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黒白の勇者 ~再召喚された異世界最強~  作者: 陽山純樹
第七章

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邪竜の狙い

『――これは、メイに話を通す必要があるけれど』


 と、やがてカイはユキトへ話し始めた。


『敵の狙いを確かめる……そして、事態の収拾を早くする上では、リスクではあるが一つの選択肢ではある』

「もしかして、あえてエリカ達をライブに参加させて……?」

『そうだ』


 ――ずいぶんと思い切った考えだとユキトは思った。


 つまり、邪竜の狙いがエリカ達であるなら、メイのライブへ赴くとすれば彼女達を狙う紛れもない好機。さらに言えば、魔物による騒動を引き起こし観客にその姿を目撃させるなどして混乱に陥れるなんてやり方もある。

 今回のライブ会場が霊脈の上であるため、邪竜側も魔物を召喚できる可能性は十分ある――エリカ達がライブへ行くことを敵が認識している可能性は限りなく低いが、霊脈を用いればその動きに気付いた時点で魔物を生成する準備くらいは整うかもしれない。


 よって危険ではあるが――邪竜が大々的に動くのであれば、ユキト達が相手の居所をつかむ好機でもある。


『メイとしてはエリカ達へ来て欲しいと語ったが、彼女自身他の観客に影響が出るかもしれないと考えると、微妙な心境だろう』

「そうだな……」

『ならばそれを僕らがフォローをして、対抗策を仕込んでおく……それは秘密裏にやった方が、邪竜の協力者を捕まえられる可能性は上がるかな』

「……リスクを承知で、か」

『正直、現状では完全に手詰まりだ。このままでは邪竜側の準備が整い、先を越される危険性がある……どこかで僕らもリスクを取る必要が出てくる。敵を誘い込む罠なんかを作り……邪竜側を追い込む……ただ、これはあくまで案だ。さすがに多数の観客がいる以上、やるべきではないね。ただ』


 カイは声のトーンをここで落とした。


「僕はエリカ達が赴かなくとも、騒動が起きる可能性を考えている」

「……その理由は?」

「霊脈の調査をしていた際に、いくつか重要施設と重なっている所をピックアップしていた。その中で今回メイがライブをする場所は、特に霊脈の力を吸い出しやすい場所だし、魔物が自然発生した場所でもある」

「そうなのか?」

「ああ、邪竜側もおそらく気付いている可能性が高い」

「……それで動くと?」

「あくまで可能性の話だけれど……」


 カイが言葉を濁す――ユキトとしては彼の言及について疑問に思ったが、カイの口調はどこか確信に満ちていた。具体的な根拠を提示することはできない様子だが、それでも間違いなくここで仕掛けてくる――そんな思いを抱いているようだ。


「……カイの考え通り、エリカ達がいなくとも攻撃されると仮定するなら」


 ユキトはやがてカイへ尋ねる。


「その防備に回る……ただエリカ達については……」

「エリカ達がどうするかは、彼女達に権利があるとは思う……メイとしては人々に迷惑が掛かるのなら、ライブを中止するという判断も選択肢だと考えるかもしれない」


 カイはさらに語る――とはいえ、組織が介入して「ライブは中止」といったことはおそらくできない。

 ただ、ユキト達にはやりようがある――例えば会場周りで事件などを起こすとか。しかし来るかどうかもわからないものに対しそこまでするのは、いかに政府でも避けたいところだろうし、許可しないだろう。


『メイには僕から話を通す』


 そしてカイはユキトへ告げる。


『防衛準備を開始するという方向で動く……エリカ達のことについては、彼女達の意思とメイの考えに委ねることにしよう』

「カイがそれでいいのなら、俺も同意するけど……ただ準備をするにしても、密かにやらないと敵は出てこないだろうな」

『そうだね……邪竜達に見える形で対策を施して相手を牽制するか、それとも秘密裏に――ここについては議論する必要があるけど、まあ見える形で、という判断になるだろう』

「さすがに一般の人を巻き込むわけにはいかないからな」

『ああ』

「……顔は見えていないけど、俺は声音からカイがそれでも邪竜は来るかもしれないと考えているようだけど」

『……あくまで、可能性の話だ。確証は持てない』


 そうカイは語ったが、やはりユキトの指摘通り来るだろうと考えている様子。


『もし敵が来ないようにするためには……エリカ達に加えてメイもその場にいなければ、邪竜としては戦略的な価値がないものと判断するかもしれない。ただ』

「……例え彼女がいなくても……か?」

『メイが所属するアイドルグループというだけで、邪竜達に目を付けられているのは間違いないだろうし、ね』

「わかった、俺はカイ達の判断に従うよ……当日は俺も警備に加わる。それでいいか?」

『うん、頼むよ』


 カイの言葉と共に通話は終わる。ユキトは大きな話になってきたと考えつつ、


「事態が大きく動く……か?」


 そんな呟きを、小さく発した。


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