魔力が溢れる場所
週末、ユキトは組織の制服に着替えて組織の建物へと赴く。そこで、ソラナとイズミ、さらにスイハの三人が待っていた。
「あ、時間通りだね」
「……ソラナ、なんだか疲れた表情だが、大丈夫か?」
同じ組織の制服を着た、くせ毛の女性がいた。やや猫背気味の立ち姿はユキトにとって見慣れた姿だが、なんだか疲労感が残る顔つきをしている。
「う、うん。ちょっと睡眠時間が短くて」
「無理はしないでくれよ。邪竜やカイの動きがわからない以上は準備は急いだ方がいいけど、倒れられたらそっちの方がよっぽどまずいからな」
「うん、ありがとう……でも今日の作業には支障がないから安心して。それじゃあ、行こう」
「イズミとスイハもついてくるのか?」
「まあね。スイハは私の護衛だよ」
「ちょっと私の方も興味あるから」
スイハの言葉にユキトは彼女を見返し、
「もしかして、訓練をしたいのか?」
「可能であれば」
「とのことだが、ソラナ。いけるのか?」
「まずはちゃんと魔物を生成できるのか祈って欲しいな」
――ユキト達四人は、転移魔法によって魔力樹のある山へ移動する。そこはカイとの決戦が行われた場所。言わば魔力樹の発生源であり、全ての始まりの場所だ。
「ソラナ、この場所を選んだのは理由があるのか?」
雑談のつもりでユキトは問い掛ける。それにソラナは地面を見据えながら、
「地中に存在する魔力が、他の魔力樹と比べて深いのが理由。たぶん最初の魔力樹だから、一番育っているんだと思う」
「一番……俺やカイの戦いが影響して?」
「ううん、たぶんこの場所で魔力樹を生成するために邪竜が色々と実験をしていたんじゃないかな」
「ああ、そういう理由ならこの魔力樹が他と比べて古い……成長しているのも理解はできるか」
「そうは言っても、差としては精々数週間から数ヶ月程度だし、普通の樹木からすればそんな時間誤差でしかないけど」
「でも魔力樹は違う、と」
「うん……地底に存在していた霊脈からの魔力を吸い上げて、一気に成長した。この世界には潤沢な魔力があったからこそ、魔力樹は一気に芽が出た……だから、この周辺が現在、世界で一番魔力が溢れる場所だと思う」
ユキトはそう言われ、意識を集中させてみる。それによって、空気中に漂う魔力を知覚する。
「この魔力は、全て魔力樹から発せられているのか?」
「少し違うかな」
ユキトの言葉に応じたのはイズミだった。
「魔力って、活性化したものがあるとそれに影響を受けて活発化するんだけど、魔力樹が発した魔力によって、この周辺に存在していた魔力が活性化した上、濃度も上がったという感じかな」
「なるほど……ソラナはこの魔力を利用して魔物を作成するということか」
「うん、そうだね……それじゃあ準備を始めるよ。少し時間をちょうだい」
ユキト達の返答を聞く前に、彼女は地面に何か描き始める。それが魔法陣であるのを認めたユキトは、スイハに目を移した。
「訓練の調子はどうだ?」
「霊具は良い感じ。手に馴染むし、問題なく戦える……ただ当然だけど聖剣ほどの出力はないから、聖剣と同じ感覚で使用すると壊れるかもしれなくて、そこが不安要素かな」
「本来の力……というか技術はあくまで聖剣ベースだから、それと同じように剣を振ったら霊具が駄目になるのか」
「私が持っている剣術は聖剣由来のものだから……あと、元々魔力を他の人よりも抱えているから、というのが原因みたい」
「魔力を持ちすぎても、弊害が出るって話だな……いっそのこと魔法剣とか作り出してみるか?」
「……霊具が壊れる可能性を考えると、やっておいて損はないかも」
指摘されて気付いたか、スイハは少し考えた後にそう呟いた。
「もし魔法剣を作る手法を考案するとしたら、頼めるのはタカオミかな?」
「ツカサか、タカオミのどちらかだな……二人は『空皇の杖』を所持していた。あの霊具によってオリジナルの魔法も開発していたし」
「そっか……これが終わったら話をしてみようかな」
ユキト達が話をしている間にソラナは準備を終えたか、地面に魔法陣を描くのを止め、ふうと息をついた。
「よし、これでオッケーかな」
「ソラナ、これは何をやったんだ?」
「地中から魔力を引き出すための魔法陣を描いたんだよ。これを経由して、魔物を生成する」
「地中にある魔力を基にするわけか」
「うん、大気中の魔力を使ってもいいけど、この方が魔物が暴走しても対処が簡単になるから」
「ん? どういうことだ?」
「生み出した魔物は能力を維持するために魔力を吸収し続けなければいけない。で、地中からの魔力ならその流れを遮断すれば、魔物はいずれ自壊する」
「なるほど……大気中の魔力を用いた場合、術式の問題で供給を止めても魔物が魔力を吸収する可能性があると」
「そういうこと……よし、ユキト。早速始めるけど覚悟はいい?」
「いつでもいいぞ」
ユキトの言葉に合わせ、ソラナは魔法陣に魔力を注いだ。




