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黒白の勇者 ~再召喚された異世界最強~  作者: 陽山純樹
第二章

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仕込まれた能力

 雪斗は目の前で漆黒が広がる光景を見据え――その姿が彼女が所有する霊具『主神聖鎧』とはかけ離れたものであると確信する。


(魔神の魔力によって、霊具の特性が変化したか)


 加え、その力は彼女の本来扱える力量を超えている――この戦場において、まさしく最強の相手だった。


「さすがにこれでは手加減と言ってられないな」

「同感ね」


 ナディが呟くと同時――漆黒が一瞬ではがれシェリスが姿を現した。全身を黒い鎧で覆ったその姿は、鬼神と呼ぶにふさわしい威圧感を放っている。

 加えその右手には鎧と同様漆黒の杖。彼女は杖術に加え体術を駆使して戦うのだが、主攻を担うものは魔法である。


「ディル、全力でいく」

『了解』


 戦闘を維持するための能力を全て攻撃に転化する第二形態。それを発した瞬間、シェリスは杖を雪斗達へ振った。

 その先端から、魔力が迸る。そして弧を描き拡散した魔力は黒に変じ、濁流となって雪斗達へと襲い掛かる。


 それに対し雪斗は斬撃を放った。シェリスの攻撃に真正面から相対する形。漆黒と剣が激突し――黒が左右に弾き飛ばされ、事なきを得る。


「さすが、と言っておこうかな」


 どこかのんきにシェリスは語る。


「やっぱりこのくらいの攻撃では、通用しないか」

「まだ上があると言いたげだな」

「ええ、そうね」


 魔力が高まると同時、杖をかざしシェリスは雪斗へ一歩近づいた。

 対する雪斗は即応。前に出て、両者が共に相手を間合いに捉える。


 そして雪斗とシェリスは同時に相手目掛け武器を振るう。それが激突した瞬間、光と黒の粒子が弾け、大気に拡散した。

 結果として鍔迫り合いとなり――その間にナディやイーフィスもまた動く。ナディが横手に回ると、イーフィスが杖をかざしその先端に魔力を集める。


「三対一か」

「予想していただろ?」


 雪斗の問いにシェリスは「そうね」と答え、


「でも、あまり意味はないかもしれないよ」


 ナディがシェリスの側面から拳を放つ。狙いは脇腹。当のシェリスは雪斗の剣に押し込まれ動けない。

 そして拳が漆黒の鎧へと入る。次の瞬間金属音が鳴り響き――それだけだった。


「さすがに硬いわね」

「ナディの強さは私もよく知っている」


 友人へ諭すようにシェリスが口を開く。


「この鎧は友人の攻撃全てを防ぐために生み出したもの」

「光栄、とでも言っておけばいいかしら」

「そうね」


 皮肉に笑顔で応じるシェリス。その所作だけを見れば魔神の影響などないようにも見えるが――彼女がまとう漆黒が、その笑顔を薄ら寒いものにさせる。

 雪斗はそこで剣を押し込む。それにシェリスは応じるが――どうやら魔神の魔力による強化があっても力は雪斗が上のようで、刃がどんどん彼女の体へと迫っていく。


 それにシェリスは後退しようとするが、そこへナディの拳が再度叩き込まれる。ダメージはない。しかし威力を完全に殺しきることはできず、たじろがせることには成功した。

 それは紛れもなく一瞬の隙。雪斗は見逃さず剣を振り――シェリスの体へ、一撃加えた。


 鎧を砕き、その体に刃が入る。雪斗は内心不安になりながらそれでも剣を薙ぐ。鎧の奥に存在する肌を斬り、シェリスはその反動で大きく後退した。


「……手応えは、あったな」


 雪斗は呟きながら剣を構え直す。


「魔力も十分に加えた。怪我は浅くとも、体に魔力が叩き込まれた以上は少しくらい痛手を受けたはずだ」

「……そうだね」


 シェリスは答える。表情は一切変わっていない。


「でも、今は私を仕留められる好機でもあった」

「手傷を負わせただけでは足らないと?」

「私を元に戻そうとしているのは理解できるけど、それでは駄目ってことだよ」

「あくまで殺せと言いたいのか」


 シェリスは笑みで雪斗の言葉を肯定し――次の瞬間、変化が起こった。

 恐ろしい速度で雪斗が刻んだ傷が治癒され、さらに鎧までも修復していく。


「……アレイスめ、考えたな」


 雪斗はそれを見て小さく息をついた。


「ただでさえ強力な霊具に加え、魔神の力を利用して再生能力を付与したか」

「そういうこと。私の防御能力と再生能力……この二つを突破しなければ、私を救うことはできない」


 ――雪斗は即座に頭を回転させる。再生能力を所持する魔物とは邪竜との戦いでも経験してきた。中には目の前で起きたシェリス以上の再生で、魔法で消し炭にしているにも関わらず再生し続けるような化け物さえいた。


 こうした敵と遭遇した場合の対処方は二つ。一つ目は再生能力自体を無効化すること。その方法は再生能力がどういう技術によって行われているかによって変わるが、不可能ではない。

 例えば魔法を常時発動しているのならばその魔法を何らかの手段で封じればいい。あるいは魔物固有の特殊能力ならば魔力を解析してそうした能力を封じる魔法を行使する。


 二つ目は再生能力そのものはあくまで魔力によって行われる。よってその魔力が枯渇すれば再生もできなくなるという寸法。つまり長期戦に持ち込み、相手の疲弊を待つ。

 ただし、目の前のシェリスがそうした長期戦を受けてくれるとは思えない上に、果たして雪斗を始めナディやイーフィスが長時間の戦いに耐えられるのか。加えて言えばシェリスはこの手法については推測しているはずで、雪斗達が望む形で長期戦を行えるとは思えない。


 それに魔力が尽きることはもう一つの懸念がある――現在シェリスは霊具の力によって魔神の魔力に浸食されてもまだ人間としていられる。けれど霊具を発動できる魔力が尽きれば、魔神の魔力が全身を覆いもう元に戻れなくなる危険性がある。


(となれば、一つ目の方法しかないってことだ)


「次にどういう手を打ってくるか私にはわかるよ」


 シェリスは穏やかに告げる。それと共に雪斗は後方にいるイーフィスに告げた。


「再生能力を封じるしかなさそうだ。いけるか?」

「魔神の魔力を相手に、魔法を封じ込める……難しいですが、それができなければシェリスを救えないのですね」

「なら選択肢は一つね」


 ナディが構える。対するシェリスは威圧するように魔力を発する。底冷えするような、体の芯を凍えさせるような魔力だった。


「けれどイーフィスはもう戦えなくなる……二人でやれるの?」

「やってみせる、というのが答えだな」


 雪斗はそう返答すると、頭の中で作戦を整理する。

 シェリスが窮地に陥った状況で使うであろう技。その動きを上手く読んで戦闘不能状態にさせる。けれどそこに至るまでにまず再生能力を封じる必要がある。


「イーフィス、どのくらい掛かりそうだ?」

「わかりません」

「なら、こちらも頑張るしかないな」


 雪斗は息をつき、呼吸を整え、


「ナディ、悪いが付き合ってもらうからな」

「ええ、もちろん。覚悟はできているわ」


 ただ、彼女の場合はおそらく一撃でも食らったら終わる――薄氷の上を進むような戦い。しかしそれでも雪斗は冷静に、作戦を遂行するべく魔力を高め、


「行くぞ――シェリス」


 宣言。それと同時に雪斗は地を蹴り、彼女へ肉薄した。


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