人々を守る存在
「現在時点で政府側は組織に色々と情報を求めてはいるが、魔力樹の対応に追われあまり話ができていない。必要最低限といったレベルであり、ちゃんとした話し合いをする場合はオウキから連絡が来る手はずとなっている」
ツカサの発言にユキトは一考した後、
「時間は掛かるかもしれないな」
「そうだな。しばらくは霊具の開発のために魔力樹の調査と、カイや邪竜の行方を探ること……その二つを主眼に置く。政府側も状況は知っているため、話し合いの前にしっかりと状況を報告できれば、協力的になるだろう」
「……問題は、俺達が霊具により戦力を強化すると政府側も懸念を抱かないか?」
「そこは俺達の活動内容次第だろうな」
ツカサは難しい顔をしつつ、語っていく。
「ただ、魔法という概念によって対抗手段が俺達しかないということはわかっているはずだし、手荒な真似はしないだろう。まあ、やることは異世界で召喚された時とそう変わりはないさ」
「……そう言われたら、そうだな」
ユキトは納得する――聖剣の使い手であるカイを始め、ユキト達は霊具を扱うための戦力として召喚された。しかし、そういう経緯であってもユキト達に警戒を抱く者は数多くいた。
特に強い懸念を抱いていたのは、政治に関わる貴族など。圧倒的な力を持つユキト達は、権力を奪いに来るのではないか――魔物を倒し、邪竜の侵攻を阻止し多くの人々が感謝する中、もしもの可能性を考慮して権力者達は様々な策を用いた。
それらの中にはユキト達の戦いを邪魔するものさえあった――あるいは邪竜につけ込まれ利用されるケースもあった。実際のところ、ユキト達の目的は元の世界へ帰ることだったため、その対策は何の意味もなくただ面倒でしかなかったのだが――
「……まず、俺達が権力を奪いに来る、なんて考えに政府の人間は至らないだろう」
と、ユキトは自身の見解を示す。
「そもそも俺達は被選挙権なんてものがない年齢だからな。圧倒的な力を持っていても、政治に携わることはできない。異世界での戦いでは、純粋に奪える状況に持って行くことはできたけど、この世界では無理だ」
「だが、扇動はできる」
と、ツカサは言う。
「例えば、力を見せて多くの人を従わせるようなやり方は可能だ」
「政府側はそれを懸念していると?」
「俺達の行動次第ではあるが、絶対に俺達の存在を反発する人間は出てくる。問題はそれが政治の世界で過半数に達してしまった場合」
「……異世界でも、権力を維持するために邪竜と手を組んだ人間もいたからな」
ユキトが言うと、ツカサやイズミは難しい表情を示す。二人もよく理解している――邪竜やその配下ではなく、守るべき人間が牙を剥き戦う羽目になるという苦杯を、異世界で何度も飲まされてきた。
「ではどうすればいいのか、だけど……」
「現在は政府……政治の世界において首相とも連携が取れている。ただし、俺達の存在は公にされていない。ここが公表された段階で勝負になる」
「まずなにより、俺達が人々を守る存在であることを認識してもらわないといけないよな」
「俺達が信用を勝ち取る相手は三ついる。政府、メディア、そして一般の人々……最後の一般の人々については、政府とメディアの二つと上手く付き合うことができれば、自ずと信頼してもらえるはずだ」
「政府については……秩序維持のために俺達の存在が必要だとするなら、少なくとも手放しはしないか」
「魔物は銃火器でどうにもならないからな。俺達にしか戦えないとくれば内心でどう思っていようとも、手は貸してくれるだろう。それよりも、霊具という存在を独占的に所持していることについては危険視するかもしれない」
「警察組織を含め、多くの人が戦える手段を確立できればいいけど……誰もがすぐに扱える霊具なんて作れるのか?」
「無理だね」
と、イズミが即座に応じた。
「三級クラスの霊具でも、ちゃんと訓練をしないといけないよ。私達が即座に扱えるのは、異世界で手にした強力な霊具を使っていた記憶を持っていたから。それがない以上、銃の撃ち方を学ぶように、ちゃんと霊具の扱い方を訓練しないといけない」
「そうだよな……もし、警察を初めとした組織が霊具で武装するにしても、時間が掛かる」
「カイはその時間を用意はしないだろうな」
ユキトの発言を受けてツカサは答える。
「霊具の製造からスタートするなら、年単位の時間が掛かる……さすがにカイたちも待ってはいないだろう」
「……カイ達が十分な戦力を得るにも時間は掛かると思うけど、さすがにカイ達の方が早いか」
「ああ、間違いない。だからこそ、選ばなければならない……俺達は、どう立ち回るべきなのか」
そうツカサは応じつつ、一つ提言をした。
「ただ、政府やメディアが俺達に手出しできなくなる方法はある」
「……それは?」
「英雄になることだ」
――つまり、邪竜という脅威に立ち向かう存在。それは異世界での戦いを再現することを意味するものであった。




