彼女の意思
ユキトはエリカと会うために仲間に相談しようとしたのだが――結果から言えば誰も捕まらなかった。
というより、さすがにエリカと交流がない人物に相談するのはまずいだろうとして、メイに話を向けようとしたのだが、彼女は忙しくエリカが指定した日まで、顔を合わせるどころか電話が繋がることもなかった。
ユキトは仕方がない、と割り切ることにしてエリカと顔を合わせた。その雰囲気はどこか暗く、当然だろうという心境が胸の内に生まれた。時刻は学校の放課後であり、両者とも制服姿で駅前のカフェへ入り話を始めた。
「……まず、カイについてなんだけど」
エリカが切り出す。ユキトは彼女の話を聞く構え。
「私、さ……カイがいなくなる少し前に、カイから言われたの。ある選択をした、と」
「……それは」
ユキトが呟く。もしかすると、彼女には何か話をしたのか。
「詳細は何も言ってくれなかったし、私はきっと魔物、という存在のことだろうと思って深くは訊かなかった。でも、カイがいなくなって……このことなんだろうと思って、色々考えたの」
「……結果、敵の所へ行った、という結論に至った?」
「うん……私、カイが見せる表情の中で時々、理解できないものがあると思っていた。ただそれは、嫌な雰囲気だとかそういうものじゃなくて……胸の内にある何かを、誤魔化すような、隠しているような……そんな雰囲気だった」
「……カイは」
ユキトは慎重に言葉を選ぶように告げる。
「カイには、願望があった……その結果、現在カイは組織を脱した」
「敵の所へ……行った、ということだよね?」
「……ああ」
彼女には話しておくべきだろう、と思いユキトは全てを話した。その内容に対しエリカは黙ったままで――注文した飲み物やスイーツが届く頃には、説明を終えた。
「……俺としては、信じられない気持ちだった。でも、カイだって俺達に全てを話したわけじゃないことはわかるし……エリカとしては、どう思う?」
「私も、少し驚いているけど……でも、そういうことなら敵の所へ行くのも、納得はできるかな……」
それと共に、エリカの表情はさらに重くなった。
「もしかして、私は――」
「エリカが何を言ったとしても、カイはおそらく止まらなかったと思う」
彼女の言葉を制するように、ユキトは口を開いた。
「カイの思いは固まっていて、どんな返答をしても道筋は変わらなかったと俺は思うよ……それに、その時のエリカが何か察したとしても、まさか敵の所へ向かおうなんて考えには至らないだろう」
「うん……そうだね」
「なら、エリカのせいじゃない……ただ一つ、疑問はある。カイはエリカに対し、どう考えているのか」
「どうだろうね……敵の所に向かった、ということは私のことはどうでもいいと思っているのかな……」
「そんなことはないと思う……異世界で戦っていたカイは、エリカと再会するために頑張っていた。それだけ強固な感情を、手放すとは思えない」
ユキトの言葉にエリカは視線を向ける。
「……あの、さ。もしかすると、私がカイを説得することも、できるのかな?」
「どう、だろうな……わからない。でも、可能性はゼロじゃないと思う。ただ、エリカがカイに会いに行ったとしても、おそらく効果はない。カイが敵と手を組むにまで至ったほどの願望……それを切り崩すには、より強い何かがなければ説得はできないと思う」
「……説得できるとしても、そう簡単にはいかないってことだね」
「ああ、けれど……こうして話をして、俺は一つ確信した。もしカイのことを止められるとしたら……それはきっと、エリカだけだと思う」
「私が……?」
聞き返した彼女に対しユキトは深く頷いた。
「もし異世界でカイが今回のように俺達を裏切ったとしたら……説得できる人間はいないと思う。ただ魔法の力を使えばカイのことを取り戻すことは可能かもしれないが……それをやるにはカイとの戦いに勝たなければいけないだろう」
――それは非常に困難な話である、というのはユキトの話す雰囲気からわかったか、エリカは口をつぐむ。
「けれど、エリカの説得なら……俺達とは違い、カイのことを揺さぶれるかもしれない」
「でも、あくまで可能性の話……だよね」
「ああ、カイの決意がどこまで固いのかは、俺も完全に理解しているわけじゃないからな。でも、やはり可能性があるのはエリカだけだと思う」
ユキトの言葉に、エリカは何か――決意が固まったような顔つきとなった。それはもしかすると、ここへ来るまでに考えついたことかもしれない。
「……ユキトに、頼みたいことがある。私も……戦うことができるかな?」
「正直、難しいと思う」
「でも、私がもし戦うことができれば……カイを説得できる可能性が、高くなるんだよね?」
エリカの顔つきが変わる。それを見たユキトは――やがて「仲間に相談する」と返答したのだった。




