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黒白の勇者 ~再召喚された異世界最強~  作者: 陽山純樹
第二章

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刹那の攻防

 雪斗の行動が呼び水となり、後方にいたナディとイーフィスが動き出す。それにシェリスもまた反応したが――雪斗が抑えているためか視線を向けただけ。

 もっとも、警戒度合いは相当低い様子であり――だからこそ、ナディは駆ける。それにシェリスは自身の体にまとう魔力を増やすことで応じた。


 先ほどの攻防でナディの力量は理解し、魔力量を増やせば攻撃は一切食らわないという考え。それは間違いなく合っている。だがダメージを受けないことが全てでは決してない。

 ナディが横から仕掛ける。構図は戦闘開始直後のやり取りとほぼ同じ。とはいえシェリスは無視した。


 けれど、


「――私は確かにこの場では弱い」


 ナディが言う。そのセリフに反し、顔には不敵が笑みが。


「けれどだからといってそこまで舐めるのは、油断のしすぎじゃないかしら?」


 彼女の渾身の拳が、シェリスの肩に入った。直後、ダメージが皆無であるはずの彼女が、顔を歪ませた。


「な……」

「最大の敗因は、私だって邪竜の戦いから成長したってところよ」


 ナディは告げながらさらなる攻撃を放とうとする。そこに至りシェリスは軸足を後方へ移そうとする。

 策があるわけでもなく、明確な退却――だが雪斗がそれを阻む。シェリスはそれでもなお体勢を整えるべく下がろうとしたが、それよりも先に次の拳がシェリスへと直撃した。


「力を……限界まで注いだのか!」


 シェリスがナディのやっていることを理解し、叫んだ。


 彼女の言う通り、ナディの攻撃は拳に極限まで魔力を高めたもの。当然そこに力を集中させたら防御がおろそかになるが、シェリスの視界からナディは無視され、消えていた。攻撃される危険性もなく、ナディはだからこそ遠慮のない一撃を加えることができたというわけだ。


 ここでようやくシェリスが引き下がり、虎口を脱したかに見えた。しかしそれに追撃を行ったのは、雪斗。

 しかも、それは――今までとは異質なもの。なぜなら雪斗の手にはリュシールが用意した魔法道具が握られていたためだ。


 シェリスもどうなるのか知らなくとも、異常事態だと悟ったらしく、雪斗を見据え防御の構えをとった。

 そこで雪斗は力を発動する。その体が白く染まり、魔神をも滅することができる姿へと変貌する。


(ここからは短期決戦だ……!)


 賽は投げられた。そう思うと同時にシェリスはその姿に目を見開き、


「――それが、私を救う力?」

「ああ、そうだ」


 雪斗が迫ろうとする。力を溜め、シェリスが持つ魔神の力を消し去るべく疾駆する。それと同時、ナディもまた併走しシェリスへと肉薄する。

 イーフィスはまだ動かない――シェリスも彼には多少警戒はしただろうが、雪斗の存在を最重要と見なしたか、すぐさま視線を戻した。


 彼女は杖先などではなく、両腕に魔力を集める。次の瞬間、来たと雪斗は思った。

 一瞬で魔力を高め、その力を開放することで衝撃波を撒き散らす技。ディーン卿やゼルのような広範囲攻撃と似たような特性を持っているのは事実だが、彼女の技法については大きく違う点が。それは、溜めの時間。


 彼女の魔力収束は一瞬のもの。雪斗達が接近し攻撃するよりも早く、準備が完了する。

 そして矛先は――視線は雪斗を射抜いてはいたが、その目論見を違うところにある。


 すなわちナディに致命傷を負わせる。そうなれば雪斗は後退せざるを得ない。

 これこそ、雪斗達が考えていた状況。彼女が切り札とも呼べるこの技を使わせることこそが、作戦だった。


 シェリスの杖から魔力が発せられ、衝撃波が体を包む。雪斗は『神降ろし』があるため攻撃を食らっても問題はないが、ナディは無事なのかどうか――


「ユキト!」


 まるで心の声に呼応するかのように、ナディが叫んだ。それに雪斗は応じるべく、シェリスと間合いを詰める。

 衝撃波をまともに受けるが、それでも雪斗は構わず突き進んだ。同時に剣へと収束させる浄化の力。あと一歩――とはいえシェリスはそれを避けるべく当然逃げようとする。


 けれど、今のシェリスは魔法を行使し身動きが取りにくくなっている。だからこそ、イーフィスやナディも対応することができる。

 直後、シェリスの足下に光の帯が巻き付いた。拘束魔法の一種でイーフィスが行使したもの。ただし魔神の力を所持するシェリスならば数秒あればはね除けるくらいのもの。


「目論見はわかった。けれど――」


 いや、それは数秒もたなかったかもしれない。雪斗が剣を叩き込むだけの隙を作ることは、できない。

 しかしそれもまた、雪斗達は想定の内だった。


 シェリスが拘束を解くべく足先に少しばかり魔力を集める。その動作はコンマ数秒のレベル。だがその一瞬の時間が、追撃させる余裕を生んだ。

 気付けばシェリスの背後に人影、ナディが。それは相手も気付いたようだが、拘束魔法を破壊しようとしたシェリスにとって、対処できない状況だった。


 ナディの拳がシェリスの背へ打ち込まれる。力を集中させた渾身の一撃。しかし強力な結界を構築する相手を前に、効き目はほんのわずか。

 ただイーフィスとナディの連係攻撃――その二つが合わさったことで、雪斗が剣戟を叩き込む時間が生じた。


 白い剣が放たれる。シェリスは拘束魔法と背中からの衝撃により、なすすべがなかった。

 それと同時に、シェリスは意図を察したか驚愕の表情を浮かべた――まさか、この魔法を使わせ、ほんの一時、隙を生じさせるために作戦を組んだというのか。


 雪斗は視線でそれに応じながら、シェリスの体へと剣を走らせた。手の先から伝わる感触と、魔力が彼女の体を駆け抜けていくのがわかる。

 彼女の魔力が、弾ける。体の内に存在していた魔神の魔力が雪斗の天神の力によって取り払われていく。


 渾身の剣戟が、彼女の体を解放する――それと同時、雪斗の剣戟の余波が周囲に拡散する。


 天神の魔力は、周囲にいた魔物に干渉しその全てを等しく滅していく。さすがに戦場全てを覆うほどではなかったが、雪斗達がいた周囲――ディーン卿達が戦う場所にまで届き、魔物が消え失せた。

 最後に残ったのは、膝をつくシェリスと、白い剣を握る雪斗。魔神によって滞留していた魔力が風に流れ――やがて、シェリスは顔を上げ雪斗と視線を重ねた。


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