時間を稼ぐ
「……推測、か」
ツカサが小さく呟く。ユキトとオウキは彼へ視線を投げると、
「カイと邪竜、両者が組んで動いているわけだが、どのレベルで動いているのかわかるか?」
「どのレベル……とは?」
ユキトが聞き返す。そこでツカサはユキトを見返し、
「人気のない場所で魔力樹などを準備……というのは理解できる。それによって見事この世界に魔物が出現し始めたわけだが……支配、というのは人間の支配だろう? ということはつまり、人間に何かしら干渉しなければならない。カイ達はそういう行動を起こしている、と考えていいのか?」
「……これはボクの推測だけど」
と、今度はオウキが話し始めた。
「以前、ユキトは邪竜に従う人間と遭遇したことがあるだろう? その人物についても見つけられていないことを考えると、潜伏する拠点が存在する……かくまう人物がいるということだ」
「しかもそれは、捜索しても見つからない場所か」
「邪竜による処置で魔力を悟られないようにしているのは確実だけど、ボクらが探しても見つからないというのは……隠れる、といっても長期間となればお金だって必要だろう。例えば邪竜に付き従う人間が単なるサラリーマンであれば、あっという間に資金は枯渇するだろうから支配のために動くなんて夢のまた夢だ」
「ということは……」
ツカサが声を漏らすと、オウキは小さく頷いた。
「邪竜に従う者の中に、資金を提供するパトロンがいるんだと思う……カイもおそらく資金提供者の所にいると考える方が自然だ」
ユキトはオウキの発言に頷く――それが意味することは、
「……もし」
少し間を置いてユキトは口を開く。
「その資金提供者が、例えばの話政府関係者と知り合いだったとしたら……」
「そういう可能性が一番怖いね。最悪、ボクらの情報が筒抜けである可能性がある……ただ、向こうはボクらの拠点の詳細まではわかっていないはず。政府にも具体的な内容は語っていないからね」
「……そもそも、魔力樹の魔力を利用している施設だからな。カイ達も拠点ができたことは知っているという前提で俺達も動いている。拠点内にまで侵入される、ということについては危惧していないが……」
「何かしら情報を得ているだけでも、ボクらとしては厄介だ。ただもし、そういう人物がいるのであれば、ボクらが捕まえれば一気に邪竜とカイの居場所に近づくことができる」
ユキトとツカサは同時に頷く。邪竜側としてもユキト達の動向は確認したいだろう。だがそこを咎めることができれば――
「……まあ、ここについても色々やっていくとして、だ。ひとまず魔物について早急に対策しないといけない」
オウキは話を戻した。
「現状、魔物が発生した場所に仕掛けを施して対処できるようにしてはいるけれど、あくまで応急的なやり方だ。ついでに言えば、ボクらのことが公になっていないためにやれることでもある」
「俺達の存在を公にするのは……いずれやらなくてはいけないと思うんだが」
ユキトは言いつつ頭をかく。
「今はできる状態にない、という解釈でよさそうだな……」
「少なくとも各国政府が認知して以降、じゃないかな……具体的にどうするのかは、ボクも想像できないけど」
「正直、一年後どころか一ヶ月後の状況すらわからないんだ。公表すると決めた際に、どうすべきか議論するしかないな」
「――ならば、やることは決まったな」
と、ツカサがおもむろに発言した。
「カイと邪竜のことを引き続き追う……加え、魔物の対処をする。特に魔物の方は対症療法的なやり方しかないが、魔物の発生場所については時間を掛ければある程度わかるようになるだろう。データを収集しつつ、出現場所の多い地点に使い魔を配置し……秩序維持に努め、政府が俺達のことを説明できるようになるまで時間を稼ぐ」
「……それしかないか」
ツカサの言葉にユキトは同意しつつ、
「懸念としては、カイや邪竜が行う次の一手と……政府は俺達のことを公表するのかどうか。各国政府に情報提供するのはまあ確実にしても……世間に公表するのか?」
「状況次第としか言いようがないな。ユキトが言ったとおり、今は一ヶ月後の状況すらわからない。とにかく時間稼ぎをしつつ、カイ達を追い続ける……政府が何かしら決断するまでは、やるしかない」
「……大変そうだし、イズミやタカオミの負担が増しそうだな」
「どうするかはちゃんと決めないとね」
オウキが言う。ユキトはそこで彼を見返し、
「なら俺達がこの部屋を出てやることは……魔物の動向を探る調査班を決めることか」
「何かしら、役割をそれぞれ決めた方がよさそうだね……ここはみんなと相談する必要がありそうだ」
「みんな自分の能力については理解しているし、適材適所でいけると思うが……よし、それじゃあ早速行動しよう。まずは魔物の発生に対処……そして、一刻も早くカイと邪竜を見つけないと――」




