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黒白の勇者 ~再召喚された異世界最強~  作者: 陽山純樹
第二章

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二人の刃

 魔物達が雪斗達の動きに反応して仕掛けてくる――その光景を見ていた騎士達は即座に展開し、迎え撃つ構えを見せた。

 雪斗達は――既に騎士から連絡を受けている。自分達は騎士達の指揮下には入らず、行動してくれと。


「では、行くとしようか」


 ディーン卿が前に立つ。翠芭達と戦ってそれほど時間は経過していないが、体調は戻っているようだ。


「まずは私とゼルがやろう。ユキト殿達は後方で魔力を温存してくれ」

「大丈夫ですか?」


 雪斗の問い掛けにディーン卿は笑みを見せ、


「任せてくれ。色々と面倒事を起こした分、働かせてもらおう」


 魔物が接近する。直後、ディーン卿が魔力を発し――刃を生み出した。

 空気を振動させるような、光の刃。それが一瞬で、魔物達へと駆け巡る。


 次いでゼルもまた動き出す。青い刃が迸ると、それが魔物の群れへと向かっていく。

 直後、両者の刃が爆散し、弾け魔物を吹き飛ばす。たった一度の攻撃ではあったが、多数の魔物を巻き込み破壊し尽くす。


「さすが、だな」


 雪斗は小さな呟きと共に前を見据え走る。ディーン卿達が露払いの役目を担う形。後方にはナディとイーフィスが続く。

 さらにディーン卿達が技を放つ隙に対してはダインが受け持つ。霊具『次元刀』を用いてディーン卿達に近づく魔物達を切っていく。


 見事な連携であり、雪斗は彼らが邪竜との戦い以降も組んで戦っていただろうと容易に想像ができた。その間にも魔物は刃によって撃滅し、真正面から襲い掛かる魔物の数が激減する。

 とはいえ敵の数は尋常ではなく、ただ真正面を貫くだけでは敵陣の中に飲み込まれるだけ――と、ディーン卿はさらに刃を拡散させた。光が魔物へ叩き込まれ、正面だけでなく周囲にいる魔物も蹂躙していく。


「見事ね」


 ナディが感服したように呟くのを雪斗は耳にした。


「ここまで効率的に魔物を倒せる人間はそういない」

「……ナディはできるか?」

「私? 私の霊具は一騎打ちとかに有効なものだから、どちらかというと不得手よね。イーフィスは?」

「魔法ならば敵の数を一気に減らすことも可能でしょうが、基本溜めの動作がいる魔法では敵軍の中で行使するというのは厳しいでしょうね」


 そう語りながらイーフィスは杖先に魔力を集中させる。


「とはいえ、ここは多少なりとも貢献しなければ」


 魔法が放たれる。雪斗達の周囲を覆うような風の刃だった。それが縦横無尽に駆け巡り、さらに魔物の数が減っていく。


「この調子なら……」


 シェリスのいる所までそうかからない――と思ったが、真正面に存在する魔物の層が厚くなった気がした。


「数で押し潰す気か……ディーン卿? どのくらいもつ?」

「そう心配するな」


 返答した直後、ディーン卿はさらに力を発し周囲の敵を刃で倒していく。


 気付けば雪斗達の周囲にいた敵が消失していた――魔物が襲い掛かるペースよりもディーン卿とゼルが倒すペースの方が明らかに早い。なおかつ後方からは騎士達が交戦を開始していることからも、不利になる可能性は低い。

 雪斗はここで目を凝らし真正面を見据え、シェリスの姿を捉えることができるどうかを確かめたが、確認することはできなかった。


「どこか別所に引っ込んでいる可能性もあるよな」

「事前に確認したところによると、周囲に隠れられる場所はない……はずだけど」


 ナディはそう返答した後、雪斗と同じように視線を前へ。とはいえまだシェリスの姿は見えない。


「気配を探れば真正面にいるのはわかるけど」

「ディル、気配探知はどうだ?」

『うーん、場所をピンポイントで語れっていうのは無理かなあ。気配があるのは間違いないんだけど』

「……ディルもわからないと言っているから、こちらの気配探知を誤魔化しているみたいだな」


 雪斗はそう語りながら周囲を見回す。ディーン卿が前線に出て、後方にゼルが移動している。前半分と後ろ半分で受け持つのを分けたようで、魔物達の進撃を粉砕していく。

 刃を一度受ければ魔物は消え去っていく――ここから考えても魔物の質は特級霊具を持つディーン卿達の敵でないことはわかる。今のところ全て一撃であり、強力な敵は出現していない。


(このまま順調に……というわけにはいかないよな)


 雪斗は胸中でシェリスの次の手を推測する。


(精鋭クラスの魔物は確実にいるはず。そいつらを一箇所に集中させて突撃させるか? いや、それともそうした魔物をわざと迂回させて騎士団を狙う? それなら状況によって俺達は対応に迫られる――)


 その時、ディーン卿の刃を弾く魔物がいた。即座に強敵だと悟った瞬間、ダインが敵をすり抜け切り込みに向かう。

 魔物は鎧を身につけたスケルトン。ダインが迫ると彼を捕捉し、魔物は剣を薙いだ。


 タイミングは完璧で、突撃するダインは避けることができなかった――が、剣は彼をすり抜ける。

 そして彼の斬撃が魔物へ叩き込まれる。だが浅かったか一撃とはいかない。けれどダインは即座に剣を切り返し連撃を放った。


 金属同士がぶつかる音が聞こえ、やがてダインの剣が魔物の首をはねる。瞬間、魔物の体は消滅した。


「何体かディーン卿の刃を弾く存在がいますね」


 状況を観察していたイーフィスが語り出す。


「そいつらはどこにいるかわからない……例えば私達を避けて後方を狙う、というようなことはしていないみたいです」

「そうだな……ディル、違いはわかるか?」

『さっきダインが倒した魔物は、他と少し違う魔力を抱えていたね。そういう魔物が固まっていたら私も気付くと思うけど、戦場のところどころにしかいない感じ』


(ディルの魔力探知を警戒している……か?)


 魔物が不自然な動きをすればディルが事前にそれを察知する。それをどうやらシェリスは理解しているようで、単純な突撃しかしてこないのではないか。


(魔物を用いる以上、策を仕込んでも俺やディルに気付かれる。よって数で押し込んで俺達を疲労させるような手法をとった……一応理屈は通る)


「ここまでは不自然なくらい穏やかね」


 雪斗が思考する間にナディが口を開いた。


「作戦の一つくらいあってもよさそうなものだけど、そういう雰囲気がまったくない」

「意図的にそういうものを避けているという雰囲気だな」


 ディーン卿が魔物を殲滅する間に呟く。それと共に彼は一つ提言する。


「いや、これはおそらく……戦場全体が君達を迎え入れるための舞台かもしれん」

「舞台?」


 聞き返す雪斗にディーン卿は笑う。


「これだけの魔物。私やゼルが全力で対応しなければならない。騎士達もこの戦場に魔物を押し留めるためには動けない。よって決戦はユキト殿達に託された」

「……俺達と戦うため、邪魔が入らないよう魔物を布陣させたということか」

「そういうことだ……ずいぶんと手の込んだ戦いであり、また同時にシェリス王女自身はこう考えているのだろう……ユキトは自分でしか倒せないと」


 それは明瞭な事実であり、決戦を自分の手でという心情があるのかもしれない。

 敵がなおも押し寄せてくる。それらをディーン卿達がはね除け、雪斗はその後方で魔力を温存する形。


 しかしこれが長く続かないことは誰もがわかっていた。最奥が徐々に近づいてくる。それと同時に感じ始める――強い魔力の気配。シェリスの存在を。


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