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黒白の勇者 ~再召喚された異世界最強~  作者: 陽山純樹
第二章

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力の拮抗

 先に動いたのはシェリス。杖どころか全身から発せられた魔力が、その殺意を物語っている。なおかつ攻撃手段は愚直な突撃。それに雪斗は応じるべく足を前に。

 ナディとイーフィスは雪斗の背後へと回る。シェリスはそれを認識したはずだが、一切動きは変わらず雪斗へ迫る。


 魔力をまとう彼女が――いや、もはや魔力の塊と化した彼女が、雪斗と激突する。魔力が拡散して大気が軋んだ音を上げ、両者は拮抗しせめぎ合いとなる。


「……単純な力押しでは、やっぱり駄目か」


 シェリスはそうした呟きを発する。それに雪斗は力を引き上げ押し返そうと動く。

 ここの攻撃を押さえることができたなら、作戦に一歩近づく……が、シェリスもまた力を上げて雪斗に応じる。まったく動かないまま剣と杖とが鍔迫り合いの形となり、また双方とも無言となる。


 時間にして――数十秒程度のもの。しかし雪斗としては恐ろしいほど長い時間。互いに決定打がないまま魔力を引き上げ続ける状況となる。

 とはいえ、この均衡はそう遠くない内に崩れる――そう雪斗が思った時、シェリスが杖を動かし、剣を受け流した。


 次いで一歩後方に足を移す。先ほどまでなら躊躇いもなく雪斗は攻め込んだが、雪斗は動かなかった。理由は、彼女の体の奥底に策の気配があったためだ。


「さすが、冷静だね」


 雪斗が察したことをシェリスは理解した様子で、声を発した。


「でも、この調子で戦っても私を救うことはできないよ?」

「俺の力では足らないと?」

「逆だよ。私の方がもたない」


 ――これが相手を滅する戦いならば、持久戦に持ち込んで相手が消耗するのを待ってもいい。倒すことが目的なら、雪斗としてもそういう作戦をとっていた可能性はある。

 だが今回は違う。シェリスを消耗させ霊具を操るだけの余裕がなくなったなら、確実に魔神の魔力に取り込まれる。それは彼女が人間を捨て魔神の配下になったことを意味する――そして、シェリスという存在はおそらく地上から消え去るだろう。


「なるほど、こちらの思惑も利用するか……俺が頑張らないとまずいってわけだ」

「そうだね」


 返事が聞こえた後、今度は雪斗が攻撃する。シェリスはそれをかわすのではなく迎え撃つ構え……再び生じる魔力。それは恐ろしいほど濃厚で、雪斗も息苦しさを感じるほどだった。

 シェリスは魔力を大量消費しても良いという様子――これは魔神の魔力も影響しているだろう。現在魔神の魔力はシェリスの思考を操ってはいるが、彼女の肉体そのものに干渉している段階ではない。それを成し遂げるためには、あえてシェリスを消耗させて体の支配権を奪おうとする。


 ――雪斗達は確実にシェリスを救おうとしている。それに対抗するべく力を高めたシェリスではあるが、自らの体を人質にして、雪斗達を倒すべく策を用いる。これがアレイスの策略であるとしたら、


「趣味が悪いな、あいつも」


 そんな呟きを雪斗が発した直後、再びシェリスと激突。そこで雪斗は目に魔力を集めシェリスの体の内に眠る魔力の流れを読み解こうとする。

 作戦は多少なりともシェリスを追い込まなければならない。さらに言えば、シェリスの行動方針から考えて圧倒し続けるのもまずい。なぜなら自分が勝てないとわかったなら、その身を犠牲にして戦い続けるだろう。そうなれば彼女を救えなくなる恐れがある。


 とはいえ、わざと攻撃を食らうなどはできない。とすると鍵を握るのは、


(ナディとイーフィス……もし二人が危険な状況だと判断したなら、俺は二人を守るために動くだろう)


 雪斗は頭の中で作戦を組み立てる。シェリスに大技をわざと使わせる手段。それにはまず、ナディかイーフィスが窮地に陥るか危険な戦形となる。シェリスが技を行使する理由付けとなり、雪斗はそれを防ぐべく『神降ろし』を用いて防ごうとする。

 雪斗の『神降ろし』を知らずとも、それが尋常な技法でないことは一目瞭然のはず。それを使われたと認識したのなら、シェリスとしてもここが正念場だと――決めるタイミングだと悟るだろう。


 ならば、その流れにどう持ち込むのか。確実に言えるのはその戦形に持ち込むには、現在後方にいるナディとイーフィスが前に出なければならないということ。


(より正確に言えば、イーフィスが前に出るのは違和感があるため、ナディが……攻撃を一度でも食らってしまえば窮地に立たされる。果たしてできるのか)


 そういう疑問を感じた雪斗だったが、すぐに思考を振り払った。彼女はやる――そう信じると決めた。

 雪斗の魔力が徐々にシェリスの力を押し込んでいく。魔神の魔力をまとっている状況下でも、まだ雪斗が上だった。


「さすがだね、ユキト」


 その光景を見て、シェリスは称賛の言葉を贈った。


「私が勝つには、それこそ幾重にも張り巡らされた仕掛けがいる」

「それがこの戦場だと言いたいのか?」

「そうだね。ユキトの最大の敗因は……後ろにいる二人だよ」


 冷徹な言葉を継げる、シェリス。


「ユキトの力だけなら、無傷で私を倒せたはずなのに」

「俺は倒すために来たんじゃない。救うために来たんだ」

「救うには、二人の力が必要だと言いたいの?」

「そうだ」


 即答した雪斗に対し、シェリスは嘆息した。


「二人が奮起しなければ、救うことは無理だと……それは正直、望み薄だと思うのだけれど」


 ――もし本来のシェリスならば、こうやってナディ達を煽ることはしないと雪斗は思う。魔神の影響を受けて増長しているのか、それとも煽ってこちらを油断させているのか。


(いや、おそらくシェリスは自分を討てる存在のことを優先し、それ以外にあまり関心を向けない、といったところか)


 魔神が発する防衛本能故か、邪竜を滅した雪斗の力については最大限の警戒をしている。反面、それ以外の存在の優先順位は低い。


(おおよそ段取りはできつつあるな。とはいえどういう流れで作戦を実行に移すかについてこの場で話し合うことはできない)


 ここからは完全に状況に応じて動かなければならない――目の前の巨大な力を持つ相手に、果たしてできるのか。


(それでも、やるしかない……か)


 雪斗は剣を強く握り締め、剣で――シェリスの体を大きく弾いた。


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