霊具について
「霊具には、その特性や能力によってランク分けがされているの。基本的に内に秘める魔力が高ければ上の階級になるわね」
解説を始めたリュシールの言葉を、翠芭達は黙って聞き続ける。一方の雪斗はお茶を飲みながら頭の中で霊具について復習することにした。
「階級は全部で六種。上から神級、天級、特級、一級、二級、三級ね。ただ神級は考慮に入れなくてもいいわ。スイハが持つ『星神の剣』しか該当する物がないから」
言われて翠芭は傍らに置いてある聖剣を一瞥した。
「階級の基準というのは?」
「上から三つは決まっている。これは天神である私や霊具の専門家が導き出したものだけど、神級は一言で表せば単独で魔神に対抗できる力を持つ霊具よ」
「魔神……」
「とはいえ魔神と直接戦うなんてことにはならないと思うから、聖剣は特別強い霊具という認識でいいわ」
そう述べると、リュシールは雪斗へ視線を向けた。
「ユキトが持つディルは天級だけど、ユキト自身は魔神に対抗しうるだけの技術を得たわね」
「……『神降ろし』のことか」
「ええ。あれを用いれば聖剣に比肩し得るだけの力を出すことができる。けれど今回その力は別の場所で使うことになるわね」
「どういうことだ?」
「霊具の説明を終えたらそちらも話すわ。では次に天級と特級。この城の宝物庫に眠っている霊具はそのほとんどがこの二つの階級の物よ。扱える人間が少ないけれど強力であるため、使用者がいなければ国が管理することが定められている」
「その二つにも階級を決める基準があるんですか?」
さらに翠芭は質問。リュシールは「もちろん」と応じ、
「天級は『戦争級の戦いを単独で勝利できる力を持つ』物……例えばユキトが持つディルはその継続戦闘能力の高さから魔物を延々と屠り続けることが可能であり、一つの戦争を終わらせることすらできる……つまり天級はそうした底知れない力を持っている霊具に与えられる」
ここで彼女は肩をすくめる。
「もっともこれはあくまで大ざっぱな基準だから、当てはまらないものもあるわよ。次に特級。これは『戦争の中に存在する戦局を大きく変える力を持つ』霊具ね」
そこまで言うと、リュシールは翠芭達を見据え、
「タカオミが持っている『空皇の杖』は天級。そしてノブトの『天盟槍』は特級……ちなみにレーネの『聖霊剣』も特級よ」
「僕の杖は天級ですか?」
「その力を有効活用できれば、それこそユキトのように戦争を終わらせることだって可能だと思うわ」
リュシールの発言に、貴臣はにわかに緊張した表情を示した。
「とはいえ、同じ階級でも相性や上下関係は存在する」
そこでレーネは口を挟む。
「私の剣はノブトの『天盟槍』に勝てないのは以前も説明したはず。同じ特級だからといって全てが互角に戦えるわけではないし、尖った性能を持っているが故に弱点も存在するケースが多い。加えて同じ特級内でも下位、上位といった力の差も存在する」
「あくまで一定の基準を当てはめている、という感じで認識してもらえばいいわ」
レーネに続いてリュシールが語ると、翠芭達は一斉に頷いた。
「そこから能力や性能によって一級から三級まで振り分けている……けれどレーネが言った通り、相性や特性により一級が特級を破る、あるいは特級が天級を破る、なんてことは往々にしてある。だから弱い霊具だとして油断は絶対しないこと」
「――番狂わせの話は、俺も一つ知っているな」
ここで雪斗が口を開いた。
「これは極端な例だけど……過去、天級霊具を使わなければ対処できないような強力な魔物がいた。圧倒的な攻撃力で他を寄せ付けない魔物……しかしそれを倒したのは二級霊具の所持者だった」
「どんな効果が?」
興味を示したのか信人が問い掛ける。
「その霊具は『所持者を致命傷から守る』という物だった。少々わかりにくいけど、例えば急所を貫かれたり、首を切断されたり……そういう即死攻撃から所有者の身を守るという霊具だ。どうやって守るのか理屈は俺も知らないから省くけど……ただ、致命傷でなかった場合はきちんと攻撃を食らってしまう。よって刀傷を受け続けて出血多量による死亡とかも普通にあり得る」
「でもその魔物相手では効果を発揮した……」
「簡単に言うと、魔物からの攻撃が霊具所持者にとって全て致命的な威力だった。結果、霊具所持者は攻撃をまったく受けず、懐に潜り込んでその心臓を剣で刺し貫いた。これにより魔物は討伐された」
「極端な話ではあるわね」
雪斗に続き、リュシールが語る。
「でも霊具によっては何かしら突出した効果を持つ物がある……例え二級、三級でもね。そしてもう一つ注意してもらいたいのは、霊具自身真価を発揮しているかはわからないということ」
語った後、リュシールは信人の傍らに置いてある『天盟槍』を目にした。
「私達の評価は霊具を調べた結果によるものだけど、その後真価を発揮して評価が変わったケースもある。『天盟槍』もその一つ。最初は少々の身体強化しか効果がなかったため三級霊具扱いだった。けれど霊具所有者が使い込んだ結果、驚異的な能力を秘めていることがわかり、特級霊具として評価を改めた……私達はこれを霊具の成長と呼んでいる。使われることで霊具もまた徐々に力を覚醒していくケースがある……だからもしかすると、この場にある天級、特級の霊具がいずれ神級、天級に変化する可能性もあるわ」
「扱い方次第、ってことですか……」
貴臣は呟き杖を一度見る。
「それはつまり、自分が選んだ霊具をきちんと使いこなせってことですよね」
「そうね。霊具の力に頼るのではなく、霊具の力を引き出し、使いこなすことが重要よ……さて、霊具について一通り説明はしたわね。なら次に、今回裏切った面々の霊具について話をしましょう」
そう述べるとリュシールはレーネに視線を送った。
「裏切った面々の霊具に変化はあるの?」
「いえ、邪竜との戦いから変わっていません……では霊具の解説と合わせ、状況を説明しましょう」
返答したレーネは、改めて雪斗達に話し始める。
「まず、現時点でわかっている裏切り者は三名。一人はダイン=マイダルという傭兵。もう一人は南西に存在する国家、ベルファ王国の領主であるイズファ=ディーン卿。そしてディーン卿の従者であるゼル=ハディンの三名だ」
「そして全員、霊具を所持している」
雪斗の言及にレーネは首肯する。
「全員が特級霊具を所持している……この三人は邪竜との戦争の際、ディーン卿の領内にあるファージェン平原の戦いで名が知られるようになった。邪竜との戦いにおいてかなりの激戦だったからな」
「もし戦うとなったら、雪斗がやるのか?」
信人が訊く。それしかないとして、雪斗は神妙に頷いた。
「ああ……ただ滅ぼすのではなく、邪竜の力を外へ追い出して救いたいところだが」
「それについて案があるわ。でもその前に、三人の霊具について解説しておきましょう」
リュシールが反応する。
「城にいれば戦うようなこともないけれど、こういう霊具があるんだということで知っておいた方がいいでしょうし」
「そうだな……誰が話す?」
「私に任せてくれ」
レーネが手を上げ、仲間達へ語り始めた。




