検証後の本番
ドン――という重い音が山肌に響く。それは人間の倍の体長はある狼型の魔物が倒れたことにより発せられた音だった。
「うん、これも強くなっているな」
ユキトは魔物を倒しつつ感想を述べる――昼の休憩を挟み、ユキト達はなおも作業を行っていた。
着実にソラナの魔物生成は進み、今回倒した魔物は見た目はこれまでとそう変わらなかったが、秘めた魔力量は一番多く、スイハなどが戦っていれば手を焼いていたであろうくらいの能力を所持していた。
「魔物の生成作業については、順調だな……ソラナ、検証についてはどうだ?」
「うん、おおよそやりたいことはできたよ。ユキト、それじゃあ本番に入る?」
「昼食時は微妙と言っていたが、できるのか?」
問い掛けにソラナは頷く。
「うん、思った以上に進捗が良かったからね。でも今まで以上に結界を構築し、魔力をすら漏らさないための準備をしないと」
「なら私が手伝う」
観戦していたイズミが表明。そこでソラナは「お願い」と答えつつ、
「二重三重の安全策を設けた上で、魔物を生み出す。その個体が発する魔力も、絶対に拡散しないように……」
「わかった」
「見た目のリクエストとかある? 単純な魔力量だけでなく、その能力などもある程度は指定できるんだけど」
「なら……例えば、達人級の剣術使いとかはいけるのか?」
「技量の高い個体か……私だって何度も迷宮に潜っているし、異世界で戦った経験とかもあって知識や経験は持っているけど、望むくらいの力を持っているかどうかは……」
「確認だが、その技術というのはソラナの記憶から出るのか?」
「うん……あ、でもユキトの記憶を利用するという手もあるよ。ユキトがイメージする存在を魔力を通して再現する」
「それなら……カイをイメージすれば、カイのような戦い方をする個体が?」
問いにソラナは「完璧な再現は難しい」としながら、
「あくまでユキトが考えるイメージだから、達人級、というところは上手くいくかもしれないけど……」
「安全策はあるんだろ? なら、やってみようじゃないか」
ユキトの言葉に押され、ソラナは承諾。やがて準備を始めた。
そうした光景を眺めていると、横にスイハがやってきて一つ問い掛ける。
「カイとの再戦を考えて?」
「まあな。けど、あくまでイメージするものである以上は完璧というのは難しいとは思うけど、色々とやってみないと」
「……ソラナのこの技法、色々と応用できそうだね」
「場所は限定されてしまうが、訓練用の魔物なんかを生み出せるようになった……これによって仲間達の経験値を稼ぐことができる。霊具だって完璧とまではいかないが再現できた。そこに戦闘経験が加われば、戦力的な意味でカイや邪竜に対抗することはできるはずだ」
ユキトの言葉にスイハは同意するように小さく頷きつつ、
「……私も、今日じゃなくてもお願いしようかな」
「ソラナの負担が増えそうだな」
「こういうことをやる人員も増やす?」
「うーん、さすがにそこまでは……けど、戦闘経験を増やすというのは今後の戦いにおいて重要だ。それに、魔物がどんな風に発生するのか現段階ではわからないが、群れなどを成して出現するのであれば、それに対する連携訓練とかはやっておきたいな」
「連携、か」
「どれだけ個々に強くとも、連携できなければ集団戦においては強さを発揮できないからな」
――異世界における戦いでは、パーティー単位での戦いが基本だった。それに加え戦場では複数の霊具使いが合同で凶悪な敵に挑んでいた。その経験を踏まえれば、霊具使い同士がしっかり連携することによって、苦境を突破できるようになるし、今後の必須技能になることは間違いない。
「思った以上に、ソラナの技術は色んな訓練を果たせるようになるかもしれない……彼女の負担が大きくなってしまうのが気がかりだけど――」
「ユキト、準備できたよ」
ソラナの声。ユキトは頷くと彼女に近づいた。
それと同時、ユキト達を取り巻くように結界が形成された。それは四方を囲む直方体の結界であり、ユキトは地面の中さえも囲んでいるのがわかる。
その強固さは、視線を送っただけでもわかる――大地の力を利用したものであり、たった一人の人間では壊せそうもないほどである。
「ソラナ、俺は何をすれば?」
「私の手を取って、カイのことをイメージして。可能であれば過去の訓練風景とか、迷宮で戦っている姿とか、そういうのをイメージするとそれに応じて魔物が形成される」
「わかった」
手を出したソラナに対し、ユキトは手を伸ばし触れる。同時、頭の中でイメージした――それは、迷宮の最深部、邪竜と戦うカイであった。
あの時の彼は、まさしく英雄であり、全てを賭したものだった。もし、あの時のカイが再現できたのなら――あの時のカイを、今の自分が超えられるのか――
様々な思いが頭の中を巡った時、ソラナの手から魔力が発された。彼女はそこで両手を地面へとかざした。
「始めるよ」
端的な言葉。それと同時にユキトは彼女の前に立ち――やがて地面から光が生まれた。




