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黒白の勇者 ~再召喚された異世界最強~  作者: 陽山純樹
第二章

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圧倒する刃

 花音(かの)の目の前で、凄まじい攻防が繰り広げられる。

 レーネと信人(のぶと)の二人しか残らない状況下で、ディーン卿はなおも冷徹に光の刃を放つ。一瞬で生じる光から逃れる術はなく、効果範囲の外側にいる花音の目の前で、刃が弾けレーネ達を遅う。


「く、うっ……!」


 そうした中で信人は声を漏らした。大丈夫かと叫びそうになったが、彼はどうやら耐えきっている様子。

 反面レーネは二度目を受けてかなり疲弊した。鎧もあちこち損傷し、彼女の霊具ではディーン卿の技を受け切れていないのだと理解する。


「ほう、二撃目も耐えたか」


 ディーン卿が告げる。視線からレーネに向けられた言葉らしい。


「召喚者は霊具の力で十分対処はできている……しかし騎士レーネ。そちらは相当辛いはずだ」

「……来るとわかっていれば、それに対する備えはできる」


 レーネは剣を構え、突撃する。信人の合わせるように動き、剣と槍が当時に放たれる。


「なるほど、確かにそうだ。しかしだな」


 ディーン卿が応じる。花音の視界に映ったのは、一瞬で二人の背後に回る彼の姿。


「先ほどの攻撃だけが全てではないと、騎士レーネはわかっているだろう?」


 即座に信人が反応し槍を薙ぐ。だがディーン卿はそれを、腕をかざしガードすることで耐えた。


「例え霊具であっても、その制御では全力で応じなければ私には通じない」


 今度はレーネ。しかしダメージを負ってしまった彼女の動きは鈍く、ディーン卿は余裕で避ける。


「騎士レーネ、もう限界ではないのか?」

「そんなことはないぞ」

「そうか。ならばもう一度くらいは耐えられるだろう?」


 刹那、光が溢れる。どんな状況であってもディーン卿は技を行使できる――

 そう花音が理解した瞬間、三撃目の刃が空間を襲った。ザアアアと羽音のような音が広間に響き、花音は信人達は無事なのかと凝視する。


 そして見えたのは――膝をつくレーネと、槍を構える信人だった。

 無事、とは言いがたい状況。さすがに信人も攻撃を受け続けた影響か、疲労の色が窺える。


「召喚者の君は怪我しているわけではない。しかし疲労し始めている……理由はわかるだろう?」

「あんたが攻撃する瞬間、こっちは無意識のうちに力を高めて防御しているからだ」

「その通り。いくら君が多大に魔力を抱えているとしても、これを連続で受け続ければどうなるかはわからない……もし霊具の力を使えなくなれば、その時点で終わりだ」


 つまり早急に決着をつけなければ勝てないと、ディーン卿は暗に語っている。

 それは信人も気付いたらしく、厳しい視線をディーン卿へ向けた。それと同時に花音は考える。


 このまま長期戦に持ち込んでも先に倒れるのはおそらく信人。レーネがもう戦う力が残っていない状況を踏まえれば、彼にディーン卿も集中する。そうなれば耐えきれなくなるのは明白。

 ただ、こちら側は援軍が来る可能性がある。背後からゼルを倒したクラスメイトやマキスが来て、連携するということだって考えられる。無論それは相手にも言えることだが――いや、翠芭や城にいる騎士達がやってくる可能性もある。よって時間が経過すれば勝ち目が高くなるのは、自分達ではないか。


 だがそれは、この場にいる面々が下手すれば全滅する危険性がある。ディーン卿だって長期戦になれば援軍が来ると踏んでいるだろう。ならばこの場にいる面々を早急に始末して――と考えるのは何らおかしくない。


「どうする?」


 ディーン卿が問い掛けた瞬間、信人は走った。槍をかざし無謀な突撃を敢行する。

 槍の先端には相当な量の魔力が。それをディーン卿は察したはずだが、それでも相手は冷静だった。


「魔力収束は見事だ。しかし」


 一瞬で横手に回る。信人も即応したが、先に仕掛けたのはディーン卿。

 見舞ったのは蹴り。それを信人は槍でガードしたが、衝撃が抜けたのか小さく彼は声を上げた。


「ぐっ……!」


「当たらなければ無意味だ。魔力を高める技術についてはさすがだが、まだその槍を使いこなしているとは言いがたい」


 ――もし槍に封じ込められた技術を余すところなく体得していたら、信人に明確な勝機があったかもしれない。けれど信人はそうではない。ほんの少しだけ訓練を行った、霊具使いとしては初心者だ。

 技術面において、完全に上をいっている相手――思考が単純な魔物とは異なる、圧倒的な技術で上を行く相手。


 もしかすると霊具の本質的な力では信人が上かもしれない。けれど今の彼には霊具のポテンシャルを引き出せる技量がない。レーネ達と連携ができなくなった時点で、おおよそ勝ち目がなくなってしまった。

 信人がさらなる攻撃を受ける。だがそれを槍で防いではいるが、さすがにまったくの無傷というわけではない。


 衝撃が腕や体に駆け抜け、それが動きを鈍らせているはず。それ一つ一つは怪我をするような攻撃ではないようだが、幾重にも叩き込まれれば内に痛みも生まれてくるはず。ディーン卿はまさにそういう作業をしている。


 さらに拳が叩き込まれ、信人がそれを防ぐ。防戦一方であり、反撃する糸口さえない。

 もしこの状況を打破できるとしたら援軍か、花音自身が戦うか。


「――やめておけ」


 そこで、花音の心の内を察するかのように、ディーン卿が攻撃を止め花音へ視線を注いだ。


「わずかながら攻撃の気配があった。しかし、君はどうやらロクに鍛錬すらしていないようだ。どのような霊具を持っているのかわからないが、こうして私に気配をつかまれる以上、抵抗しても結果は同じだ」


 花音としても実際、そうだと思う――けれど、

 霊具はまだ出さない。懐に忍ばせているだけでも効果はあるらしく、実際花音はこの状態でも魔法は使えた。


(カノの霊具は知られると相当警戒される。だから制御できない内は懐に入れ、見えないようにしておくように)


 レーネにそう指示をされ、ディーン卿にはどんな霊具か悟られていない。けれどアドバンテージはそのくらいしかない。

 ディーン卿は動きが止まった花音を見て、再び信人へ矛先を変えようとする。対する彼は槍を構え直し迎え撃つ――が、攻撃を食い止めるだけでおそらく勝利するのは難しいだろう。


 ならば、どうすべきか――花音は懐にある短剣が熱を帯びた気がした。


 恐怖はない。ここまでの戦いも恐ろしいものであったはずだが、冷静に状況を分析できている。そして自分に何ができるのか、思考もクリアになっている。

 もしかすると霊具が力を使えと語りかけてくれているのかもしれない。しかしだからといって花音はまだ霊具をきちんと制御したわけではない。雪斗達も驚いたほどの霊具。それを御し、ディーン卿に一撃与えることができるのか。


「……もう一度警告しよう。無駄な攻撃はしない方がいい。綺麗な顔に傷がつくぞ?」


 その言葉と同時、花音は一歩足を踏み出す。それでもまだ怖くはない。

 とはいえ光の刃の攻撃範囲に入ったらどうなるか――それが予想できないわけでもない。霊具をまともに扱えない自分が食らったら、ひとたまりもないのは目に見えている。


 けれどそれでも、退く気にはならなかった。


 花音は信人を一瞥する。アイコンタクトであり、信人はその意図を理解した様子。

 だから花音は走った。霊具を使っていないその足はこの場では遅いもの。


「残念だ」


 ディーン卿も攻撃するだけの余裕はあったが――そこへ信人が介入し、攻撃のタイミングを一歩遅らせた。


「ほう、そちらが食い止めるというのか――」


 ディーン卿が声を発した直後、花音は腕をかざし、霊具の力を発する。そして発されたのは、灼熱の魔力だった。


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