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黒白の勇者 ~再召喚された異世界最強~  作者: 陽山純樹
第七章

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支配へ向けて

『――え』


 テレビから誰かの声が聞こえた。それと共に画面に映ったのは、異形。その瞬間、悲鳴が生じカメラの動きが大きく乱れた。

 まずい、そう思った矢先、画面は正常に戻った。赤い光はいつの間にか消え失せ、リポーターの男性は森を凝視する。


 何があったのか――男性は「見たこともない生物がいた」と語った。不可思議な現象に続き、異形の存在。ユキトは何が起こったのか明瞭に察し、目を細めた。


「思った以上に時間がないな……」

『今のって魔物、だよね?』


 ディルが問う。ユキトは首肯し、


「ああ、たぶん人が多くて戸惑って逃げたんだろう……あれは純粋な魔物というよりは、魔力に当てられて動物が変化したタイプだと思う」

『だとすると、かなり危険なんじゃないかな……』

「同意だが、魔力の塊である本物の魔物と比べればマシだとは思う……動きたいけど、明日からのことを考えると今日は是が非でも休んでおきたいな」

『学校とかどうなるのかな?』

「普通に授業はあると思う……いや、情勢が悪くなったりすればその限りではない、か。最悪リモート形式の授業にするとか……まあ、方法はあると思う」


 ユキトは返答した後、頭をかいてから話を続ける。


「問題は変化が急激すぎることだ。下手をすると一晩明けて人間を襲う魔物が現れてもおかしくはない」

『そうなったら……私達が頑張らないといけない?』

「それしかないが、魔力樹によって多数の人の目がある状況だ。幻術を行使すれば姿を誤魔化すことはできるし、俺の素性が明かされる可能性はないだろうけど……俺達が表立って動いた時、最大の問題は政府がどう対応するか」

『そっか、政府側がちゃんと説明できないと、私達は何者なんだという話になるのか』

「そもそも、一から説明するにしても無茶苦茶だから、国としてもどうすべきか悩んでいるはず……話しても大変だし、話さなくても大変だ」

『……カイは、どうするつもりなんだろうね』

「そこはわからない。さっきからずっと考えていた、邪竜を倒す方が先か、魔力樹によって生み出される魔物について対策を立てる方が先なのか」

『難しい問題だね』


 ディルの言葉にユキトは頷きつつ、


「今日は寝るよ……先ほどの魔物、出現したけど逃げたのであれば被害は出ないだろう。他に同様の個体と遭遇しても、人を襲う可能性は低いはずだ」


 言った後、ユキトは大きくため息をついた。


「……密かに活動する場合、俺の存在は見られてもいけない。少なくとも政府側がちゃんと説明しない間は……」

『でもそうなったらカイ達の方に情勢は傾く』

「そうだな。カイや邪竜はやりたい方できるからな」


 ユキトはディルと会話をしながらテレビ画面を見続ける。男性リポーターは森へ逐一視線を投げ、明らかに動揺している。


(明日から……試練の時間だな)


 そう確信しつつ、ユキトは眠る準備を始める。始まってしまうのだ、という言葉を頭の中に呟きながら、その日カイとの戦いによる疲労を癒やすため、眠りに就いた――



 * * *



 そして、ユキトや組織の面々が寝静まった中、漆黒の世界が広がる森の中でカイは邪竜と合流した。


「正面から勝つのは無理だな」

「そこは当然だ。いかなる策略でも、ユキトには届かない」


 邪竜のコメントに対しカイは冷徹に答える。


「とはいえ時間稼ぎは成功し、世界を変えるための第一歩は刻まれた」

「現時点でマスコミは動いている。彼らが動き回っている間に魔物などの存在を見せつけることで、人間の捕食者的存在がいることを認知させる」

「そこから先は、混沌だね」

「ああ。だが混沌だとしても方向性くらいは決めることができる……ここについては、ちゃんと話し合って決めるべきか」

「僕はそちらのプランに従うけれど」


 カイの発言に邪竜は眉を見初めた。


「そこまで従順になると?」

「というより、結末は一つなのだから過程は別段興味がないというのが理由だけど」

「なるほど、な……では、プランについては私に任せてもらおう」

「後はユキト達がどう動くか、だね」

「そこについては読めない。混沌を生み出してもそれを打破するだけの力がある……国側と手を結んでいるのであれば、早期に国と連携し対応する可能性もゼロではない」

「政府については、情報収集だけで手一杯じゃないかな? 現段階でユキト達が警察や自衛隊と手を組むという方向は考えにくい」

「彼らだけで動くと?」

「おそらくは。というより、組織の立場自体が秘匿されたものだからね。政府が公式見解を発表しない限り、表立って動くことはできないよ」

「なるほど、な」


 邪竜は納得したように声を上げた。


「ならば考えがある……しかし最悪の事態となれば、奴らは政府が説明するよりも早く、世界を救うために動き出すのではないか?」

「ああ、そこについては間違いないね。もしそうなったら、国と敵対するケースがあるけれど……いや、政府の人間は極めて合理的だ。ユキト達がいなければどうしようもないのは確信しているだろうし、さすがに敵対関係である可能性は低いか……と、そうだ。魔力樹は指定したポイントで発生したけれど、これは海外にも輸出するのかい?」

「魔力樹は海をも越えて発生する……時期が来ればいずれは」

「なるほど、とりあえずは日本を支配する、だね」


 そう応じたカイの口には、笑みが浮かんでいた――


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