様々な技術
「まずはダインだな。彼が所持する霊具は『次元刀』……ただこれについては少々詳しい説明が必要か」
そう述べたレーネは、翠芭達へ言葉を選びながら説明を始める。
「天神に関わる技法の一つに『次元干渉』という名の技術がある。理論的な内容は省くが、この技を使用した者は魔力が続く限り相手の攻撃を受け付けなくなる」
「直接見てもらった方が早いかしらね」
リュシールが述べる。彼女はレーネに腕を差し出し、
「レーネ」
「わかりました」
声に従いレーネが手を出す。それにリュシールは腕に魔力をまとわせ、レーネの手に触れるが――その手はまるで映像であるかのようにレーネの手を通過した。
「これは私がユキトと契約した際とは別状況よ。この世界に対し、薄皮一枚分だけ違う異層に体を移動させる技術とでも言うのかしら。本当はもっと複雑な説明がいるのだけど、その辺りは割愛して……この技法が発動している間は、どんな敵もすり抜けることができるの」
「無敵、ってことですか?」
翠芭が疑問を呈する。それにリュシールは首を左右に振った。
「魔力が続けば、という話ね。それと物理的な障害は透過できるけど、魔法による結界について通過することはできない。これは魔力を使って技法を維持しているから、同じ魔力に阻まれると身動きがとれなくなる」
「一番の対策は、小さい結界でダインを拘束する方法なんだが」
と、雪斗が話し始める。
「それがまずいとダインもわかっているだろうから、常に動いてかく乱するんだよな」
「そうね。だから別に対策が必要になるかしら」
「あの、一ついいですか?」
貴臣が小さく手を上げて、質問する。その目はいまだレーネの腕を貫通しているリュシールの手に。
「その状態で次元干渉というのを解除したらどうなるんですか?」
「物質に触れている間は解除できないわ。けれど魔力が途切れたらどんな状態でも強制解除される。もし今の状態で魔力が切れた場合、透過している部分は消えてなくなるわ。レーネの方に影響はない」
その言葉で貴臣はゴクリと唾を飲む。
「かなり危険な技法なんですね」
「そうね。けれど使い方を誤らなければ非常に強力……敵の攻撃を受け付けないんだから。実際ダインはファージェン平原の戦いで指揮官級の魔物を二十体以上撃破した。これは配下の敵を無視し、指揮官だけに狙いを定めたもので、相手はこれにより混乱した。こちら側が勝利した一因にもなったわね」
「特級霊具なので、まさしく戦局に影響を与えたってことですか」
「正解。でも弱点も存在する」
リュシールは手を引き能力を解除しながらレーネへ視線を移す。解説役を任せるらしい。
「……では、私が続きを話そう。次元干渉は確かに凄まじい能力だが、技術的な制約がある。この能力を使用する間は他者に触れることはなくなるが、攻撃する場合も一緒であり、一度能力を解除しなければ相手に刃を叩き込むことができない」
「つまり、敵を倒すためには能力を解かないといけない……」
翠芭の言葉にレーネは深々と頷いた。
「そう。つまりこの能力の対策としてはカウンターだ。ダインならば能力の発揮と解除は瞬時に行えるはずだが、攻撃する瞬間だけは確実に能力を解除しなければならないからな」
そこまで言うとレーネは一度間を置いた。
「ダインの説明についてはこれでいいだろう。残る二人、ディーン卿とゼルについてか。この両者は似た形質の霊具を所持している。ディーン卿が『黒王刃』でゼルが『蒼羅刹』という名称。際だった特徴というよりは、両者とも攻守共に堅実なタイプの霊具であるため、こちらも相応の能力を求められるが……注意すべき技が二人には存在する」
レーネは一度目を伏せる。どうやらその技を思い出しているらしく、
「双方とも霊具の名称をあやかったとでも言うべき奥義……下手すると連発するような技でもある。広範囲攻撃で、周囲に魔法の刃を拡散させる技なのだが、両者の技には決定的な違いがある……物理攻撃なのか魔法攻撃なのか」
「区別するほどの違いがあるってことなのか?」
疑問は信人から。それにレーネは首肯し、
「ディーン卿は物理攻撃でゼルが魔法攻撃なのだが、私の『聖霊剣』でゼルの攻撃を防ぐことはできる。反面ディーン卿の攻撃は一切防げない。霊具にとって物理と魔法とでは性質に決定的な違いがあるようだ。ただ、人間が食らっても違いはわからないが」
「つまり、レーネさんはゼルさんには勝てるけど、ディーン卿って人には勝てないと」
「そういうことだ。ここは相性の問題だからな……ちなみにノブトが戦う場合、たぶん逆になるな。ただディーン卿に勝てるかどうかは微妙だが」
「それだけ強いと」
「特級霊具使いとして、上位に位置する御仁だからな」
レーネの言葉に信人は押し黙る。先の戦争で戦線に加わっていた事実から、言葉に重みがあると感じたのかもしれない。
「加えて二人一組で行動するのも苦戦する要因だな……下手すると三人同時に相手をする必要性があるかもしれない」
「……ユキト、仮に三人同時相手だとすれば、勝てるかしら?」
ふいにリュシールの問い掛け。それにレーネを始め翠芭達は雪斗に注目する。
「正直なところ、ただ倒すだけならたぶんいけるが……」
「それは魔物のように滅するという意味ね?」
「そうだ。できることなら……助けられるのなら助けたい。そもそもこれがアレイスの仕業なら倒すのは敵の思うつぼだろ?」
「そうね」
「リュシール、さっき助ける方法があると言ったな?」
「ええ。簡単に言えば『神降ろし』の力を用いて、魔神の力を相殺する」
「相殺……それは――」
「現在ユキトの体には本来ある魔力以外に、私と契約したことによる天神の魔力がある。その天神の魔力を使って今回寝返った人物の体に存在しているであろう魔神の魔力を消し去る。ただどのくらいの魔力量が必要なのかわからないし、確実に魔神の魔力を消すのなら、それこそ『神降ろし』を発揮して相殺した方がいいわね」
「確認だけど、彼らを一度戦闘不能にしてから魔力相殺、という流れでいいのか?」
「そう思って構わないわ」
「けど、それをしようと思ったら――」
「ええ、そういうこと」
リュシールは小さく息をつき、続ける。
「彼らと出会い初手で『神降ろし』を使い戦闘不能、魔神の魔力を相殺……はいいんだけど、この場合だと私がユキトと必ず同行しなければならない」
「俺が抱えている魔力だけでは使えないからな」
「魔力をため込む霊具があったはずだから、それに私の力を封じて戦闘の際に力を解放して擬似的な『神降ろし』を行使することも可能よ。けど霊具が抱えられる魔力量には限界があるし、この手を使うのなら魔神の魔力を相殺するのに私の力を集中させた方がいいと思うわ」
「仮にリュシールが同行しなければ魔力相殺の分しか魔力を保持できない……実質『神降ろし』は使えないと」
「そうね」
「けど、リュシールはアレイスの捜索をやるって話だよな?」
「私はそう考えていたけど――」
「なら、リュシールはそれを優先してくれ。アレイスを野放しにはできない。霊具をかき集めて三人分の魔力を相殺できるだけの魔力を用意してもらうことにしよう」
その言葉で――リュシールも頷いた。
「ならばそうしましょう……問題は彼らが分散して別々の場所に攻撃を仕掛けてくる場合ね」
そう述べると、リュシールは少し考え、さらなる提案を行った。




