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黒白の勇者 ~再召喚された異世界最強~  作者: 陽山純樹
第二章

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騎士の推測

 雪斗と共に映る前回召喚された面々――笑顔の写真を見据え、翠芭(すいは)はレーネへ尋ねる。


「比べる必要はないと言うでしょうけど……彼らは全員が、相応の力を所持していたんですよね?」

「そうだな。迷宮は常人では立ち入れない領域……霊装騎士団も例外ではない。そもそも特級以上の霊具を操ることも難しい以上は仕方がないが」

「迷宮に入る場合、特級以上の霊具が必須なんですか?」


 質問は貴臣(たかおみ)から。それにレーネは唸り、


「なければ入れないというわけではない。ただ邪竜が復活して以降は、そのくらいの力がなければ対抗できなかったのは確かだ」


 霊装騎士団に特級霊具以上の使い手がほとんどいないということか。


「スイハ達との訓練により、騎士の力が増すのは確かだろう。陛下としてはもしかすると霊具の成長を期待しているのかもしれない」

「成長……」


 以前リュシールが語っていた点。つまりそうした戦力を増やしたいという明確な意図がある。


「ともあれ、今回の訓練は翠芭達にとっても大きな参考になるはずだ」

「そう、ですね」


 同意しながら翠芭はレーネへ写真を返そうとする。そこで信人(のぶと)が写真を要求した。


「そういえば俺は見てないな」

「あ、うん。それじゃあどうぞ」


 差し出すと信人は写真を眺め、横から千彰(ちあき)花音(かの)もまた写真を見る。


「これが前回召喚された人間か……あ、レーネもいるな」

「迷宮攻略前の時だ。その後、厳しい戦いを強いられた……事の顛末は話しただろう?」

「最初の攻略の時に、五人亡くなった……だったか」

「今回は邪竜のケースとは異なるため、一概に言うことはできないが……少なくとも以前よりも厳しくはない、と思う。だがそれでも、攻略するだけで国もかなりの資源を投入する必要がある」


 それだけ難事業というわけだ――翠芭としては攻略するのならば自分達も戦わなければならないと確信する。

 雪斗としてはクラスメイトが犠牲になることを避けたいはず。それに対しリュシールは「いざとなれば魔紅玉で対処する」と述べているが、犠牲がない方がいいのは確かだし、そうするために準備をするのは当然だ。


「前回と比べて楽であったとしても」


 ここで千彰が口にする。


「根本的に人数だって少ないし、やっぱり厳しいんじゃ?」

「例えば『黒の騎士団』を始めとした面々の協力を得るなど、方法は存在する……君達としては王族を巻き込むのはあまり好ましくないと思うかもしれないが……私としては君達が元の世界へ帰ることを優先すればいいと思う」

「例えこの世界の人が犠牲になっても、ですか?」


 翠芭の質問にレーネは苦笑した。


「本来ならば、犠牲ゼロが望ましいだろう。けれどそれが叶うほど迷宮は甘い場所じゃない。犠牲をいとわぬ覚悟……それも迷宮では必要になってくることは、肝に銘じておいてくれ」


 レーネの重い言葉に翠芭は沈黙。犠牲を出しながら戦い続けた雪斗。レーネの言う通り戦いである以上は犠牲だって出てしまうだろう。けれどそうであったとしても、雪斗としては犠牲をなくすべく尽力するに違いない。


「……わかりました」


 ただ翠芭はその考えを表に出さなかった。何より今の自分がそうした言及をしても、他者を守れるだけの力がない以上は価値がない。

 やはりもっと力をつけなければ――そんな考えに至った時、写真を覗き込んでいた信人が声を上げた。


「あのさ、一ついい?」

「どうした? 何か気になることが」


 レーネの問い掛けに信人は写真を彼女に見せ、とある一点に指を差す。


「この人の名前は?」


 位置は中央にいるカイの左隣にいる。やや色素の抜けた髪と手には手から肘くらいの長さを持った杖。


「彼女か? 名はミヤナガ・メイだが」


 その言葉と同時、千彰と花音が同時に驚き写真を見た。


「え、この人が……!?」

「まさか召喚されていたなんて……」


 花音と千彰が相次いで声を上げると、レーネは眉根を寄せた。


「知り合いなのか?」

「いえ、そういうわけじゃない」


 信人は一度首を振り、


「……というか、翠芭と貴臣は写真を見て気付かなかったのか?」

「話を聞いてそれを頭の中でまとめるだけで大変だったし、さすがに気付かなかったよ……というか、知ってる人?」


 問い掛けに信人は頬をポリポリとかき、


「……アイドルだよ」

「へ?」

「現役のアイドル。名は宮永芽衣」


 さすがの翠芭も開いた口が塞がらなかった。まさか、そういう人物が前回の召喚で呼び出されていたとは。


「……確か、召喚された当時売り出し中とか言っていたな」


 ふいにレーネがこぼす。


「元の世界に帰ってからも、そのアイドルというのをやっているのか?」

「やっているも何も、この半年くらいで全国的に名前が広まったんだよ。グループのセンター任されるようになって」


 翠芭は驚き信人の背後に回って写真を覗く。確かに言われてみれば、見たことがある顔かもしれない。


「この世界の出来事に関係があるってことなのか……?」

「いや、そういうわけではないだろう。というより、ユキトがなぜ話さないのかおぼろげに見えてきた」


 レーネが言う。どういうことなのかと翠芭が注目すると、


「この世界に来て、彼女が手にした霊具は『微笑みの女神』という、治癒能力など支援に特化した魔法の霊具だ。前線に立ちのではなく、怪我人の治療や結界構築など、裏で仲間を支えるような役割だった」

「支援……」


 ここまで支援系の霊具がないため、翠芭にとってそうした力は魅力的に感じる。


「そしてどうやらその霊具はメイにとって心理的な影響を及ぼした……召喚された当初、彼女はアイドルという職業を続けるか、それとも他に持っていた夢を叶えるかで悩んでいた」

「夢、ですか?」


 翠芭が聞き返すとレーネは頷き、


「彼女は医者になりたかったらしい……そんな中で彼女の霊具はまさしく人を救う霊具であり、その力が医者になるという夢に彼女を向かせる大きなきっかけとなった」

「アイドルやってお金を稼いで、医者になるってことじゃないのか?」


 信人が指摘する。確かに医者になるためには相当な学費が必要だ。


「そういう可能性もあるが、彼女は召喚当時アイドルをやることを悩んでいたようだからな。元の世界に戻ったらすぐ辞める、と語っていたくらいだ」


 だが、現実では活動を続け、テレビで多く露出するくらいになっている。


「彼女が元の世界に戻って心変わりしたという可能性も十分あるが、こちらの世界で語っていた様子を知る私からすればそれも違和感がある。ユキトがあまり語りたがらないことから考えても、可能性は一つだろう」


 そう前置きをして、レーネは核心に触れる。


「ユキトを除き、他のクラスメイト達は一度死んで生き返った……それにより、記憶を失ってしまったのかもしれない。この世界で戦っていた記憶を」


 ――そう聞いて、翠芭は少し想像をした。笑顔で笑い合っている写真の面々。この直後に悲劇が生まれ、彼らは『魔紅玉』の力を手に入れるべく邪竜との戦いに身を投じた。

 そうした記憶が失われている――雪斗はそれを知った時、どう思ったのか。


「ともあれ、だ。仮に記憶をなくしたとしても、ユキトが彼らの所から離れるというのも疑問だ……何か事情があって、彼らが通う学校から離れたという可能性もあるが――」

「いや、そういう可能性は低いような気がする」


 次に発言したのは、信人だった。


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