クラスメイト
アレイスとの戦いは小康状態に入った――それと共に、雪斗達にとっては大きな問題が生まれる。それはクラスメイトのこと。
霊具を所持した者達は問題ない。けれど戦う意思のない者達――彼らはずっと城に押し込められ不満もあるはず。なおかつディーン卿の騒動などもあってストレスも感じていることだろう。これを是正しなければまずいという結論に達した。
「護衛付きではあるが、町を見学して回れば少しはストレス軽減に繋がるだろう」
そうレーネは主張し、翠芭もまたこれに同意した。
場所は城の一室。雪斗が戻り改めて話し合いを行い――数日後に、見学について実行に移そうという段取りとなった。そして翠芭はレーネと顔を突き合わせて話し合うことに。ちなみに雪斗を含め他のクラスメイトはいない。
「案内についてはこちらも経験があるから問題はない」
「あの、私達はどうすれば?」
翠芭が声を上げる。そこでレーネは微笑を浮かべ、
「スイハを始め、戦う面々も町については知識がないだろう? 一緒に案内を受けてもらえばいいさ……そうだな、シュウガクリョコウの体で考えればいい」
「修学旅行?」
聞き返した翠芭に対しレーネは「そうだ」と返事をする。
「前に案内を受けていた面々がそんな感じだと言葉を口にしていた。以前は不慣れな部分もあったが、今回はきちんとできるだろう」
「前の経験が生かされて、か」
翠芭は思わず苦笑する――そんな経験を二度もあるとは、理不尽にもほどがあるとさえ思ってしまう。
「ちなみにユキトは?」
「リュシール様に何やら考えがあるらしいから今回は別行動だな。もしいるのなら案内の手伝いをお願いしようかと思ったが……ま、仕方がない」
そう告げた後、レーネは居住まいを正して翠芭達へ依頼する。
「それと、霊具を手にしている者達が班長となって、行動して欲しい」
さらなるレーネの提案。それに対し翠芭は、
「班長、ですか?」
「霊具を所持する者がとりまとめてもらった方が、私としてはありがたい。不測の事態が生じても、どうにか対応することができるだろう」
不測の事態――それがどういうものなのかと緊張と伴いながら尋ねようとしたら、
「ああ、不測というのは単に召喚した面々が班を離れどこかに行ってしまったとか、そういうことだ」
「ああ、なるほど」
そういうことなら納得できる。
「一応地図などは配布するが、土地勘などがない以上は迷うだろう? 誰かがフラフラと路地に入ってしまうといった可能性も否定できない以上、そういうケースに備え対応できる態勢を整えておきたいのだ」
これが修学旅行などと同じノリならば、レーネの言及については深く理解できる。翠芭の頭の中で彼女の言う通り「フラフラとどこかへ行ってしまう」クラスメイトについて、心当たりがある。
「この見学そのものは安全であることは、きちんと言い含め不安を取り除いてくれればいい。それとスイハ、君も楽しんでくるといいさ」
「はい、わかりました」
生真面目に頷く翠芭。それにレーネは笑いながら「頼む」と一言添えた。
「さて、私はもう少し準備に勤しむとしよう……スイハも班長とはいえ、ゆっくり待っているといいさ」
そうしてレーネは部屋を去る。その後、翠芭は少しの間部屋の中でこれからのことを頭の中で整理し、部屋を出た。
廊下を歩んでいると貴臣と遭遇。今後のことについて言及すると彼もまた聞き及んでいるようで、
「班を編制して動くみたいだけど、危険は皆無のようだし特に問題はないと思うけど」
「そうだね……クラスの皆の様子はどうかな?」
「レーネさんが語るほど憔悴しているというわけじゃないけど、城に押し込められてから襲撃もあったからな……少なからずストレスを溜め込んでいるのは事実だと思う」
貴臣の言葉に対し翠芭は頷きつつ、
「ただ、あまり話そうとはしないよね……」
「僕達が戦っていることも考慮して、内に溜め込んでいるみたいだね。こちらに心配をかけまいとしているようだけど、だからといって放置するわけにもいかない」
レーネ達が懸念する「ストレスの爆発」はまだまだ先であるように思える。ただし、大なり小なり不満を抱えているのは間違いないだろう。
衣食住に問題はないので、表面上トラブルは発生していない。ただ、翠芭としては懸念がいくつかあって、
「例えばさ、私達が霊具を手にして戦っている状況から、この世界の人々が他の人にも……と言及してもおかしくないよね」
「そこはレーネさんも気を遣っているみたいで、どうやらそう言う人を意図的に遠ざけている節はあるな」
そう貴臣は考察する。
「僕達の周りにいる人間は、雪斗の負担を減らそうと考え、また彼の考えに従って行動する人が多い……だから雪斗の考えである『無理強いしたくない』という意向には沿っているし、その考えに従う人が周辺にいるようだ」
「でも、町へ行くとしたら……」
「そこは僕もレーネさんに言ったんだ。結果、事前にそういう輩もいるが気にするなと告げるよう言うことで対処すると語っていた。もっとも、それでクラスメイトの負い目が消えることはないと思うけど」
貴臣の言葉に翠芭は俯く。
クラスメイトが翠芭達の戦う姿を見てどう思うのかは、まったくわからない。彼らも喋ろうとしていないため、ここに不安要素がある。
「私達が悩みを解決しようにも、たぶん躊躇うだろうね……」
「戦いをやっている上に、クラスメイトのケアをする……というのは、さすがに背負わせすぎだろうって考えになるだろうな。だから話さず不満も全部押し殺している……」
「私達が打ち明けていいよねって言っても、たぶん答えないよね……」
翠芭と貴臣は互いに目を合わせて小さくため息をつく。
そもそも翠芭達だって雪斗に負い目を持っている。特に翠芭は聖剣を手にしているにもかかわらず、存分に扱えていないことが――
「……ともかく、僕らはできる限りのことをするしかない」
翠芭の心情を読み解くように、貴臣は口を開く。
「クラスメイトのことについては、この世界の人達でどうにもできない点も多いからさ」
「そうだね」
頷く翠芭。そうして二人は一緒にクラスメイトの所へ向かうことにした。
それと同時に翠芭は思う――彼らのことは今まで後に回してきた部分もある。しかしいずれ向かい合わなければならない。
今回の件で良い結果になるかどうか――翠芭としては最大限の努力をしながら、また祈るような気持ちも抱いていた。




