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黒白の勇者 ~再召喚された異世界最強~  作者: 陽山純樹
第二章

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運命共同体

 翌日、雪斗達は準備を済ませ決戦に赴くため町の外へ。

 ディーン卿達も到着し、戦闘態勢は完全に整った。


「シェリス王女を救うための面子としては、まだ足りないかもしれないな」


 そんな評価をディーン卿は下す。


「打ち破るだけならいけるだろう。けれど、救うとなれば――」

「これ以上時間が経過すれば、戻せなくなる可能性がある」


 雪斗は意識的に感情を込めず、ディーン卿へ答える。


「シェリスがどのくらいの時間魔神の魔力の影響を受けているのかわからないが……仮にディーン卿達と同程度ならばまだ間に合うと思う。けれどこれ以上の増援を待っていると――」

「ディーン卿達はデコイで、シェリスが本命という可能性があったのかもね」


 腕を組みナディが雪斗に続く。


「天級霊具の使い手であるシェリスを魔神の影響下に置くというのは、相当なことをしない限り無理なはず。けれどアレイスはそれを実行した……こういう言い方はアレだけど、ディーン卿やダインが操られるのとは質の違う話だと思うのよ」

「言い方も何も、それは事実だろう」


 そしてディーン卿が口を開く。


「アレイスの本質的な目的はわからないが、私のことを含めた一連の戦いそのものが大業を成すための時間稼ぎだとして……その本命がシェリス王女であることは間違いない。よってすぐにでも対処しなければならない、というのはこの場にいる全員が考えているところだろう」


 やがて馬車が到着する。戦場までそう遠くない。ここからは軍と共に移動し、常に警戒することになる。

 やや大人数ではあったが、雪斗達は全員同じ馬車に乗る。そして雪斗とナディとイーフィスが横に並び、反対側にディーン卿、ゼル、ダインと着席する。


「作戦はユキト殿達が立てたものでいく、でいいのだな?」


 ディーン卿の問いに雪斗は首肯し、


「俺とナディがシェリスと接近戦を行う。イーフィスはその援護。取り巻きの魔物はディーン卿達に任せた」

「俺はどうする?」


 ダインが訊いてくる。それに雪斗は、


「色々考えたんだが……ディーン卿達の技は多少なりとも隙が生じるだろ? だから二人の援護を頼むよ」

「ああ、それなら俺もできそうだな……了解した」


 作戦が決まる。あとはこの手立てが成功することを祈るのみ。


「……と、重苦しい雰囲気はまずいかな」


 ふいにナディが発言した。


「そうね……シェリスを救った後の話だけど、彼女も騎士団に加わるの?」

「ちょっと待ってくれ……そもそも俺は黒の騎士団を再結成しようとか一言も言っていないんだが……」

「アレイスという存在がいる以上、ユキトと共に行動する人間は必要よ」


 ナディの指摘に雪斗は押し黙る。確かにその通りかもしれないが――


「ま、王族が加わる以上、ユキトとしては敬遠するっていうのは理解できるけど」

「……胃が痛くなるんだよ、まったく」

「それでも助けが必要でしょう? せめて……今回召喚された面々が力をつけるくらいまでは」


 ――仮に力を得たら、どうするべきなのか。


 雪斗は少し思案したが、答えは出ない。というより、それはおそらくクラスメイト達に委ねられる事柄だろう。


(俺自身、戦って欲しくないと願っていても、そういう方向にはならないよな)


 どこかあきらめにも似た心情を抱きながら、雪斗は口を開く。


「俺は……誰も犠牲にならないようにしたい。けれどそれには、どうしたって他者の協力が必要だ。でも――」

「本当は自分一人でやりたいと」

「本音を言えば、な」

「そんなの、私達が許さないわよ。私達は運命共同体。違う?」

「……そう、なのかな」


 呟きながら、ナディ達は真剣に自分のことを考えていてくれるのだと雪斗は思う。誰も犠牲にならないように――


「一つ補足しておくけど、ユキトが戦いに対し全力で取り組むのはわかっている。だからあなたのことを責めるような人間は出ないし、仮に出たとしても私達がそれを止める。ユキトは正しいことを……人々を守るために尽力しているんだから」

「そこは気にしていないけど……ありがとう、ナディ。わかったよ。ひとまず黒の騎士団再結成についてはわからないが、皆の協力は欲しい」

「不可抗力とはいえ、迷惑を掛けたのだ。こちらは全力で支援させてもらう」


 ディーン卿が告げる。ダインもまたそれに頷き――馬車内の空気は、少しばかり和やかなものとなった。






 そうして雪斗達は戦場に辿り着く。既に騎士団などが展開し戦闘態勢は整っている――のだが、


「これは、予想以上だな」


 雪斗は戦場を見て感想を漏らす。

 目の前の平原――奥には小高い山が存在しているのだが、その山を背にして魔物達が布陣している。加え、その山に至るまでに様々な種類の魔物が、今か今かと待ち構えていた。


「数が予想よりもだいぶ多いぞ……」

「魔物の力量はどの程度だろうな?」


 ディーン卿が呟く。そこで雪斗はディルに指示をして確認する。


「気配は探ってるか?」

『そこそこじゃない? 特級霊具を持っていれば対応はそう難しくないよ。それと、魔物の強さにムラがあるみたいだけど』

「ムラ?」

『推測だけど、シェリスが作成した魔物と、アレイスが用意した魔物がいるんじゃない?』


 ――その内容をディーン卿に伝えると、


「ふむ、おそらくその解釈で正解だろう……ともあれ作戦通りに事を運ぶとしよう。ゼル、準備を」

「はい」


 ディーン卿達も動き出す。一方でダインは目の前の光景を見据え、


「普通の人にとってみれば地獄のような光景だろうな」

「ダインは違うのか?」

「これよりも、もっと絶望的な戦いを知っているからな」


 ファージェン平原の戦いを始めとした、邪竜に関する戦争のことだろう。


「そうしたものと比べれば、味方も健在だしどうにかなる、って感じだな」

「相手はシェリスだ。気を抜くなよ」

「そこはわかってるさ……ユキト、死ぬなよ」

「ダインも」


 雪斗は次にナディとイーフィスへ目を移す。双方とも既に覚悟はできているのか、烈気をまとっている。


「まずはシェリスと会うところから、ね」

「ああ、そうだな……魔物の数は多い。道中苦労するかもしれないが」

「何てことないわ……ダインが言った通り、私だって修羅場の一つや二つくぐってきたからね」


 ――幾度となく彼女も戦列に加わり、地獄のような戦場をくぐり抜けてきた。だからこその発言。けれど同時にシェリスを――友人を救うべく静かに気を高めている。

 イーフィスも同様であり、雪斗はそんな二人に頷き、


「……勝ち、そして救うぞ」


 同時、騎士団が動き出す。雪斗達もそれに追随し、魔物達もまた呼応。

 そうして戦いが始まる。雪斗としては前回召喚された際に幾度となくくぐった、仲間と共に立つ戦場。


(必ず……救う)


 まだ視界には見えないが、この魔物達の奥にシェリスがいる。彼女を――雪斗はディルをその手に握り、静かに一歩足を踏み出した。


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