避けられない事象
――魔力樹、改め魔導樹の下で拠点を構えそこにいたユキトは、拠点内のテレビで邪神が演説する映像を見ていた。その映像が途切れた瞬間、即座にユキトは食堂で話し合いを行う。既に事態によって仲間達は集結していた。
「邪竜……いや、邪神は動き出した。まさかテレビジャックをしでかすとは思ってもみなかったが……」
「普通なら、早期に映像が切り替わっていたはずだ」
そう発言したのは、ツカサ。
「だが、そうはならなかった……ある程度の時間、放映され続ける状況を維持できたため、起こってしまった」
「……俺達を舞台上に上げると言ったな? それは一体――」
「詳細が判明したよ」
イズミの声だった。彼女は何やら資料を携えてユキト達へ近寄った。
「現在、東京湾に魔物が発生。これも予め仕込んでいたんだと思う」
「東京湾……?」
「湾内に突如、魔法陣が起動して魔物が出てきた。その大きさは……怪獣映画に出てくるようなスケールと言えばいいかな?」
「……特撮ものでは、東京が狙われるみたいな物語があったけど、それと同じ事が起こっていると」
「そうだね」
「迎撃するにしても、魔物の大きさから秘匿することはできないか」
「周囲には魔法があちこちに仕掛けられている。戦闘するには支障ないレベルの妨害魔法だけど、例えば広範囲に幻術なんかを掛けるみたいなことは無理そう」
「……仕掛けを破壊するのにどのくらい掛かる?」
「仕掛けの多さから、数時間後……使い魔で魔物を観察しているけど、その時間があったら上陸しちゃうね」
「魔物の姿を確認することは?」
ユキトに問われ、イズミは手をかざした。すると彼女の頭上に、映像が浮かび上がる。
その魔物は――映画に存在するような、まさしく怪獣と呼べるものだった。ただ共通としては黒を基調としており、この世界で幾度も遭遇した魔物のような特性も残しているように見受けられた。
「邪竜は映画でも参考にしたのか?」
ユキトが疑問を呟くと、イズミは小さく肩をすくめ、
「さあね。でもまあ、邪竜には配下もいる。そうした人が助言をしたのかも」
そこまで語った後、イズミは息をついた。
「私達は魔法で姿を変えられるし、正体不明の存在として魔物を倒すことは可能だけど、どうする?」
「確認だがイズミ、魔物は倒せるのか?」
「魔法で観測をした限り、図体がでかいだけだね。質量は大きいから時間は掛かるかもしれないけど、霊具を持った私達なら倒せるよ」
その言葉にユキトは一つ頷いた後、
「なら、問題は倒し方だな……いきなり空想の世界でしか存在し得なかった巨大な魔物を人間が倒す。どういうことなんだと、人々は困惑するだろう」
「邪竜――いや、邪神は私達へ向けて宣戦布告した。魔物に相対する私達の存在を、ある程度理解すると思うけど……」
「そうだとしても、政府側としてはどう説明するか苦慮するところだろう……そもそも、俺達の存在を政府関係者だって一部しか知らないはずだ。政府内も大荒れになるだろうし……」
「戦い方は重要って話?」
イズミの問い掛けにユキトは頷いた後、オウキへ顔を向ける。
「何か手はあるか?」
「……正体不明の戦士、というのはさすがにまずいだろうから、ある程度素性を話した方が、混乱は少ないと思う。ただ問題は、マスコミなんかの動きだけど」
「この中の誰か……その素性がわかれば、マスコミはこぞって俺達のいる町に来るだろうな。そこについては――」
「対策はしてある」
そう発言したのはツカサ。
「魔法による処置であるため、この世界の人々は抵抗できない……問題なく対策は機能する」
「なら、少なくとも町の平穏は保たれるわけだ……でも、正体を明かした人の親族なんかがどう反応するのか――」
「そこは、もう覚悟を決めるしかないだろう」
と、ツカサは目を細めながら告げた。
「魔導樹が発生した時点で、魔物の出現は確定的だった。であれば、俺達が表舞台に上がるのは……」
「避けられない事象だった、というわけか」
ユキトはため息を交え呟いた後、オウキへ向け指示を出す。
「……俺達が動くことを政府関係者に伝えてくれ」
「わかった。魔物はどうするんだ?」
「図体のでかい魔物の戦い方は知っている。俺が行くよ」
「つまりそれは、矢面に立つのはユキトだということ?」
「邪神は名を告げなかったが、俺の存在に言及した……そして俺だけが、異世界で戦った能力をそのまま持っている。そして邪神やカイを止められる最大の戦力であることも……であれば、俺がまず陣頭に立つのが筋だろ」
「でも、それは――」
その時、ユキトの懐でスマホが鳴った。すぐに取り出して確認すると、メイの名前が表示されていた。
彼女だけは仕事の関係で、この場にいない――ユキトは仲間にメイからの通話であることを告げた後、電話に出た。
「もしもし、どうした?」
『ユキト、拠点にいる?』
「ああ、仲間もいるよ」
『ならスマホをスピーカーにしてほしい……魔物が出現したことは知ってるよね? 一つ提案があるの』
――ユキトはスピーカーの設定にしてテーブルにスマホを置く。そこで、メイが話し始めた。




