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黒白の勇者 ~再召喚された異世界最強~  作者: 陽山純樹
第二章

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天級の霊具

「宮永芽衣は今でも学校に通っているんだけどさ、その場所は確か隣の市なんだよ。地元から全国区のアイドルが出たって話で一時期持ちきりだったから、ずっとその学校に通っているのは間違いないし、一年前召喚された時と同じだと思う」


 その発言により、貴臣(たかおみ)が眉をひそめる。


「隣の市……ってことは、例えば雪斗は親の事情により学校を離れた、とは考えにくいかな」

「遠方じゃないからな……親の事情といってもわざわざ隣の市にある学校に変える、という事情はあまり思い浮かばないな……」

「何かあった、と考えるのが妥当だな」


 レーネが言う。翠芭(すいは)としては気になったが、これは雪斗が自発的に話すまではどうしようもない。


「ともあれ、複雑な事情があるのは確からしい……ただ、ユキトに詮索するのはやめるように」

「もちろんです」


 翠芭が代表して頷く。


「黒の騎士団を始め、ユキトを慕う人間も続々と現れ始めている。いずれ話す機会が生まれるだろうから、それまで待とう」


 ――レーネはそう締めて雪斗に関する話が終わる。そこから程なくして彼女は席を立ち、翠芭達だけが残される。


「……俺達も、前回の人みたいに戦えるのかな」


 そんな呟きが千彰(ちあき)からもたらされる。翠芭としてはわからないとしか返答できない。

 雪斗としてはあまり無茶をしてほしくないというのが本音だろうとは思う。けれど、迷宮攻略はきっと自分達の力も必要――


「……この戦いがどう転ぶのかはわからない」


 やがて翠芭は口を開く。


「けれど、私達が戦えば、雪斗を始めみんなが楽になることは事実」

「そうだな」


 貴臣は同意。そして顔には強い決意が。


「僕はいずれリュシールさんと共に行動することになるとは思うけど……その時までに、できる限り色んなことをできるようにしたいな」

「そうだね。私も、何ができるか考えておくよ」


 霊具を手にした面々を翠芭は見回す。全員が複雑な感情はあれど、戦う意思を持っていることは明白だった。


(他のクラスメイト達がどう思っているか……けれどこうして私達が活動すれば、いずれさらに戦おうとする人が出てくるだろうな)


 それが果たして良いことなのかわからない――いや、この世界を救うという観点において、良い方向に向かっていくのは確かだろう。


(私達が無理強いするようなことはしない……けれど、新たな人が出てきた時に備え、色々と考えておくべきか)


 雪斗の負担にならないように――そう心の中で翠芭は呟いた。



 * * *



 様々な感情が芽生える中、雪斗はナディ達と共にシェリスを救うべく疾駆する。移動に馬車などは用いず、文字通り魔法によって最短距離を突っ走っていた。またディーン卿達は一度領地へ戻り、ダインも同行。遅れて雪斗達に追いつく予定となっている。


「シェリス自身、まだ魔神の力に取り込まれてはいないんだよな?」


 道中で雪斗が確認すると、ナディは「わからない」と応じた。


「霊具を使用しているのは間違いないから、完全に魔神に乗っ取られてはいないと思う」

「そこはダインとかと同じか……」

「ユキト、もし戦うとなったら――」

「ナディやイーフィスでは荷が重いだろ。俺がやるのは間違いないな」


 そこで雪斗は思考する。現在懐にはリュシールから渡された『神降ろし』を使う魔力が存在する。本来ディーン卿達にも使う予定だったためまだ二つ残っている。


「……イーフィス、ディーン卿に存在していた魔神の魔力を取り除いたって話だけど……」

「特級霊具であったため、できた処置でしょうね。今回のシェリスについては霊具の能力そのものが私よりも上です。リュシール様の力を用いたユキトの力の方が確実だと思います」


 ならば――片方はシェリスを救うために必要であるため残しておかなければならないが、もう一つは実質浮く形であるため、利用できる。


(シェリスの霊具なら、戦闘不能にさせるにはそれこそ圧倒的な力が必要だ。間違いなく『神降ろし』は有効だが――)


 問題は彼女もまた『黒の騎士団』に所属していた人間。特に雪斗と共に最前線に立っていた人物であり、雪斗の手の内を把握しているのは間違いない。よって戦闘直後に『神降ろし』を使っても、決定打にならないかもしれない。


(シェリスの霊具は天級であることに加え、それこそ彼女の真価はその力の高さ……邪竜の力を多大な含んだ相手にさえ真っ向から力勝負できるほどの霊具)


 莫大な魔力を保有し、使用者がそれを鎧のように身にまとう霊具。名は『主神(しゅしん)聖鎧(せいがい)」。鎧と名は付いているが、その力は攻撃面にも多大に及ぶ。


 全身に魔力をまとう霊具であるため、弱点らしい弱点は存在しない。唯一付け入る隙があるとしたら長期戦が苦手な点――とはいえ激戦であったファージェン平原の戦闘を最後まで続けたことからしても、あくまで苦手であってできないわけではない。


「……ナディ、もしシェリスと戦うのなら、どうする?」


 参考にしようと思い雪斗が訊くと、彼女は肩をすくめた。


「とにかく逃げ回って時間を稼ぐ。そして疲れたところを叩く」

「正攻法は無理か」

「無理に決まってるでしょ。そもそも王族、騎士、前回召喚された面々を思い返しても、シェリスに真っ向から勝てる霊具は、私が知り得る限り三つしか知らない」

「三つ?」


 雪斗が聞き返すとナディは指を立てながら告げる。


「一つはご存じ『星神の剣』。二つ目は『真紅の天使』。そして三つ目がユキトのディル」

「他にも勝てそうな霊具は思い浮かぶけれど……」

「霊具の特性だけなら、という話。そこに人間の力を加味したら、確かに前回召喚された面々や邪竜と戦っていた人の中で勝てそうな人は思い浮かぶ。でも、今回その多くはいない」


 戦死、あるいは元の世界へ帰った――


「だからユキトがある意味最後の砦でもある……シェリスを止めることができる、最後の砦」

「……ただ戦って倒すだけなら、そう難しくはないって話だよな」

「そうね。彼女のいる場所はわかっている以上、大規模な破壊魔法でも使えば対処はできる。でもそれは、誰も望んではいない」

「そうだな……イーフィスがシェリスの体の中にある魔神の魔力を消し去れないなら俺がやるしかない。ただその場合、彼女を戦闘不能にさせる必要がある」


 最後は『神降ろし』を使って戦闘不能にさせることになる。そのために封じ込めた魔力二つの内、一つを使ってシェリスを破り、残る一つで魔神の魔力を消し去ればいい。


「つまり、俺が切り札を使ってシェリスを確実に戦闘不能にさせる……そこまで持ち込めるかどうかだ。当然俺達は彼女を殺せない以上、魔物とは違うやり方じゃないとまずい」

「相当キツイでしょうね」

「相手が相手だ。正直俺だって真正面から戦いたくない」


 例えば雪斗が持つディルは攻撃能力、防御能力、魔法能力など、様々な能力が満遍なく上昇するような霊具。しかも天級の名に恥じぬ能力上昇が加わるため、継続戦闘能力と相まって戦場で大いに活躍できる一品だ。


 反面シェリスの霊具はどうか――彼女の霊具もまた満遍なく上がるのは確かだが、特に攻撃面の能力上昇が著しい。さらに言えば雪斗が戦争そのものの局面を覆すことが得意だとすれば、シェリスは敵の総大将と一騎打ちして叩き伏せるような個の力も併せ持っている。その面については雪斗の霊具を上回っているかもしれない。


「……単純に戦うだけでは駄目だ。やっぱり策がいる。ただシェリスは勘も鋭いからな……」

「上手くやらないとバレるわよね」


 雪斗達は悩み始める。どうすればいいのか――


「……一つだけ」


 そうした中で、イーフィスが口を開いた。


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