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戦闘

 突撃を行う狼に対し、雪斗がとった選択は前進――ただしそれは散歩でもするかのような速度だった。


 猛然と駆ける狼に、雪斗は右手に漆黒の剣をぶら下げながらただ歩く。それに対し狼は――跳躍した。

 突撃の勢いそのままに、首筋に牙を突き立てるべく口を大きく開ける。常人ならば何もできずにただ食い殺されるのを待つしかない、ほんのわずかな時間。


 だが雪斗にとっては、あくびが出るほど間があった。


 刹那、雪斗は少しばかり足に力を込め、体を傾け移動――もしかすると兵士からは瞬間移動に見えたかもしれない。

 一瞬で雪斗は魔物の真横に回り、すれ違いざまに一閃する。


「ふっ」


 短い掛け声。軽く素振りをする程度の勢いで放たれた雪斗の剣は狼に触れた瞬間、なんの抵抗もなくその体に亀裂を生み出す。

 狼がうめき声を上げたのは、攻撃に失敗し着地しようとした時だった。斬られたことすらも認識できなかったのかもしれない――魔物は地面に倒れ伏す。以降動くことはなく、乾いた砂のように変じ跡形も無く消えた。


「うん、体は思った通り動くな」


 呟く――と、さらに狼が突撃してくる。今度は三体同時。ならばと雪斗は少しばかり手と両足に力を込める。同時、狼が一斉に雪斗を狙うべく跳躍した。

 そこで雪斗は地を蹴る。狼の動きを見極め、間をすり抜けるように魔物達の背後へ到達する。


 そして後ろを振り返ることもせず魔物の群れへ歩き始める。次の瞬間、すれ違いざまに薙いだ剣戟によって、狼達が消え失せるのを雪斗は魔力で感じ取った。


『雪斗、調子はどう?』

「まあまあだな」


 通用しないと悟ったか、それ以上狼は前に出てこない。雪斗は構わず歩を進め、群れの眼前にまで到達した時、真正面に現れたのは牛の頭を持った魔物――ミノタウロスだった。


「でかいな。迷宮に入れないんじゃないか?」


 見上げるほどの巨体で、目測三メートル以上はあるだろうか。筋骨隆々の上半身はまるで雪斗へ見せつけるかのように筋肉が動き、さらに手に武器――戦斧を掲げる。それもまた巨体に準じ巨大で、人間が扱えるレベルを超えている。

 加え魔物達は雪斗を包囲し始めた。ミノタウロスの援護なのか魔物の左右に骸骨騎士が控える。それは雪斗を観察するような挙動を示しており――そこで一つ察した。


「なるほど、そういうことか――」


 声を発した矢先、ミノタウロスが一片の容赦もなく戦斧を振り下ろす。先ほど雪斗がディルを叩いた岩が粉々に砕けるであろう剛胆な一撃。

 それに雪斗は、左腕を掲げることで応じた。傍からは狂っているとしか思えない所作。体が真っ二つになってもおかしくない。


 だが戦斧が腕に叩き込まれると、ガアンという金属音が響いただけで刃が押し留められた。雪斗は身じろぎ一つせず、腕を通して衝撃が伝わってくることもない。

 巨大な戦斧を受け止める人間という奇妙な光景に、魔物がにわかにざわつく。その間に雪斗はミノタウロスへ視線を送ってみた。


 眼光をどう思ったか――魔物は目が合った瞬間、ビクリと震えた。力の差を理解したか、それとも――

 雪斗は即座に左腕を振り斧を払う。そしてタクトでも振るうかのように下から上へ、剣を薙いだ。


 それと共に生じたのは、風。魔力を利用して剣に風を絡ませ、振ることで風を弾丸のように撃ち出す技。本来威力は低く、普通ならば相手の動きを抑える牽制的な役割しか果たさない。

 だが、雪斗の風は問答無用にミノタウロスの頭部に直撃し、爆ぜた。軽快な破裂音が生じ、首から上が消滅する。


 魔物の体はグラリと傾き、地面に倒れ込んだ。体と共に武器の戦斧も砂のように変化していく。雪斗がそうした光景を無感動に見据えていると、ディルが声を上げた。


『図体だけか』

「魔物の質は俺からしたら低いが、指揮官は頭がいいぞ」

『頭がいい? どういうこと――』


 ディルが問い掛ける間に雪斗を囲んだ魔物がジリジリと近づいてくる。ミノタウロスがやられたことにより警戒しているようで、魔物達の矛先は完全に雪斗へ向いた。


「最初の狼を瞬殺したことで、スピードによる突破ができないと判断。今度は巨大な魔物による力押しで対抗しようとした……しかも囲んで俺の足を封じ、骸骨騎士を傍に控えさせ牽制もしていた」

『あー、つまり雪斗の行動を見てどう戦うか判断しているわけか』

「正解。本来魔物は好き勝手に動いているが、これはそうではない……つまり『邪竜』が国々に侵攻していたケースと、同じってことだ」


 魔物が押し寄せる。全方位からの攻撃で、頭上ですら怪鳥のような魔物が飛来する。


 雪斗の反応は――まず正面から襲い掛かってきた骸骨騎士二体へ向け駆けた。相手は反応したようだったが、騎士が剣を掲げる間に刃を差し込む。

 縦に入った一撃に、骸骨は無残にもバラバラになる。雪斗は即座に二体目に狙いを定め、今度は剣が放たれる直前に骸骨の首をはねた。


 それにより魔物は塵となり――なおも執拗に迫る魔物は、ヒュンという風を切る音と共に薙がれる雪斗の剣閃が滅していく。触れた瞬間に感触もなく、どんな見た目の敵も刃が通り抜ければ平等に消えていく。頭上から迫る怪鳥には風の弾丸で対応し、頭部を撃ち抜かれ魔物は消えながら群れの中へ墜落する。


 その時、わずかだが包囲に隙間ができた。


(技や魔力の制御も問題はないな……次だ)


 雪斗は心の中で呟くと包囲を脱し、魔物の群れを突っ切ろうと動く。


『ねえ、どうするの?』

「魔物を率いている敵を潰す。これが邪竜と同じような戦い方なら、指揮官を倒せば楽になるからだ」


 魔物が命令を受けている場合、指示を与えている存在を潰せば、命令そのものが取り消しとなる。これは前回召喚された際に得た知識。

 すると魔物はどうなるか――前回の召喚と同じならば、指揮官を倒した存在及び、その周囲にいた者達に狙いを定めるようになる。つまりこの場合は雪斗一人だ。


「確実に邪竜は滅したはずだから、今回の敵は前回と同じじゃない……が、邪竜に関連する輩なら、指揮官を倒したことによる魔物の挙動も同じはず」

『邪竜絡みなのかを確認する意味合いもありそうだね』

「そうだな」


 雪斗が答えた時、突如全方位から敵が迫る。全員が骸骨戦士。


 けれど雪斗は冷静だった。相手の剣が突き込まれようとする寸前で反応。剣を一度軽く握り直してから右足を軸にして回転――それと共に放たれた刃は、騎士を紙のようにいとも容易く両断していく。

 雪斗が元の方向に体が戻った時、襲い掛かろうとしていた魔物は地上からいなくなっていた。剣の範囲外だった骸骨がまだ三体残っていたが、それを雪斗は風の弾丸で的確に撃ち抜き、消し去る。


「ここまでは順調だな……さて」


 雪斗は真正面に他の魔物とは一線を画する敵を見つけた。

 鉄製の杖を持ち黒いローブに身を包み、仮面を被った存在。一見すると人間にも思える体格だが、ローブからはみ出る腕や足先もまた漆黒で、肉体がある。悪魔の類いだろうと雪斗は推測する。


「杖持っているから強力な魔法を使うリッチ……けど骸骨じゃなくて肉体があるから、デーモンリッチとでも呼べばいいか」

『あいつが指揮官っぽいね。魔力多いし』

「みたいだな……この魔物の軍において一番強いみたいだが、魔力量から考えて……この軍を率いている存在ってだけで、前線指揮官は別にいると考えてよさそうか……?」


 雪斗は疑問を口にしたが、思考を切り替え、


「まあいい、ともかく――片付けよう」


 告げて、デーモンリッチへ足を向けた。


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