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黒白の勇者 ~再召喚された異世界最強~  作者: 陽山純樹
第二章

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初陣

 雪斗がいよいよダインとの戦いが迫っているという連絡が来た翌日、とうとう翠芭(すいは)達は魔物と戦うこととなった。

 今回は霊具を手にしたクラスメイト五名に加え、レーネとマキスの七人で魔物討伐を行う。


「魔物からしたら不幸もいいところだが、な。何せ召喚者達は特級霊具以上の使い手だ。どうあがいても勝ち目がない」

「とはいえ油断はできないですよね?」


 と、貴臣(たかおみ)は訊く。それにレーネは頷き、


「無論、魔法など行使していない生身の状態なら危険だ。まあ霊具がどんな状況でも魔力さえあれば守ってくれるため、意図的に力を使わないようにするようなことがない限りは怪我することはない」


 楽観的なレーネの言葉。恐怖心を与えないよう配慮している面もあるだろうと翠芭は思う。


 魔物――翠芭は雪斗が戦っている映像を見ているため、それがどういうものか理解はできる。しかし見るのと間近で対峙するのとは大きく違うだろう。聖剣の力で不安もなく大丈夫だとわかっていても、本当に恐れず立ち向かえるのか。それを図るのに、今回の戦いは適している。


「王都周辺には転移できるよう術式が展開してある。その部屋が、ここだ」


 翠芭達が訪れたのは城の一角、入口に程近い場所。

 扉を開くと奥行きのある部屋が現れた。そこには作業をしている魔術師らしき人物が複数人。加えて足下にはいくつもの魔法陣。


 そして、騎士の一人が今まさに転移しようとしていた。魔術師が何事か唱えると、魔法陣が光り輝き騎士を包み込む。一瞬光に覆われ騎士の姿が完全に消え、光もまた消え去る。すると騎士の姿は消えていた。


「戻る場合は帰還用の魔法陣を踏むか、自ら魔法を使うかなのだが……スイハ達はだ魔法を自在に操れるわけではないから、ひとまず私が帰還については対応する」


 レーネは告げると近くにいる魔術師へ呼び掛ける。


「報告は受けているな? 指定場所まで転移を頼む」

「わかりました。では、こちらの陣にお乗りください」


 手で示す魔術師。翠芭達はそれに従い魔法陣の中へ。


「陣の中へ入っていれば範囲には入っているから、詰めなくてもいいぞ」


 レーネはそう呟き、全員が魔法陣内にいることを確認してから、魔術師へ目配せした。

 それに応じ魔術師は何事か唱える。直後、魔法陣が光り始め、翠芭達は光に包まれた。


「おお……」


 信人(のぶと)の声が聞こえた。次の瞬間、浮遊感にも似た感覚が一時翠芭の体を駆け抜け、

 気付けば、目の前が部屋ではなく森に変わっていた。


「転移完了だ」


 レーネが言う。翠芭達は周囲を見回す。どうやら森の中らしく、翠芭達がいる周辺だけはぽっかりと木々のない空間が存在していた。


「ここから少し歩いた場所に魔力溜まりが存在する。迷宮による影響なのか王都の周辺にはそうした場所が多くて、その地点に魔物が出現したら即座に対応できるよう、こうして魔法陣が設置してあるんだ」


 レーネの解説を聞きながら翠芭は地面を見下ろす。じっと見つめると、淡く魔力を感じ取ることができた。

 彼女の解説からここには魔法陣が予め準備されていて、いつでも出撃できるような態勢が整っている、ということだろう。


「普通は霊装騎士団や、魔物の質によっては霊具を使わないケースも存在する。今回は霊具を使わなくとも問題はないくらいの質だが、翠芭達が戦いに慣れるためには手頃な相手だろう」


 さらにレーネは続けながら一歩前に足を出す。


「ではついてきてくれ。マキス、スイハ達の後方で警備を」

「承知した」


 そして翠芭達は騎士二人に挟まれる形で歩き始める。森に入るのだが、通りやすいように雑草などが刈られた道が存在している。


「森を開けたりはしないんですか? その方が魔物を倒しやすそうですけど」


 貴臣が質問。それにレーネは一度首を彼に向け、


「緩衝材がなくなるから駄目だ。街道と魔力溜まりを森で隔てているのだが、仮に木々がなくなると阻むものがなくなり、魔物達が街道まで出て民間人を襲うようになってしまう」

「なるほど、納得です」


 貴臣が応答した時、森を抜けた。そこから先は、ちょっとした岩場だった。

 どうやらここも森に囲まれた空間のようで、街道などを木々が封鎖しているような形。そして岩場にどうやら魔物がいるようで、唸り声が聞こえた。


「数は……ふむ、十体はいるな」

「そんなに、ですか?」


 翠芭は驚く。気配を感じることはできるが、まだ数までは特定できない。


「野生の魔物は集団行動をするため、このくらいの数はそう珍しくはないよ……さて、初陣だ。とはいえ教えられたことを守れば、確実に勝てる。まずは霊具の感触をしっかりとつかんでくれ」


 レーネから言葉を受けると同時、魔物が現れる。それは人間のような体躯を持ち、なおかつ頭部が人間とは異なる醜い――悪魔だった。


「まず、見た目に惑わされないこと。敵の強さは魔力の多寡によって決まる。どんなに小さくとも魔力が大きければ脅威となる」


 レーネが剣を抜く。それと同時に翠芭達も武器を構えた。


「狡猾な魔物は魔力を隠すのも上手いが、特級以上の霊具を所持する君達ならば力量を看破できるはずだ。まずは敵の捕捉から」


 そう言われ、神経を集中させる。同時、岩場の陰からさらに悪魔が複数出現する。見た目はどれも一緒なのだが、翠芭は目を凝らし――わずかながら気配の濃さに濃淡があるように感じられた。


「目を凝らせば魔力の多寡を見ることができるはずだ。慣れれば意識せずともわかるようになる。そして同系統の個体であっても、違いがあるのも理解できるだろう」

「確かに、わかるな」


 信人が同意。そこでレーネは笑みを浮かべ、


「性質が同じ魔物であっても、その能力にはばらつきがある。例えば右腕に魔力を集める者もいれば、皮膚が硬いといった特性を持つ、などだ。言ってみればそれが魔物の個性というものなのかもしれない」


 そう彼女が述べた矢先、悪魔の一体が雄叫びを上げ、突撃を仕掛けてくる。召喚される前ならば棒立ちするしかない恐怖の光景。しかし今の翠芭は違っていた。

 それは他のクラスメイトも同じらしく――最初に前に出たのは、信人だった。


「まずは俺が」


 先陣を切るらしい。悪魔が猪突猛進で翠芭達へ駆けてくるのに対し、信人は真正面から応じる構えを見せた。

 そして彼は――槍をかざし、攻撃ではなく防御する。


 オオオオオオ!


 雄叫びが森に響き渡る。それと共に放たれた体当たりを信人は槍越しに受ける――しかし、


「すげえな、これは」


 彼は衝撃によってわずかに後退したが、それだけだった。なおかつダメージも皆無らしい。

 直後、槍が動いて悪魔を弾く。体格は悪魔の方が一回り以上大きいが、信人は槍を用いて難なく対処している。


 そして反撃。動きは洗練され、まるで槍をずっと前から持っていたかのように、流麗なものだった。

 悪魔は身じろぎすることすらできないまま、胸に刺突を受ける。途端、ザアッと体が弾け、塵と化す。


「見事だ」


 レーネが告げる。霊具が強力であるが故の結果みたいだが、それでも信人にとっては自信になったようで、


「すげえな、この武器……」

「これはその霊具のほんの一部分に過ぎない。ここで驚いていては身が持たないぞ」


 そんなフォローを入れた後、レーネは他のクラスメイトへ視線を向ける。


「悪魔はまだいる。他の者達も戦い、感触をつかんでくれ」


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