じ人物を想像したようで、


「私達は戦う手段とかないけど……そうだね、あの子に注意を向けて、トラブルが起きないようにするとか、そのくらいはしないとね」

「そうだな」


 同意する大和。それと同時に自分もまたできることはないか――彼もまたそんな風に考え始めた。


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