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黒白の勇者 ~再召喚された異世界最強~  作者: 陽山純樹
第一章

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決着

「……グリーク」


 黒に対し雪斗が声を上げると、相手は小さく肩をすくめる。


『どうやら、まだ終わってはいないようだな』


 刹那、手を掲げる。そこに収束する魔力――大気を震わせ騎士達の足をすくませる魔力を目の当たりにして、雪斗は声を発した。


「リュシール!」

「まだ単独で迎え撃つほど力はないけれど、邪竜を破った時のようにすることなら可能よ」

「なら――」


 グリークの魔力が高まる。それと同時にリュシールは突如雪斗の腕をとった。次の瞬間、彼女の体が突如透け始める。


『終わりだ、勇者ユキト』


 その変化を無視するようにグリークは告げ、巨大な黒弾を放った。雪斗にはそれが先ほどとは比べものにならない威力だとわかったし、騎士もそう確信したことだろう。

 もし避けて地面に着弾すれば、周囲全てがクレーターと化すような威力。それを雪斗は左手をかざして対応する。


『防げると思っているのか!』


 その言葉と同時、黒弾が雪斗に当たる。刹那、爆発し――とはならなかった。雪斗は自身の魔力で黒弾を内包し、爆発そのものを防ぐ。


『ほう、あえて押し留めたのか。しかしそんなことをしても――』


 今度は途中で声が切れる。雪斗が押し留める黒弾へ向け剣を振ったためだ。ただこれまでと大きな違いが一つ。雪斗が握る剣は漆黒から再び純白へとその色を変えていた。

 そして斬撃が黒弾を両断する。刹那パン、と風船でも割れるような音が生じたかと思うと、黒弾が一瞬で消えた。


『……なっ……!?』


 その状況にグリークは瞠目し、次のその視線は雪斗を射抜き硬直した。

 雪斗自身もその姿が一変している。上から下まで漆黒であったその姿は、黒い瞳を残しその全てが白に染まっていた。


「終わりだよ、グリーク」


 宣告。それに相手は対抗するべくさらなる黒弾を生みだそうとしたが、雪斗はそれに対し剣を軽く振った。

 刀身の先に乗っているのは風の弾丸。本来ならばそれは多大な力を有するグリークに対して効果などないはずだった。しかし魔力を収束しようとしたグリークの右腕に着弾した直後、風が弾けその腕が――吹き飛んだ。


『が……あああああああっ!』

「もう使わせるようなことも許さない」


 雪斗の言葉と同時、グリークが恨みのこもった視線を投げる。


『何だ……その力は……!』

「邪竜を倒した本当の切り札だよ」

『切り札だと……!?』

「とはいえ解答を提示する必要性はないな。グリーク……今度こそ終わりだ」


 肉薄。反応できないままグリークは雪斗の振り下ろしを、その身に受けた。

 刹那、グリークの体が弾ける。魔力が霧散しその体がザアアアという砂音を立てて消えていく。あまりにあっけない、大臣の最期だった。


「……今度こそ、終わりだな」

『ええ、そうね』


 リュシールの声が頭の中に響く。次いで、


『なんだかのけ者にされている気分……』


 ディルの声。それに雪斗は苦笑し、


「これ言ったら怒っていただろ?」

『怒るっていうかさあ……まあいいよ。というか、これは一体――』

「ユキト、大丈夫なのか?」


 レーネが近づいてくる。上から下まで真っ白になった雪斗を見据え、


「その力は、リュシール様を取り込んだのか……?」

「より正確に言うと、リュシールと契約したんだ」

「契約?」

「なら説明するよ。城側も知りたいだろうから」


 城内で観戦しているであろうジークや翠芭の姿を想像し、雪斗は言う。


「邪竜との最後の戦い……それこそ死力を尽くした戦いの中、最終局面で気を失わずに戦っていたのは俺とカイだけだった。そしてカイもまた、攻撃を受けて倒れ伏した」

「だが、邪竜は倒れた……」

「ああ。聖剣所持者が倒れた以上、本来勝ち目はなかった。けれどそこに、リュシールが戦場に来た。そこで彼女と俺は契約を交わし、その力を俺に預けた」


 雪斗は自身の手のひらを見る。肌色までは変わっていないが、よくよく見れば白い魔力がうっすらと体表面に存在している。


「霊具『空皇の杖』を用い、決戦の前日に天へと魔法で呼び掛けた。結果、彼女は空に封じられていた力の一部を取り戻し、それを俺に預けたわけだ」

「天神の力を、ユキトに託したのか」

「ああ。力を取り戻したといっても邪竜を討つには足りなかった。だからこそ俺と力を合わせることにした……これが切り札『神降ろし』だ」


 雪斗は視線を移す。グリークが立っていた場所には、何も残っていなかった。


「そして邪竜を倒したが、リュシールも力を使い果たし空へと帰った。そうして残されたのは俺一人……後はレーネも知っている展開だ」

「なぜ、話さなかったんだ?」

「切り札があるとしても『空皇の杖』の呼びかけで本当に来てくれるかどうかわからなかったからな。それにリュシールからもあまり言わないで欲しいと告げられていた。天神そのものが国の中枢にいたという事実もあまり広まって欲しくなかったらしいし。ただ」


 言いながら雪斗は肩をすくめた。


「こういう形でお披露目することになった以上、リュシールにも覚悟を決めて欲しいけど」

「――そうね」


 気付けばリュシールが雪斗の横に現れていた。ただ体は半透明でまだ力は雪斗へと預けている。


「ま、その辺りは敵もいることだしなんとかなるのかしら。政治についてはそう心配してないわ。政敵のグリークが自滅してしまったからね」

「リュシール様のご帰還、陛下も喜ぶかと思います」


 レーネが告げるとリュシールは笑みを浮かべる。


「さて、敵も倒したしこれで終わり……と言いたいところだけど、まだ終わりではないわ」


 まだ雪斗は『神降ろし』を維持している。そうして周囲に神経をとがらせ、警戒しているのだが――


「……向こうから出てきたか」


 呟きと共に森へ視線を移す。レーネや騎士もまた見据え、同時に剣を構えた。

 いつのまにか、森の入口に一人外套に身を包みフードで顔を隠す人間が立っていた。もっとも気配は非常に薄く、力を所持しているようには思えない。


「ユキト、あの敵は――」

「攻撃しても無意味だぞ。あれは分身……たぶんグリークへ魔力を供給するため中継していた存在だ」


 雪斗は説明しながら目を細める。


「あの分身を中継して、グリークへ魔力を送っていた。今現在分身からどう経由しているのか探しているが、さすがに尻尾をつかませてはくれないか」


 雪斗はそう語った後、白い剣の切っ先を敵へと向け構えた。


「……グリークに魔力を注ぐ技法について、心当たりがある」

「心当たり?」


 レーネが聞き返す。雪斗は首肯し、


「俺の世界に存在していた技術に、遠くの人と交信したりできるものあった。電波という技術で俺も詳しいことはわからないが、とにかくその技術みたいに魔力を飛ばして他者に供給できないか、という考えがあったんだよ」


 雪斗は語りながらも剣は敵に向けたまま。


「地上にいるときは活用できそうだったけど、結局その技術開発にメドが立ったのは邪竜との戦いがずいぶんと進んでから……迷宮内に魔力を供給することはできなかった上に、その技術を汎用的なものにできなかったため、結局使われるようなことはなかった」

「待て、ユキト。そういう技術であるとしたら相手は……」


 レーネが告げる。そういうことだと雪斗は頷き、


「技術そのものを知っている人間――あの戦いで死したが、魔神の魔力によって生きながらえた……そうだな?」


 敵は、ゆっくりとした動作でフードを脱ぐ。その下にあった顔は、雪斗もはっきりと見覚えがあった。

 リュシールが無念そうに目を細め、そしてレーネが目を見開き、名を呼んだ。


「……アレイス……?」

「久しぶりだな、みんな」


 戦友と呼べる騎士の声は、雪斗の中に眠る過去の記憶と寸分違わないものだった。


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