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黒白の勇者 ~再召喚された異世界最強~  作者: 陽山純樹
第二章

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次に成すべきこと

 戦いを終え、雪斗は戦場近くの野営地で一泊することになった。シェリスを救った以上この戦場で何かが起こるとは考えにくいが、イーフィスが魔力調査などを行い、念のためさらなる敵に備え警戒することにした。

 けれど魔物がいなくなった平原で変化は起きず――翌朝、帰るべく雪斗は準備をしていた。


 そこに来訪者――リュシールの姿が。


「お疲れ様、ユキト」

「リュシール……アレイスの動向は?」

「完全に行方をくらませたわ。もしかするとどこかに引きこもって動いていないのかもしれない」


 彼女の言及に雪斗は「そうか」と答え、


「とはいえリュシールが動かなくなったらアレイスも反応はするだろ。まだ色々動き回ってもらわないと」

「そうね……けれど私も一度都には帰るつもりよ。一緒に行きましょう」

「そうだな……ちなみにナディとかはついてくる気満々みたいなんだけど」

「別にいいのではないかしら?」


 と、リュシールの言葉はずいぶんとあっさりとしたもの。


「それに、ユキトと関わらなくとも彼女達は戦うことになるでしょう。それならいっそのこと共に戦う道を選んだ方がいいと思うわ。知らないところで死んだりしたらユキトとしても寝覚めが悪いでしょう?」

「それはそうだけど……」

「状況も状況だから、ユキトの下に全員を集めて行動した方が事件解決だって早いかもしれないわ」


 そう言われると雪斗としては黙る他なかった。


「ともあれ、ナディ達をどうするかは国々とも話をしなければならないから、これは都に帰ってからね」

「そうだな……アレイス捜索は続けるとして、問題は今後シェリスのような人を出さないための処置が必要だな」

「それについては既に手を打ってあるわ」

「何か策があったのか?」


 雪斗の問いにリュシールは口元に手を当て、


「今回の出来事は事前に仕込みがいる。ただそれは罠に掛けてから魔神の魔力が意識を乗っ取るまでに時間が必要になる」

「魔神の魔力は体内で力を高めないと操れない、とでも言いたいのか?」

「おおよそそういう解釈で構わないわ。つまり魔神に乗っ取られるには時間を要する」

「アレイスがどれだけ仕込みをしていたか、というのがよくわかる話だな」


 雪斗の言及にリュシールは頷き、


「けれど、表層に出ていない魔神の魔力ならば単なる浄化魔法で対処できるはずよ。というわけで既に各国に通達はしておいた」

「ひとまず被害が拡大する危険性は低くなったかな……なら俺はどうすればいい?」

「アレイスの動向を追うためにこちらは尽力するから、ユキトは決戦に備えて準備をしていてほしいかな」


 言った後、リュシールは笑った。


「状況は改善されているし、私が動いていればアレイスが派手に動き回って大陸を蹂躙することもない。当面は小康状態になると思う」

「そうだな……クラスメイトのことを心配するべきか」

「そうね。ディーン卿の一件もあるし、もしかするとまた霊具を持ちたいと願う人だって出てくるかもしれない。その辺り、一度ユキトの方も注意するといいかもしれないわ」

「そうだな」


 彼女の助言に雪斗は従うことにして――


「そういえばナディ達は騎士団再始動とか言っていたけど」」

「あら、それでいいんじゃない?」

「ナディ達にも言ったけど、黒の騎士団は一度解散しているはずなんだけど……」

「ユキトが勝手にそう思っているだけでしょう。もし解散というのなら新たに名称を創って設立すればいいだけの話ね。黒白の騎士団とでもする?」

「それ、ナディにも言われたよ……」


 雪斗はただただ疲れた声をこぼした。



 * * *



 雪斗達の戦勝報告が翠芭達の耳に届いたのはシェリスとの戦いから一日経過した時。レーネはほっと胸をなで下ろした様子で、その事実を受け止めていた。


「幸いシェリス様も無事だった様子……ユキトに感謝だな。それと町中に屋敷の用意をしないと」

「屋敷、ですか?」


 翠芭(すいは)が聞き返すとレーネは苦笑し、


「シェリス様含め、黒の騎士団に所属していた方々はおそらくユキトと共に戦うつもりでいるだろうからな。以前使っていた屋敷をもう一度あてがうとしよう」

「とすると、雪斗は……」

「いや、彼は城にいてもらう。シェリス様達が城の外にいるのは、王族という立ち位置もあるため、ずっとこの城にいてもらうことが難しいためだ。政治的な意味合いだな」

「なるほど……それで私達は今後――」

「これまでと変わらぬ形で鍛錬に励めばいい。急ぐ必要もないし、焦る必要もない」


 そう述べたレーネは一度咳払いをして、


「ただ今後君達のクラスメイトが霊具を持ちたいと言い出すかもしれない。そうなったらユキトが対応するかもしれないが、彼の負担を軽減するためにスイハ達も動いて欲しい」

「もちろんです」


 翠芭は大きく頷き同意。そしてレーネは、


「当面、アレイスの動きを追うことに終始だろうし、各国も警戒するだろうから今回のような大事に至る可能性は低いだろう。ただ私としてはスイハ達についても注意を払うべきだと思っている」

「私達が狙われる、ですか……」

「アレイスがユキトと戦う際、一番の弱点は君達召喚者であることは、はっきりわかっているはずだ。城内にいれば安心だろうが、滞在期間が長くなれば不満も溜まるだろう。本当ならアレイスの罠に備え色々と干渉したいところだが、それをやればさらに君達が不満を抱く」

「難しいですね……」

「そうだな。今後はそういったことについても考えていかなければならない」


 ――そこについては自分の役目だと、翠芭は強く思う。


 聖剣を握り実戦経験も重ねた。けれどまだ雪斗と共に戦えるようには至っていない。そうなるまでには今以上に鍛練を重ねる必要があるし、なおかつここからはクラスメイト同士で問題が生じるかもしれない。

 雪斗にそういう負担を掛けたくない――そういう気持ちが強くなった。


「スイハも、無理はするなよ」


 レーネの助言。翠芭は「はい」と返事をしながら、もっと頑張らなければ――そういう強い気持ちが芽生え始めていた。


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