戦士達の拠点
そして――夏休みくらいには完成すると言っていた拠点作成だが、それよりも前に作業が完了した。
さらに政府側からはそうした場所の作成については納得させた――無論、反発を生むような話であることは間違いなく、だからこそオウキが上手くやったのだろうと、ユキトは思った。
さらに拠点については様々な仕組みが導入された。その一つが、転移魔法を利用して赴くことができる点。イズミとツカサが共同で制作した特殊な魔法――鍵とも言える魔法によって、拠点へ転移することができる。
これによって鍵を持っていない人間は拠点へ移動できない――そればかりか、拠点に入ることも難しい。多重のセキュリティを用意し、さらに侵入者がいてもそれをすぐ検知できるようにしている。
「……ずいぶんと広いな」
そしてユキトが拠点を訪れた初日、そう感想を漏らした――エントランスと呼べる転移場所は、真四角の広い空間。車などが数十台格納できそうな空間であり、横にいたイズミへ視線を向けた。
「これ、どういう想定でこんな広さに?」
「今後、この場所に誰かを迎え入れる場合、車とかそういう物ごと迎える可能性だって考えられるから」
「だからこれだけ……か」
ユキトは言いつつ、今度は空気がヒンヤリしていることに気付く。
季節は夏を迎え、今は期末テストも終わりいよいよ受験生にとって大切な時期。夏服であるユキトは学校から自宅へ帰る段階で汗もかいていたのだが、ここでは首筋の汗があっさりと引いていくくらいの温度。
「空調はどうなっている?」
「霊脈から魔力をもらって、色々と処置してる。地下水とかを引っ張って、さらに魔力による濾過装置とかも作成したから、水道もあるしトイレもシャワーも浴びれるよ」
「……ここで生活できるな」
「仲間の中にはここで受験勉強するのもいーな、と言う人もいる」
イズミはそう語りつつ、エントランスから奥へと案内する。
そこはどこかSFの世界観――真っ白い床と壁面。そして左右に並ぶ多数のドア。
「構造としては入口から直線的に廊下があって、各施設に繋がっているようにした。地下に作成したからどんな風に作っても良かったんだけど……あいにく私やツカサに建築デザインのセンスはなかったから、組織の建物とか、あるいは資料を参考にして作ったんだけど」
「十分だと思うよ」
「それと、寝泊まりできる部屋も用意したから。もしもの場合、緊急避難先として利用できる」
「……本当にここで生活できそうだけど、さすがに食料とかは持ち込まないと無理か」
「そうだね。中身はこれからであくまで形を作っただけだから……まあ、お金が掛かるようなものについてはこれからだけど、オウキによれば多少なりとも予算をくれるって話だし、そこに期待かなあ」
「予算……?」
「うん」
どういう名目で支出するのだろう――ユキトは内心で疑問に思い、もしそれが露見したら大問題になりそうだと考えたが、
(ま……ここは上手くやってくれることを期待するしかないか)
会話をしている間に奥へと到達。扉があり、そこを開けると中はいくつもの長テーブルが置かれた空間だった。
「ここは……もしかして、食堂か何か?」
「正解。全員が顔を合わせるような施設も用意しないといけないかな、と」
イズミはそう答えた後、
「食堂なんてものを作った以上は、美味しい料理を提供できるような態勢も整えたいよね」
「誰が料理するんだよ」
「ここは魔力樹のリソースがあるから、例えば料理を覚えさせた使い魔とか生成すれば……」
「……確か異世界でも、いるにはいたな」
ユキトは戦場での戦いなどを思い起こす。邪竜との戦いでは遠征などもあったため、その際は司厨関係の人間が帯同することもあった。ただ、そういった人員が確保できない場合、一定の技術を覚えさせた使い魔を霊具で生成し、料理を作らせる、といったケースもあった。
「けど、画一的な料理しか作れないし、騎士達はあんまり使い魔による調理はして欲しくないみたいな意見だったな」
「ユキトはどう?」
「料理のスキルは一定だから、肝心の味とかは良かったけど……確かにまったく同じ味付けだと、数日ならいいけどもっと長い期間だと飽きるかもな、と思ったよ」
「なるほど。それなら調理に少しランダム性を持たせるとかすれば、飽きずに食べられるかな?」
「……そこまでわざわざする必要はどこにもないと思うけど」
「わからないよ? それこそ、ここに留まって長期間戦うことになるかもしれないし」
「どういう想定で?」
ユキトは問うが、イズミは答えなかった。あくまで「そういう可能性がある」という話をしただけだった様子。
ともあれ――こんな設備を生み出した以上、戦えるだけの準備をしておいても損はない。
「……細かいことまでやるかどうかはイズミに任せるけど、無理はするなよ」
「うん」
軽快な返事。その反応にユキトは苦笑した。




