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黒白の勇者 ~再召喚された異世界最強~  作者: 陽山純樹
第二章

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再生封じ

 シェリスが放とうとしている攻撃に対し、ナディは一切臆することなく拳を放つ。その狙いは雪斗が鍔迫り合いをしている杖。横手から彼女の拳が杖へと炸裂し、濃密が魔力が拡散していく。


「――ずいぶんと無謀だね、ナディ」


 シェリスはそう言いながらも体勢を崩すことはない。


「まさか相殺するとは思ってもみなかったよ」

「こっちとしてはその攻撃、まともに決まったら大惨事になっていたかもしれないからね」


 拳を引くナディ。それと同時、雪斗は力を高め一気に杖を押し込もうとした。だがシェリスはそれを読み、後退する選択肢をとった。


「……さて、このままではイーフィスが魔法を完成させてしまうね」


 シェリスはそう呟きながらさらに魔力を高める。彼女としては再生能力を封じられたらまずい状況になるのは必定。よって、


「やるしかない、か」


 シェリスの魔力がさらに高まる――リスクをとっても魔法を発動させ、状況を覆すということか。

 とはいえナディが魔力を相殺して見せたように、一方的にこちらが攻撃するだけという可能性もある――雪斗とナディはすかさず前へ。対するシェリスの視線は相変わらず雪斗へ向けられる。


 相殺したとはいえ、ナディの攻撃はシェリスに通用しない――だからこそ、雪斗だけに集中している。


(そう思ってくれていた方がありがたい……いや、こちらを油断させるための罠かもしれないから、注意しないと)


 雪斗はそこでナディを一瞥する――彼女もまた雪斗を見ていたが、反応はせずシェリスへ接近。

 おそらく雪斗の意図を理解した――その直後、まずナディが先行し拳を打った。


「無駄よ」


 優しく諭すようにシェリスは告げ杖で弾く。だがナディは食い下がる。次々と拳を放つが、それをシェリスは全て叩き落とす。


「模擬訓練をやっていた時は、こんな軽快に動けなかったじゃない」

「確かに私はナディの動きを見切るのは難しかった。けれど言ったはず。霊具の力をさらに発揮できるようになったと」


 シェリスの反撃。ナディはそれを見極めかわしたが、さらなる追撃に対しては体を捉えられそうになる。

 そこへ雪斗がフォローに入った。杖を弾きナディから軌道を逸らし、なおかつ肉薄しその体に刃を叩き込もうとする。


 もし直撃すれば魔力が体の中を駆け抜け、魔法準備している魔力が途切れる。だからこそシェリスは抵抗する。だがナディに矛先を向けたことでわずかながら雪斗の追撃に後れを取った。

 それを察し、雪斗は容赦なく剣を振り下ろす。あと少し、ほんの一時の間で杖を引き戻せるはずだったシェリスは、雪斗の刃をその身に受けた。


「っ……!」


 シェリスはそれにより大きく後退した。小さな呻きと共に内にあった魔力が霧散する。


「例え魔神の魔力を受け、さらに天級霊具を使いこなせたとしても、相手は二人だ」


 雪斗はそう告げると、剣の切っ先をシェリスへ向けた。


「イーフィスの援護がないといっても、さすがに俺も対応できるさ……二人とやり合って勝てるような強化には至らなかったみたいだな」

「確かに、ね。これは私が悪いというより、ユキトの能力が常識外れってことかな」


 小さく肩をすくめる。状況はリセットし、膠着状態に陥る。


「改めて思うよ。ユキトやカイは、本当に異常だったんだなって」

「俺はそう思っていないけどな……けどまあ、俺は少し安心したよ」

「安心?」


 聞き返したシェリスに対し、雪斗は、


「どうやら勝機がありそうだ……魔神の魔力によって少なからず畏怖を感じてはいたけれど、救えそうだ」

「――魔神からしてみれば、不本意な話だろうね」


 シェリスは冷静に言葉を紡いだ後、静かに魔力を高める。踏み込もうかと雪斗は一瞬考えたが、中断した。

 見た目は変わっていないが、シェリスの心境が変化したことにより先ほどとは異なる様相を呈し始めた。そうした中でさらにナディへ向ける視線が少なくなる。


(眼中にないといった感じだな……だがこれでいい)


 ナディとしては矛先を向けられるよりもいいだろう。彼女としては不本意かもしれないが、作戦を遂行する上ではこの方が断然良い。


(シェリスは気付いているのかいないのかわからないが……いや、邪竜を倒した俺という存在を最大限に警戒しているため、そちらに神経を集中させているということか)


 雪斗からしてみれば、ナディが倒れた時点で作戦の遂行は難しい。もし彼女に集中攻撃が入れば、窮地に陥るかもしれない。

 だがシェリスは幾度も刃を叩き込み攻撃を封じた雪斗に警戒を向けた。つまりナディは彼女の視界から消えつつあるということ。


(作戦の最後の最後……俺では決して届かない部分をナディが補ってくれるからな)


 問題は、彼女の攻撃が通用するか否かだが――同じ霊具所持者として幾度となく戦ってきた戦友。彼女の信じようと雪斗は決める。


「――できました」


 そしてイーフィスが告げる。雪斗の背後に魔力が高まったかと思うと、魔力が拡散し一時魔神の魔力を忘れさせた。

 シェリスはそれを防御したみたいだが、無意味だった。そこまで計算されたイーフィスの魔法が、シェリスの力を縛り再生能力を喪失させる。


「……これで、私はさらに不利になったと」


 どこか淡々とシェリスは呟く。


「でも、状況としては五分に戻った……くらいかな?」

「だろうな」


 雪斗は応じ剣を構える。ようやく作戦が遂行できる状況に立っただけで、戦況が有利に傾いたわけではない。


 雪斗は状況を分析する――シェリス自身魔力が尽きれば十中八九魔神の魔力に飲み込まれる。ただそれをしようと思えば即座に雪斗は『神降ろし』を使用するつもりであり、イーフィスの援護などを利用すれば十分解放はできるはず。

 もっとも、それでも魔神の魔力による影響でシェリスが――という可能性も否定できなかったため、再生能力を止めた。これで無闇に魔力を消費することもなくなった。


 シェリスとしては魔神の影響を受けている以上は雪斗達を滅しようとするはず。次から始まるのはまさしく激闘だろう。

 ただシェリス自身はまだ魔法を使用していない上に、雪斗達の様子を窺っている節がある。ここまではある程度観察し、どういう戦術なのかを読もうとしているのか。


 さらに言えば、彼女が全力を出せばそれこそ雪斗が今しているような第二形態――時間制限がある。ここからシェリスが全力を出せば、決着が一気に近づく。


「……そちらも、察してはいるよね」


 シェリスが言う。それと共にじわり魔力が発露する。

 ここまでの攻防でナディの攻撃も牽制的な役割を担うことがわかった。イーフィスが援護も通用するだろう。よってここからは作戦のためにシェリスと全力で向き合うことになる。


 そういう気概なのをシェリスも感じ取っている。つまり、ここから終局へ向かう――


「なら始めようか……私を救えるかどうかの戦いを」


 魔神の魔力が周辺を覆う――彼女を救う本当の戦いが、今始まった。


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