彼女の力
「圧倒的な力を見せることによって、英雄になる……多くの人から支持を得ることができれば、政府やメディアが俺達を排除する、といった選択肢はとれなくなるだろう」
そうツカサは言う――が、彼の主張がリスクを孕んだものであることはユキトやイズミは理解できていた。
「その表情だと気付いているな……メディア側が英雄となった俺達に対しどう動くかは予想できるが、これについては魔法によって対策は打てる。後は政府側と話を行い、メディア側へ根回しをすれば、平穏を保つことはできるだろう」
「そうだけど……高校生の俺達が活躍すれば、当然不相応な力だと考える人だって出てくるだろう」
「ああ、そこについては間違いない……問題は、恐怖を抱かせないようにするための動きだ。英雄となるため必要なことは、広報を行う人間を用意すること……そして、そこについては一応できなくもない」
「……メイか」
ユキトの指摘にツカサは頷く。
「そうだ、全国的に名が広まりつつある彼女が率先して動くことで、俺達に対する恐怖心を抑え込むことはできると思う。最終手段として霊具を用いた彼女の歌も使える」
「歌……戦場を高揚させたメイの歌か」
メイの霊具は癒やしの力を持っていたが、それと共に歌に魔力を乗せることで味方を強化することができた。非常に強力な支援であり、彼女の力によって助けられた戦いは数多い。
「でも、それって効果があるのは現場にいる人だけじゃないか?」
「テレビで見ても効果があるのかどうか、だな? まあ確かに、電波を通し魔力を流すというのはできない……と、思うところなんだが」
「もしかして……できるのか?」
「魔力も電波のように拡散できる。魔力樹によって放出された魔力をメイが利用すれば、影響を与えることは不可能ではない……もっとも、普通の魔法とは違う以上、やり方は工夫しなければならないが」
「そこまでやれるのであれば、確かに魔法で世界を支配することは可能かもしれないな」
ユキトの言葉に、ツカサは一度目を細めた。
「ああ、そうかもしれないな……ただ、相当な規模の魔法陣を構築する必要性はある。カイ達がそれをやろうとすれば当然、目立つだろうから魔法を用いて支配、なんて行動をすぐに起こすとは考えにくい」
「地上では無理でも、例えば地下なんかにそういう設備を用意するとかは?」
ユキトの問いに対し、ツカサは少し考えた後、
「……準備そのものは可能だろう。しかし、魔法を使うために魔力を吸い上げる時点で俺達は気付く」
「カイは俺達が気付くだろう、ということも把握しているから……」
「そうだ。居所が知られるリスクがある以上は、やらないだろう」
と、ツカサは語りつつもさらに別の見解を示す。
「ただ、カイ達がこうした魔法を使う可能性はある」
「……それは一体?」
「俺達が準備をしていた所に強襲し、奪うことだ」
ユキトとイズミは彼の言葉で沈黙した。
「魔法陣の性質を邪竜の手によって変えれば、作り替えることは可能だろう……とはいえ、メイの歌を利用し魔力を流すなんて行為は最終手段だ。これは一種の洗脳魔法だからな。効果が弱いからといって、許されるものではないし、基本的にこの策は使用しない前提で動こう」
ツカサの発言に、ユキトとイズミは頷いて同意する。
「しかし、もしもの可能性を考慮して準備はしておくべきだ……カイ達が仕掛けてきた際の対抗手段にもなるからな」
「やることは増え続けるな……」
「仕方の無い話さ……それに、メイは間違いなく矢面に立つことになる。実はこういう話になるだろうと考えて事前に伝えてはあるんだが……」
「どういう反応だった?」
「それが人々の暮らしを良くするのであれば、やると」
「正直、アイドルがやるような仕事じゃないよな」
「そうだな。しかし、こればかりは多くの人に認知されている彼女にしかできない仕事だ。英雄となって多くの人に認知されれば、俺達も似たようなことができると思うが……」
「あのさ」
と、ここでイズミが口を開いた。
「今後、魔物が出てくる……あるいはカイや邪竜が出てくるのなら、その最前線で戦うのはユキトだよね?」
「そうだな」
と、ユキトは答えたところで何を言いたいのか察した。
「戦うことになれば、いずれ俺も英雄として世間に知られる……ということを言いたいのか?」
「うん」
「ま、それを想像すると体に力が入るけど……異世界でも王侯貴族と顔をつきあわせて話をしていたんだ。なんとかなるよ」
そうユキトは返答しつつ肩をすくめる。
「ともかく、今は話し合った内容で少しずつ状況を進めていくしかなさそうだ」
「魔力樹についてはちゃんと調査をしないといけないな。ユキト、頼んでもいいか?」
「ああ、魔物が出現するより前に、こちらの態勢を確立しておかないといけないだろうな」
ユキトは頷きつつ、
「問題は、誰と一緒に調査をするか……選定はしていいのか?」
「ああ、その一人はタカオミでお願いする」
「わかった。調査の方法だが――」
そうして、ユキト達は話し合いを進めていったのだった。




