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黒白の勇者 ~再召喚された異世界最強~  作者: 陽山純樹
第二章

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来訪者

 時は少し遡り――貴臣(たかおみ)達が戦いを始めると同時に、もう一方の戦いも始まろうとしていた。

「ディーン卿……」


 先頭に立つレーネが呟く。花音(かの)の視線の先には、黒衣に身を包んだ人物が。


「久しぶりだな、騎士レーネ」

「……一応確認ですが、何の目的で城へ?」

「答える必要はないだろう」


 ディーン卿はそう応じると、一歩前に出た。


「さっさと始めるとしよう……しかし運が良かった。ゼルであっても騎士レーネを相手にするのは辛いだろうからな」


 ――ここで花音は思い出す。魔法と物理について。


 レーネは魔法攻撃を防げるが、物理攻撃については防ぐことができない。そして目の前の相手は、物理攻撃を用いて戦う存在。


「……ノブト、頼みがある」


 仕掛ける前に、レーネは傍らにいる信人へ呼び掛けた。


「この戦い、長引けば厳しいものになる……私達騎士が囮になるため、彼に槍を突き立ててくれ」


 そう一方的に告げた直後、レーネ達騎士は走り出した。目標は無論ディーン卿。それに信人も追随し、一斉に仕掛けようとする格好。

 果たしてディーン卿は――その時、花音は相手の顔を見て一度ビクリと震えた。


 笑っている。それも、喜悦に染まり現状を心の底から楽しんでいる。


「素晴らしい。だが、無意味だ」


 宣告と同時に魔力が高まる。だがレーネ達はそれでも突撃を敢行し、一斉に刃を――突き立てた。

 しかし、相手は一切表情を変えない。効いていないのかと理解した直後、花音の目に何かがチラついた。


 それは、光の粒子――粉々に砕かれたガラスの破片くらいのサイズ。それが目の前に出現すると同時、虫が発する羽音のような音が聞こえた。

 反射的に花音は後方に一歩下がる。そして騎士達がなおも剣を振る。さらに信人の槍がディーン卿を捉えようとした瞬間、


 光が一気に拡散した。それは白い光の刃に変じ、花音の目の前の空間を四方八方に暴れ回る。

 空間そのものから刃が生じ、一斉に周囲のものを切り刻み始めた――そう花音が認識した直後、真正面を注視する。仲間達は無事なのか。


 光は短時間で消滅する。状況は、一変していた。


 まずレーネを含めた騎士達は攻撃により全員が膝をついていた。唯一例外なのが信人。彼は槍を構えディーン卿と対峙しており、外傷などはないようにも思える。


「さすが『天盟槍』だな」


 ディーン卿はそう呟き、信人が超然とする姿を称賛した。


「攻撃をきちんと耐えていることもそうだが、何より一切戦意を失っていない」

「それはどうも」


 不敵に返す信人だが、内心不安だろうと花音は思う。

 騎士達がどうにか後退する。ディーン卿はそれを一瞥すらせず信人だけを見据える。


「私達の存在は、既に眼中にないと」


 レーネが告げた瞬間、ディーン卿は口の端に笑みを浮かべる。


「それは君達の努力次第で変わるな」

「……やれやれ、だな」


 騎士達が退いていく中で唯一、レーネだけは信人の隣に残った。


「さて、まともに戦えるのが残り二人となってしまったな」

「……さっきのが、技か?」

「そうだ。空間内に刃を生みだし、それを一瞬で振動させて範囲内のものを全て切り裂く」


 花音の目には無から有が生まれたように見えた。そして同時に直感するのは、この技の特性。


「霊具の中には広範囲攻撃や、驚異的な追尾性能を持ったものも存在するが……この霊具のように一瞬のうちに攻撃を浴びせるという霊具は非常に少ない。最大の特徴は、その逃げ場のなさだ」

「欠点は、そう高い威力ではないことだろうか」


 そこでディーン卿が話し始める。


「騎士達を一気に戦闘不能へ追いやったのは確かだが、高レベルの霊具所持者を相手にするとやや辛いものがある……とはいえ純粋な物理攻撃というのは意外と効果的なケースが多い。上位に位置する霊具は基本、魔法攻撃の特性を持つ物が多く、必然的に防御もそちらに偏るからな」

「ずいぶんと解説しますね、ディーン卿」

「別に話しても問題はないだろう。それに、どう抗うのか私は見たい」


 ディーン卿は語る。それは戦闘を楽しんでいる所作だった。


「加えて言えば、私の攻撃を防ぐ術はない。そちらの君のように、耐える術はあるにしても、だ。ダインの『次元刀』ならば避ける手法もあるが、彼とでは基本勝負がつかないからな」

「……やれやれ、本当に面倒な相手だ」


 愚痴をこぼすようにレーネが告げる。それにディーン卿は笑い、


「私とゼルが城に入り込んだ時点で、こうなることは予想していただろう? さて、続きといこうじゃないか。言っておくが先ほどの攻撃を私はいくらでも放てる。どこまで耐えられるか見物だな」

「……ノブト、君は渾身の一撃を叩き込むことを考えてくれ」


 レーネは語った後、花音へ目を向ける。


「そしてカノ、君はひとまず範囲に入るな」

 花音の霊具の性能は警戒されるとして、短剣を懐に隠している。もしそれを出す時は戦うことを意味するが――

「行くぞ」


 ディーン卿は宣言。同時に信人とレーネは走り始めた。



 * * *



 城の上階で戦いが繰り広げられている状況の中、エントランスにいる騎士は増援ということで早急に準備を進めていた。

 しかし相手は上級霊具使いであり、中には霊具を持たない騎士もいる以上、どこまで対抗できるのか――そんな風に思っていた時、来訪者が現れる。


「――あなた、方は……!」


 にわかにざわつく騎士達。思わぬ登場にその場にいた誰もが言葉をなくす。

 城に入ってきたのは男女。片方は短い茜色の髪を持った女性。その一歩後方にいるのは腰まで届く銀髪を持った男性で、前者は動きやすい格好かつ、後者はゆったりとしたローブに宝石がついた杖を持っている。


「――状況は?」


 茜色の髪を持つ女性が問う。それに騎士達はやや動揺しながら、


「げ、現在ディーン卿と従者ゼルが入り込み、交戦しています。なおかつ彼らは城に仕込みを行ったらしく、それに対し聖剣所持者が対応していると」

「つまり、ディーン卿達は放置と?」

「いえ、騎士レーネを始め複数の人物が対応を」


 騎士は召喚者達も戦っていると伝える。そこで話をしていた女性は、ため息をついた。


「召喚されてからまだ日も経っていない……苦戦しているでしょうね」

「すぐに向かわないとまずいでしょう」


 男性が女性に言うと、


「……まさかイーフィスと同じタイミングでここに来るとは思わなかったわ」

「それはこちらのセリフですよ、ナディ」

「……ともあれ、一人ではなく二人だったのが幸いだったようね。行きましょうか」

「はい……ジーク王は私達が来て早々に動くことを了承してくれるでしょうか?」

「そんなことも言っていられない事態だし、別に良いでしょ。ま、少しくらいは恩を売ってもいいかもしれないわね」


 どこか楽しげに語るナディ。そんな返答にイーフィスは嘆息し、


「ナディ、言っておきますが――」

「ああはいはい、わかっているわよ……それじゃあ急ぐとしましょう」


 両者は駆ける。ナディは服装からして軽快な動作かつ、騎士が瞠目するほどの速度。

 しかしイーフィスもそれは負けていない。そのゆったりとした格好からどうしてそんな速度が出るのかと思うほど、いとも容易くナディに追随する。


 そうして二人の姿がエントランスから、消えた。騎士達はそれをただ呆然と眺めるだけであり――やがて騎士の一人が我に返り、戦闘準備を急ぐよう指示をするのだった。


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