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黒白の勇者 ~再召喚された異世界最強~  作者: 陽山純樹
第七章

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勇者だったのだから

 ユキトが店を出た後、カイは遅れて退店し電話を掛けた。


「……僕だ」


 相手からの声は聞こえない。だが、


「ユキトには指示を出した……後は、そちら次第だ」


 それで通話を切る。カイはそこから無言で歩き出す。


 ――前回の作戦から、カイは組織内で色々と活動をしていたが、目立った動きはあまりなかった。その一方で別の準備を進めていた。

 カイはしばし沈黙した後、空を見上げた。胸に宿る感情。それを踏まえると、心境は――


「……僕は、これで良いと思っているか?」


 自分自身に対する問い掛けだった。けれど当然、誰かが答えてくれるような話ではない。


「僕は、異世界でとあることを願った……けれど、いつしかその願いを捨てていた。当然だ。僕は理想を得ようとする前に、勇者だったのだから」


 勇者――その言葉を背負い、カイは戦い続けた。異世界における邪竜との戦争は、命を賭したものであり、多数の仲間を失いながら、邪竜を倒すためだけに全てを費やした。

 やがて邪竜と対峙した時――世界を救うために、戦った。その事実に後悔もなければ、そうすることが正しいと確信していた。白の勇者として、自分が成すべき事を成した。


 だが、今は――


「……あれ?」


 ふいに声がした。馴染みのある声だったのでカイはそちらへ首を向ける。

 声のした方に、エリカが立っていた。カイの表情を見て彼女は小首を傾げ、


「どう、したの?」

「……ごめん、何でもないよ」


 返答する間に彼女はカイの横に立つ。


「また何か厄介事?」

「ああ、それもあるな」

「……根を詰めるのは仕方が無いし、私は何もできないけど……その、無理はしないでね」

「ありがとう」


 カイは、この世界へ戻って彼女へ告白するために戦い続けた。その願いは叶い、カイは望んだものを手に入れた、はずだった。


「……あのさ」

「うん」

「僕は、組織のことで、魔物との戦いのことで日々選択に迫られている」

「……うん」

「その中で、仮に間違った選択をしたとして……取り返しのつかないことが起きてしまったら、エリカはどう考える?」

「それは……全部がカイの責任、というわけじゃないでしょ?」

「ユキト達はそう答えると思う。それに、一人に責を負わすこともない……ただ」

「ただ?」

「例えば、僕の行動によって明確に多くの人が傷つく結果となってしまった場合は?」


 問われ、エリカは一時沈黙する。ただ、表情からはどう答えるか決めているようだった。


「だとしても、カイに全ての責任を負わせるのは間違ってるよ」

「……なら、例えばその選択によって悲劇になるとわかっていても?」

「悲劇?」

「より正確に言えば、そういった可能性がある、かな」

「……どう、なんだろう。さすがにそんな風に言われると、私もカイの責任じゃないよ、って軽々しく言うことはできないかな」


 真剣に考えエリカは応じる。その姿にカイは、事情を知らないにしろ、感謝したい気持ちになった。


「でも、カイが選んだ道なら……ううん、誰であれ、尊重はすべきだと思う。でもまあ、危険だとわかった上でやっているのなら、カイ自身、その選択について少しくらいは責任を負うべきなのかな、とは思うけど」

「うん、そうだね」


 カイが返事をするとエリカはどこか不満そうに、


「私が何か答えるまでもなく、カイの心の中で既に決まってるんでしょ?」

「……そうとも言える。でも、今回は少し違うんだ」

「というと?」

「ある選択をした。でも僕はまだ迷っている」


 沈黙が生じる。エリカはカイの言葉を吟味している。


「今ならまだ……止めることができる。本当にこれでいいのかと、何度も自問自答している」

「……きっと、カイにとっては大きな決断なんだね」


 エリカはカイの顔を見据えながら、彼の言葉に応じる。


「その選択を、カイの友達が知ったらどう思うのかわからないけど……そこまで言うんだから、決して誰もが納得できる話、というわけじゃなさそうだね」

「……ああ」

「私は……組織の話は難しいし、わからないことも多いけど……その、カイの応援はしてるよ」


 ――それはきっと、エリカの言える限界なのだとカイは認識する。

 ただその言葉で、カイ自身様々な思いが一つにまとまっていくのを感じた。


「……エリカ」

「うん、何?」

「この選択が良いものなのかはわからない……でも、エリカが納得がいくような、ちゃんと理解できるような形にしてみせるから」


 その言葉を、彼女はどう思ったか。エリカは不思議そうな顔をした後、


「……わかった」


 それだけ答えた。カイは小さく頷き、


「少し、用があるから」

「うん」


 カイは歩調を速めて歩き出す。それと共にスマホを取りだした。


(そうだ、僕は……)


 連絡を取る。相手は、先ほど電話を行った相手。


「僕だ……こちらで何か出来ることはあるか?」


 その問い掛けに対し、相手は少し沈黙を置いた後に、答えた――


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