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黒白の勇者 ~再召喚された異世界最強~  作者: 陽山純樹
第三章

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我慢の時

 翠芭達がクラスメイトのことで話をしている間に、雪斗はリュシールと作戦会議を開いていた。


「予定通り騎士団が復活する方向で話を進めているけれど」

「俺が拒否しても止まらないだろうから、もうそれでいいよ」


 諦めの境地に至り雪斗が返答すると、リュシールはクスリと笑う。


「なら遠慮無くそうさせてもらうから。シェリスを始めとした面々は以前暮らしていた屋敷に押し込めたわ」

「それが無難な選択だろうな……で、クラスメイトの気分転換のために町を案内することになったけど、俺は?」

「あなたは別行動だとジークから言い渡されているわよ」

「何をすればいいんだ?」


 身構えると彼女は小さく笑い、


「といってもそう気合いを入れる必要はないわよ。迷宮の調査に協力して欲しい」


 調査――迷宮絡みと聞けば自然と雪斗の体に力も入るのだが、


「だから大丈夫だって。今回はあくまで外部からの魔力調査と、可能であれば一層目の調査に留めるから」

「……迷宮の支配者が罠を設置していてもおかしくないだろ?」


 雪斗の意見にリュシールは首肯し、


「ええ、けどそういう状況が外部からわかれば、速やかに撤退することにする」

「無理はしないと」

「そういうことね」


 ――現在、願いを叶える『魔紅玉』が眠る迷宮には新たな支配者が存在し『魔紅玉』を守っている。王であるジークは代替手段による帰還を提案したが、今後同じように召喚者を出さないためには、この世界に聖剣を所持する者を生み出すことが必要であり、以前ジークと話し合ったことを成し遂げて帰還した方がいいような状況ではある。


 グリークが死亡したため固執する必要性がなくなったのは事実だが、前回雪斗が召喚された町の惨状を二度と繰り返さないためには、どうしたって迷宮攻略をしたい――ただそれには翠芭他、霊具を所持する面々の助力も必要となる。


「アレイスとの戦いに一定の決着を付けたら、間違いなく迷宮攻略にシフトする」


 そう述べたリュシールは、雪斗の目を真っ直ぐ見据えた。


「事前に準備をしていれば、攻略も円滑に進む……」

「アレイスのことについてはいいのか?」

「各国も連携して対応を始めているし、私だって外に出るけれど……都にいる時は迷宮について調べることにするつもり」

「そっか」


 彼女が決めた以上、雪斗も否定する気はなかった。


「その調査についてはシェリス達も?」

「そうね。シェリスとの戦いに加わってくれた面々は都に残ってくれるみたいだし……ディーン卿もなんだかんだでいるようだから、協力してもらいましょう」

「領地は大丈夫なのかな……」

「そこは私達が心配しても仕方がないわ。ディーン卿だって自分で判断できるわけだし」

「それもそうか」


 よって、彼も迷宮調査に参加――その準備などはリュシールが担うことになったので、雪斗はその間は暇することに。


「俺はどうしようか」

「あなたのクラスメイトのことについてはレーネがやるみたいだし、少しばかり休憩したらどう? というより、そうするために私が準備をするって言っているのだけれど」

「いいのか?」

「むしろ今まで働き過ぎなのよ」


 彼女の指摘に雪斗はそうかな、と内心思ったのだが――そもそも休む休まないの基準が前回の戦争なので、感覚がおかしいのかもしれない。


 前回の戦いはそれこそ修羅場の連続だった。体の休まる日はほとんどなく、一日一日と戦い抜かなければ邪竜により滅ぼされていた。誰もが必死になり、雪斗もまた例外ではなかった。

 けど今回はアレイスによる謀略があるにしろ、邪竜に大陸が制圧されかかっているわけではない。よって状況的に余裕があるのも事実。前回とのそのギャップによって、雪斗としてはどう対応していいのか――


「だからそんなに力を入れなくてもいいのに」


 リュシールが笑う。気付けば雪斗自身、自覚するくらい肩に力が入っていた。


「休息を、と言っているにもかかわらずそれだと、先が思いやられるわね」

「……それこそ前の戦争は、休む暇もなかったほどだ。あれを思い出したらいいのかなと思ってしまうんだけど」

「この世界において、ユキトはあまり良い思い出がないから不安になるのはわかるけど、ひとまず休んでいいわよ。それと、私達のことをもう少し信じてもらえれば」


 その言葉に対し、雪斗はようやく頷く――他ならぬ天神の言葉なのだ。信用する他ない。


「もし何かあればすぐに連絡して欲しい」

「ええもちろん。何かあればすぐにでも頑張ってもらうから」


 そうしたやり取りを成した後、雪斗は部屋を出て自室に戻る。窓を開け外を眺め、平和な世界を眼下に眺める。


「とはいえ、アレイスがやろうとしていることは……」


 それがわからない以上、不安は常につきまとう。大陸全体がアレイスの存在に警戒し始めている現状ではさすがに大っぴらに動くことは難しい。しかし彼はそれを踏まえているはずであり――


「まあ、俺が気にしてもどうしようもないって部分もあるけどな」


 例えば大軍勢をアレイスが用意していたとしても、対抗するために軍を動かすことができるのはジークなどの政治を動かせる人間だけ。雪斗自身そうした権限はないし、彼らの考えに従うしかない。


「俺にできることは、騒動が起きた時にすぐさま急行して犠牲を出さないよう頑張ること……か」


 それは前回の戦いでも同じだった――ただ前の戦いはそれこそ、大陸各地で騒動が巻き起こり、一人では対応しきれなかった。しかし今回は違う。


「……リュシールの言う通り、休んでおくか」


 懸念としては、アレイスがどのタイミングで仕掛けてくるのかわからないこと。リュシールとしては彼が動き出したタイミングでどう対応するか――そしてその時雪斗が満身創痍では話にならない。

 また、前回のようにクラスメイト全員が戦いにいけるわけでもない。しかも翠芭を始め霊具を握る面々だって戦闘経験は浅く、まだまだ戦力としては数えるべきではない。


「翠芭達に言ったら怒るかもしれないけど、な……」


 ともあれここは辛抱強く待たなければならない。仮に今後霊具を扱える面々が強くなったら状況は劇的に変わる。時間が経てば経つほど相手だって有利になるかもしれないが、それはこちらも同じ事。


「今は、我慢の時か……」


 雪斗にとっても、あるいはアレイスにとっても――そんなことを思いながら、雪斗は外を眺め続けた。


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