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黒白の勇者 ~再召喚された異世界最強~  作者: 陽山純樹
第二章

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茜色の戦士

 花音(かの)達の戦いが佳境に差し掛かろうとしていた時、貴臣(たかおみ)達の戦いもまた終わりを迎えようとしていた。

 貴臣自身が放った渾身の魔法。それが目の前を白く染め、広間を満たす。轟音が生じ城の構造物が破砕する音も聞こえたが――なりふり構っていられる状態ではなかった以上、仕方がない。


 やがて光が消え始める。貴臣達は前方を注視し、相手がどうなのかを見定め、


「……さすが、というべきでしょうか」


 ゼルの声。そして現れたのは、多少なりともダメージを負ってはいるが、それでもまだ戦意のある相手だった。


「渾身の魔法……さすがにあれを避けることはできず防御するしかできませんでした。しかし、あなたもまた落ち度がある。出力最大で撃った……ようにあなたは思ったことでしょう。けれどそれは違う。どうやら多少なりとも、無意識のうちに加減をしてしまった」


 ――基礎的な制御法のみで、霊具そのものを自在に扱えていない現状では、貴臣が威力に躊躇って出力を意図せず絞ってしまうのは、やむを得ない話ではあった。

 もし霊具に習熟していれば、相手の能力を見極め戦闘不能にさせることのできるだけの出力を浴びせることができただろう。それに加え建物を破壊するような魔法は使わなかったはずだ。


「勝負はこちらの勝ち、みたいですね……お二方とも、もう戦う力はほとんど残されていない様子」


 その言葉と同時、貴臣の肩に重くのしかかる――疲労。千彰(ちあき)も同様らしく、手をかざしてはいるが、まだ余裕のありそうなゼルに対応できるかどうかはわからない。


「……召喚者は本来、この世界における人々に対して被害者のようなものです。私としてもできる限り手を上げるようなことはしたくなかった」


 そうゼルは語り、


「しかし、霊具を手にしてくるのならば、応じる他ない」


 駆ける。貴臣は気力を振り絞り新たな魔法を使うべく杖をかざす。そして千彰もまた、対抗すべく風を使おうとする。

 だが両者とも、対応が間に合わない。これは――そう貴臣が心の中で呟いた直後、ゼルは思いも寄らぬ行動に出た。


 突如彼は急ブレーキを掛け、あろうことか跳ぶように後退する。


「……え?」


 まさか杖や風を警戒したわけではないはず。そう思った矢先、後方に気配を感じ取った。


「間に合った、ようね」


 動きやすい格好をした、茜色の髪を持つ女性だった。どこか不敵の笑みすら感じさせるその表情は、窮地に陥ったこの戦場においてどこか安心させるもの。


「……ナディ様、ですか」


 ゼルが述べる。そこで気付いた。彼はまずい、という顔つきをしている。


「なぜこのような所に?」

「愚問ね。ユキトが再召喚されたと聞けば、こうなることはわかっていたでしょう?」


 ゼルに対し無造作に間合いを詰めるナディという女性。ゼルは最大限警戒し、今にも刃を放とうとしている。


「ここにあなたがいるということはもう片方はディーン卿か。ま、あっちは任せていいでしょうから、ここはさっさと片付けよう」


 呟いた直後、ゼルが仕掛ける。それに対し、ナディの反応は――突如、その全身が光り輝いた。

 何事かと思った矢先、その姿が一変する。瞬きをする時間で彼女は、突然髪色が溶け込むような赤色の鎧を身にまとっていた。


「そういえばゼル、あなたとサシで戦うのは初めてね!」


 青い刃がゼルから放たれる。しかしナディはそれをよけようとすらしない。大丈夫なのかと思った矢先、刃が彼女の体に入る。

 だが青き刃は、鎧に当たった直後、弾け飛んだ。


 そして彼女の拳が振り抜かれ、ゼルの顔面を捉える。渾身の右ストレートであり、突撃していたゼルを平然と、まるで重さなど感じないと言わんばかりに吹き飛ばし、その体が壁に激突した。

 結果ピクリとも動かなくなる。さすがに死んではいないようだが――


「……とはいえ、これで終わりではなかったわね」


 ナディがそう呟くと、小さく息をつく。


「魔神の魔力を取り除かないといけないけれど……」

「あ、それなら僕ができます」


 貴臣が杖をかざしながら答える。それにナディは目を丸くした。


「へえ『空皇の杖』……なるほど、それなら確かにいけそう。指導されているの?」

「はい、リュシールさんから」


 気絶するゼルへと駆け寄る。顔面を打ち抜かれ鼻血を出している有様だが、息はある。

 即座に魔法を行使する。その間に千彰は女性に話し掛けた。


「あの、あなたは?」

「私? まあ説明してもいいけど……落ち着いた時がいいかな。それにこの城を訪れたのは私以外にもいるから」

「えっと、お城の人間ではないと?」

「そうね。一つ言えるのは、ユキトを始めとした面々と邪竜との戦いに加わった人間よ」


 貴臣は一瞬、彼女の装備を見据える。赤色の鎧。それで身を固めた姿は、勇壮な戦士を想像させる。先ほどゼルに対し放った拳から考えても、体術などに相当優れている人物だろうというのは容易に想像できた。


「……今回は、どのような件で?」


 マキスが問う。それにナディは肩をすくめ、


「さっきも言った通り、ユキト絡みよ。ま、ここにいないことは把握しているけど」

「事情はわかっているということですか」

「そしてもう一つ、重要な情報を持ってきた」


 どこか深刻な表情。それにマキスはピクリと身じろぎし、


「……この国に関わることでしょうか?」

「いえ、違うわ……入れ違いなわけで二度手間になるけれど、まあ仕方がないか。ユキトも事情を知らなければ首を突っ込もうとは思わないでしょうし、派手に動いているとわかれば国側も警戒するでしょうね」


 何やらブツブツと呟くナディ。貴臣としては何のことかわからなかったが、ともかくあまり良い話ではなさそうだった。

 そこでナディは思考を切り替えたか腕を組み、


「と、話はこの戦いが終わってからゆっくりとしましょう」

「他に同行者は?」


 マキスがさらに質問すると、彼女は笑い、


「護衛はいないけど、イーフィスがほぼ同時に到着した。彼ならディーン卿の方へ向かったわ」

「イーフィス様が……あの方がここに来られるというのは――」

「まあ色々と事情がある……と言いたいところだけど、たぶんユキトが現れたと聞いて協力したかったんでしょう。彼にとってユキトやカイは、それこそ共に戦う同士だったわけだから」


 ――垣間見える雪斗の功績。目の前にいる女性やイーフィスという人物がどういった立ち位置なのかは不明瞭だが、雪斗を信頼し、またきっと雪斗も彼らを信頼しているのだろうと貴臣は思う。


「それじゃあ進みましょう。下の階にいる聖剣所持者については大丈夫だったから任せたけど、ディーン卿を片付けたらすぐに向かいましょうか」


 そしてナディは貴臣達へ視線を向け、


「そちらは大丈夫? 動ける?」

「……はい」


 貴臣は疲労感を伴いながらも答える。ここで体を休めている暇はない。まだ自分の力が必要かもしれない。

 それは千彰も同じことを思ったようで、小さく頷いていた。


 そうした二人の様子を見て、ナディは小さく笑みを浮かべる。


「この戦いを通して、戦士の顔になったようね……戦いに身を投じるというのなら、今回のことはしっかりと胸に刻んでおいて。霊具使いとの戦いが今後も続くだろうから、ね」


 言われなくともわかっている――貴臣はそういう言葉を頭の中に浮かべ、それを飲み込み足を前に出す。

 そうして貴臣達はナディと共にディーン卿の所へ向かう。そちらも、戦いがいよいよ佳境へ入ろうとしていた。


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