表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒白の勇者 ~再召喚された異世界最強~  作者: 陽山純樹
第二章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

53/397

騎士の刃

 翠芭達が悪魔と交戦するより少し前、通路の右側を進んだ貴臣(たかおみ)達の目の前に現れたのは、細身かつ肩に掛かる程度の黒髪を持っている男性だった。

 その人物が誰であるのか、先頭に立つマキスはわかっているようで、


「……ゼル殿」

「あなたは見覚えがある。確か霊装騎士団所属のマキス=アムファでしたか」


 ゼル――貴臣はディーン卿ではなくその従者であると即座に理解する。


「こちらの目論見通り分かれましたね」

「……計略通りと言いたいところのようだが、ここで進撃は終わりだ」

「そうでしょうか」


 肩をすくめるゼル。飄々とした態度は魔神の力を抱えているとは到底思えない様子だったが、貴臣が目を凝らせば彼の体に薄気味悪い力が備わっているのが認識できた。


(……僕の魔法で魔神の力を取り払うことはできる。けれど――)


 確かにリュシールから教えを受けた。けれどそれは魔力を溜めに溜めなければ使えない技法。雪斗が多大な魔力を消費しなければ使えないように、貴臣も魔力を周囲から集め高めなければならない。

 それを実行するには、当然ながら相手を戦闘不能にさせなければならず――つまり、戦わなければならない。


 ここまで魔物を討伐してきて、確かに貴臣は戦闘経験を得てきた。隣にいる千彰(ちあき)も同様だ。けれど目の前にいるゼルという人物は、そうした経験が無意味と思えるほど圧倒的な気配が存在していた。


「……お二方」


 そこでマキスが声を発する。それは、貴臣達に発せられたもの。


「私達騎士団が時間を稼ぐ。その間に力を高め、攻撃してくれ」


 それだけ。というより彼自身相手が相手なので細かい指示ができないということか。

 ただ貴臣としてもどうすればいいのか、咄嗟に判断ができなかった。というのも相手は霊具を所持した人間。レーネから「ディーン卿くらいの実力者ならば、今の君達が全力でやって釣り合うくらいだ」と助言はされているが、本当に大丈夫なのか。


 疑問はあったが、おそらく加減する余裕などないだろう――そう心の中で断じた直後、マキスを始めとした騎士達が一斉に散開した。


「無謀極まりないな」


 ゼルは端的に呟いた後、武器――剣をかざす。特に飾り立てのない白銀の刃を持つ剣。それがおそらく霊具『黒羅刹』で間違いない。見た目とは裏腹の名称。その実力は如何ほどか。

 マキス達が仕掛ける間に千彰がまず動いた。右手に風を集め始めたかと思うと、貴臣も一歩遅れて『空皇の杖』に力を集め始めた。


 そこへ騎士達がゼルへ迫る。マキスよりも一歩早く別の騎士がゼルの横手から間合いを詰め、一閃する。


「無駄だ」


 対するゼルの言葉はひどく端的なものであった。刹那、彼の剣で騎士の刃が跳ね上げられたかと思うと、騎士の体が――浮いた。

 あまりの結果に貴臣は魔力を収束させながら瞠目する。体格があるわけでもないのに騎士がはね飛ばされ、あまつさえ空中で一回転して床に激突した。


 続けざまに襲い掛かった騎士の一人に対しては、縦に振り下ろした斬撃を見極め避けると一瞬で背後に回った。そして蹴りを入れたかと思うと騎士が吹き飛び、床を転げ回る。

 三人目は真正面からの突撃だったが、剣を振り下ろす前にゼルから肉薄し、懐へ潜り込んで一撃。騎士側も防御はしていたのか出血は見受けられなかったが、吹っ飛んだ体が貴臣達が立っている場所を通過し、壁に激突した。


 四人目は――立ち止まり、警戒を示す。とはいえこの調子では同時に攻撃したとしても無様な結果にしかならないだろう。


「……そう力を入れているわけではないんですけど、ね」


 ゼルは余裕の表情。それと共に見せる狂気の笑み。ただ視線は、マキスを射抜き警戒しているような雰囲気もあった。


「本気を出していないのは、こちらの大技を使うタイミングを見極めているためです。騎士マキスの実力はこちらも知っています。怪我は避けたいですしね」

「……手の内を知っているために、あえて本気を出さず様子見をしているというわけか」


 マキスの隣に騎士が立つ。さらに吹き飛ばされた三名の騎士も起き上がり、戦闘態勢を整える。

 戦意は喪失していない。ただ貴臣の目には目の前の敵が隙を作るとは思えない。


「とはいえ、こちらから攻勢を掛ければ均衡は簡単に崩れる。となれば、選択肢は一つしかない」


 マキス達が走る。もしその圧倒的な攻撃力で攻め込まれればひとたまりもない。よって、あえて突撃し起死回生に打って出た。

 とはいえ勝算はあるのか――それと同時、貴臣はゼルからの視線を感じた。その警戒の度合いは間違いなくマキス以上。果たしてこの状況下で魔法を放つタイミングが生まれるのか。


 そして騎士達が一斉に仕掛ける。背後以外、左右と真正面からの同時攻撃。後退する余地を残しているのは、わざとなのか。

 そこでマキスが動く。先ほどゼルがして見せたように、一瞬で移動し背後に回る――


「縮地とも言える技法、お見事です」


 彼に、ゼルは称賛の言葉を送り、


「ですが、それが命取りとなる――」


 直後、ゼルが持っていた剣が青く、怪しく光る。

 来る、と思った直後、壁に激突した騎士と貴臣達の傍にいた騎士が防御の構えを見せて二人の正面に立った。


 何を、と思った矢先、ゼルの攻撃が来る。それは彼を中心として、全方位にばらまかれる青い刃。

 一瞬の出来事。ゼルへ向かっていた騎士達は防御する暇もなく、刃を身に受ける。そして彼らをすり抜けた刃が縦横無尽に空間を駆け抜け、壁を打った。


 そして貴臣達の前に立っていた騎士達が刃を受け、倒れ伏す。


「あ……」


 貴臣が呟いた直後、千彰が動いた。タイミングを見計らい――それはもしかすると霊具に秘められた意思が今だと告げたのかもしれない。右手から放たれたのは風。魔法の刃が青き刃と同様部屋を駆け抜け、ゼルに――直撃した。

 重い破裂音と床を砕く衝撃波。けれど攻撃はそれだけではなかった。ゼルの背後。そこに攻撃を回避したマキスが現れる。


 背後に回ったのは別の騎士――フェイントで他の騎士を盾にすることで刃を防ぎ、ゼルの体へ一閃する。


「っ……!」


 呻くような声を貴臣はしっかりと耳にした。いけるのではと考えた直後、マキスがゼルの背へラッシュのように剣を叩き込み始める。

 これを逃せば勝機はない。そう彼は確信したらしく、鬼気迫る勢いの剣戟だった。


 一太刀一太刀が貴臣が知覚できるレベルを超えている速度。それが幾重にも叩き込まれ、さすがのゼルも追い詰められた――と思っていた。


「さすが、ですね」


 だが彼も余力を残していた。攻撃を受けながら半ば無理矢理旋回し、捨て身の攻撃を繰り出していたマキスへ一撃を決めた。

 マキスは防御したようだったが、相手の力に耐えきれず足が宙に浮き、背後にある壁へ激突する。


 気付けば騎士達は全員倒れ、残されたのは貴臣と千彰だけ。


「あと一歩、といったところですか。とはいえもう勝つ手段はない」


 貴臣は杖をかざす。タイミングを逸したため、まだ杖に魔力は残っている。だが策もなしに撃っても絶対に当たりはしないだろう。


「あなた方は召喚者……とはいえ霊具の使用経験はまだ浅いはず。騎士が倒れ支援がない状況ならば、この私でも倒せる」


 一歩近づく。ダメージが残っているのか多少なりとも歩調は緩やかだが。


「この距離から防がれれば、さすがに次は杖の魔法が飛んでくるでしょう。絶対に一撃で仕留めます」


 そう告げた直後ゼルは駆ける。まずい――そう貴臣が思った直後、


「させるか!」


 対抗するとばかりに、千彰がゼルと対峙した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ