二者択一
――ユキト達が作業を進める間、カイもまた別所で活動していた。
「うん、ここは問題なさそうだ」
魔力樹のある山の頂。順調に生育をする樹木を見据え、カイは満足そうに声を発した。
「さて、これで日本国内はおおよそ網羅できた……後は海を越えた先で同様に樹木が形成されるかだが」
『――聞こえるか?』
そこでふいに、カイの頭の中で響く邪竜――リュオの声。
「ああ、聞こえるよ。何か進展があったかい?」
『魔力樹だが、魔力の粒子が沖縄に到達した』
「朗報だね。既に樹木が形成されているのかい?」
『まだだが、一両日には発生するだろう』
「海は越えられた……沖縄まで到達するのであれば、大陸にも到達できそうだね」
『日本全土を侵食している以上、大陸側で発生するのも時間の問題だろう。現在時点で魔力樹は日本国内の騒動とみなされているが、直に他国も騒ぎ始めるだろう』
「そこから先は……ま、まだ考えなくてもいいか。魔物が発生して時点で改めて話し合えばいいか」
『ああ、それで問題はない……魔力樹についてだが、生育はどうだ?』
「まったく問題なし。ユキト達も生成速度から破壊は困難として放置しているし、問題はないだろう」
――魔力樹は通常兵器では破壊もできない。ニュースではどんな方法でも傷つけられないと言われ、いっそのこと地面から掘り出すしかないとまで言われているが、別所で調査した結果恐ろしいほど根が深く、対応に苦慮していると言われていた。
「第一段階は問題なく、さらに海も越えるのは間違いない……世界中が大騒ぎするのは時間の問題だね」
『アジア圏だけでなく、欧州圏にまでそう遠くない内に進むだろう』
「さすがに距離はあるから時間は掛かるかな?」
『ああ……しかし、魔力樹は世界中に広がり、やがて魔物が生まれる』
リュオの言葉を聞きながら、カイは魔力樹に手を当てる。
「……魔力が鼓動のように鳴動しているのがわかる。そして」
カイは笑みを浮かべた。魔力樹に触れ、それを通して他の場所に存在する魔力樹がどうなっているか、おぼろげに伝わってくる。
そうした中、全ての始まり――ユキトと決戦を行った魔力樹で、何かしら活動している人間がいる。しかもそれは魔力を伴っている。
「ユキト達も動いているな」
『ほう? それは魔力樹を破壊しようとしているのか?』
「そういう様子ではない……おおよそ推測はできる。僕らとの決戦を想定し、色々と動こうとしているのだろう」
カイはリュオへそう返答した後、魔力樹から手を離した。
「ユキト達がどう動くのか想定はしていたけれど、今のところ予測の範囲内だ。これなら、存分に立ち回ることはできる」
『以前策の詳細を聞いたが、やればそれだけ状況が加速するな』
「ああ、悠長に待っているだけでは間違いなく、僕らが不利になる。霊具を作成し続け戦力を強化している以上、早い段階で僕らが動く必要がある」
『実行に移すか? しかし、それはある意味リスクでもある』
「そちらはどう考える? このまま魔物の出現を待つのが得策だと思うかい?」
問い掛けに相手は沈黙した。そこでカイは、
「正直、僕としても微妙なところだとは思っているよ。進むのが良いか、待つのが良いか……二者択一で、おそらく不正解だった方は僕らを危機的な状況に追い込むだろう」
『……そちらは、動いた方がいいと考えているようだな』
「もちろんリスクは理解してるよ。けれど、待つことを選択しても状況は好転することがほぼない、と言いたいだけだ」
『……仮に動くとすれば、それなりに準備は必要だな』
「魔力樹は順調に生育している。これを利用すれば、ユキト達に居所を気取られることなく動くことはできるだろう」
『よかろう、ならば独自に動け。こちらはその間に色々と事を進めさせてもらう』
「今回は別行動ということで。悟られないように注意しなよ」
『そちらもな』
声が途切れる。カイはそこで魔力樹を見据える。
「さて、どの魔力樹を用いれば良いか確認しないといけないな……ユキト達も調査はしているだろうけど、さすがに魔力樹同士でネットワークを形成していることや、魔力樹にも少しずつ違いがある、といったことはわかっていないだろう」
これは、生成した邪竜、ひいては資料を確認し特性を理解したカイだから言えること。ただユキト達が気付いていないため――情報として多いなアドバンテージを得られている。
「情報戦は僕らの勝ちだ……が、この勝利によって戦況をどう変えていくか。ここからは僕の腕の見せ所というわけだ」
失敗すればどうなるか――とはいえ、カイには自信があった。
「時間は……そうだな、さすがに近々には無理だろうけど……」
カイは時間を計算し、小さく笑みを浮かべる。
「……ユキト達の反応が楽しみだな」
次いで一つ呟いてから、魔力溢れる山の頂から、カイは離れた。




