世界の変化
そして――ユキトが魔物を討滅したのは、悪魔が出現して二時間後のことだった。
洞窟調査を開始して、およそ五時間が経過したことになる。ユキトは地底内に魔物が残っていないかを確認した後、出口を探し始める。
「とりあえず魔物が外へ出なくて良かった」
『無茶苦茶だったね』
ディルが感想を述べるとユキトは首肯しつつ、
「だが、初めて邪竜が姿を現した……後は敵の計略を防ぐために動くだけだ」
『時間的に……どうなんだろ? 私達は敵の思惑よりも良い状況なのかな?』
「そこは外に出てみないとわからないな……」
ユキトは応じつつ魔力を探り、出口を探す。地底の中を動き回り、やがてそれらしい場所を見つけるとユークは飛翔系の魔法を用いて宙に浮かんだ。
そこから一気に目的の場所へと向かい――ユキトはようやく地底の洞窟から脱することに成功する。
そこはずいぶんと山側に進んだ渓谷だった。洞窟周辺は入り込んだ場所と同様に綺麗で、魔法によって作られた場所なのだとわかる。
「こんな入口がいくつもあるのか……?」
ユキトはここも調査すべきなのではと考えたのだが、すぐさま首を横に振って意識を別に振り向ける。
「まずは連絡だ」
スマホを取り出す。しかし、圏外となっていた。
「電波が通じていない場所なのか、それとも……」
ユキトは呟きながらならばと、魔法による連絡を試みる――が、それも何かに阻まれるようにして効果がない。
『……ユキト』
その時、ディルが声を上げた。何だと返答しようとした時、ユキトも気付く。周囲の異様な雰囲気に。
「これは……魔力が……」
ユキトが洞窟へ入り込んだ時と比べ、明らかに大気中に存在する魔力が増えている。しかもそれは普通の量ではない。
「何かが起こっている……この周辺に――」
ユキトは使い魔の鳥を魔法で生み出す。それを上空へと飛ばし、周囲の状況を確認する。
その結果はすぐに判明した。一気に周辺の山を抜き高い位置まで辿り着くと、
「何だ……あれは……」
ユキトは思わず呟いた。ユキトがいる近くの山、その山頂近くに魔力を大いに蓄えた巨大な樹木が存在していた。
その樹木は僅かに発光を伴いながら、魔力を周囲に拡散している。しかもその大きさは周辺にある樹木の比較にならない。それはあまりに巨大であり、発光していることもあってこの世のものとは思えない幻想的な存在感を出している。
それと共に、ユキトは気付く。現在地から遠く離れた場所――山の頂点に同様の樹木が存在している。果ては、魔力が立ちのぼりその樹木が形成されようとしている場所まであった。
『ユキト、一体――』
ディルが尋ねてきたため、ユキトは反射的に魔法を操作し使い魔の視界を共有する。
『……これは、何?』
「魔力を大気中に拡散させている樹木……なんだが、たぶん霊脈がある地点に形成して、その魔力を大気中に放出しているんだ」
ユキトは推測を行いながら、一番近い樹木がある方角へ目を向ける。
「この世界には、地底奥深くではあるが多量の魔力が存在している。それは地上へ出てくることはなかったが、それをあの樹木によって成しえている」
『これは、邪竜の策?』
「だと思う。自然発生的にこんなことが起こるとは到底思えない」
ユキトは呟きながら、走り出す。
『ちょ、ちょっとユキト、どこに行くの?』
「樹木を破壊できないか試す。あれは放っておけば……魔力が大気中に拡散してしまい、魔物が生まれる」
『そうか……! それこそ邪竜の――』
「目的、ということだ。自然発生し続ける膨大な魔物が相手なら、いかに俺達でも対応しきれない」
ユキトは返答しながらディルへ指示を出す。
「あの樹木……魔力樹、とでも名付けようか。あれについて魔力を探ることはできるか?」
『ちょっと待ってね……樹木は根を張り、水を吸い上げるように根から魔力を吸い込んでいるみたい……あ、それと』
「それと?」
『なんというか、私達がいる一番近い樹木……そこから、明らかに多量の魔力が流れている。他の場所は距離が遠いから何とも言えないけど……方角からして、一番近い魔力樹が魔力を送っている……?』
「つまり」
ユキトは視界に魔力樹を捉える。
「あの魔力樹が大本であり、他の場所に魔力樹を形成している?」
『どう、なんだろう……でも、あり得ない話じゃないと思う』
「なら、あれを破壊する。それによってまずは魔力樹形勢を防ぐ――」
そこまでユキトが言った時、向かっている魔力樹の近くに人影を発見した。そしてその人物に見覚えがあったユキトは、
「……カイ?」
『え? あ、本当だ』
樹木の近くにカイがいた。どうやらユキトが地底で魔物と戦っている間に、異変に気付きこの場に駆けつけたらしい――そこでユキトは速度を上げ、カイと合流するべく走り続けた。




