調査の裏で
ユキトが作業を開始したのと同時刻、カイは組織内で作業をしていた。それは自らが扱う霊具の作成。さすがにこの世界で聖剣を作り出すことは不可能。けれど、それに近づけるために時折ツカサやタカオミにの手を貸してもらいつつ作業を進めていた。
なぜカイがそこまで注力するのかと言えば、聖剣所持者だった人間は何より戦いにおいてユキトに次ぐ戦力になるべきだと感じたことが一点。もう一つは自分自身の霊具を作成すれば、スイハに対して霊具の作成が容易な点。
(同じ聖剣所持者として、使用する霊具は共通できるだろうからな)
無論、個々に合わせ調整は必要だが、それでも二人分の霊具を作成することに繋がるため、邪竜の動きを考えて可能な限り早く作成しておくべきだと考えた。
現在は仮の霊具を作成し、それでも十分戦えるが、やはり聖剣所持者として十分な力を発揮できる武器は用意しておくべき――しかし、その作業そのものの進展は遅い。
理由はツカサやタカオミであっても、聖剣所持者ほどの力を持つ者の霊具を作るのは困難であるため――イズミも言っていた。カイ達の力が高すぎて、現在用いることができる資材では耐えられる物を作成することが厳しいと。
だが何かしらとっかかりがあれば、とカイは日々研究をしていた。そうした中、カイが作業をする一室にノックの音が舞い込んだ。
「はい」
返事をすると、扉が開く。現れたのは、ツカサだった。
「作業はどうだ?」
「順調、とは言いがたいね」
「まだまだ理想は遠そうだな」
「……今持っている霊具から少しずつバージョンアップをして、やがて僕の全力に耐えうる霊具にしていくしかないかな」
「全員が全員、そんな形で強化していくほかない。カイだけの話というわけでもない」
肩をすくめながらツカサは扉を閉める。
「少し話があってここに来た」
「邪竜の件? それとも霊具に関することかい?」
「いや、どちらでもない。仲間に関することだ」
カイは作業の手を止める。そしてツカサを見据え、
「何だい?」
「組織のメンバーについては、魔物出現時の対応などについてはシフト表的な物を作成した」
「ああ、そういうのはあった方がいいね。もちろん学生である僕達にその全てを受け入れるのは難しいかもしれないけど」
「平日の昼間とかどうするか、だが……」
「そこは僕も考えて提案はしてある。理想としては組織内で僕ら以外の人間が霊具を扱えるようにすることだけど……」
「国と連携しているのなら、例えば警察とかの人間が扱えるように、とか?」
「それが理想だけど、現実には難しいだろうね。そもそも魔力という概念を認識させるのに時間が掛かるだろう。ここについては僕もわからないことが多い」
――カイ達も霊具を手にして力を得たため、一から魔力を知覚させるという試みはやったことがない。そもそも召喚された異世界では赤子でも魔力というものを感知していた。けれどこの世界ではそれがない以上、他者が魔力を知覚できるようにするためには、やり方がそもそもわからない。
「いざという時は授業を使い魔とかに任せて、動けるようにするとか……そういう手法も必要かな」
「……仕方が、ないか」
「とはいえ、基本はプライベート優先だ。最悪僕やユキトでどうにかするさ」
「……負担が大きくなる。それでもいいのか?」
「僕やユキトは少なくともやる気だよ……騒動が起きればすぐに現地へ向かう心づもりはしているよ」
カイ自身、覚悟はとっくに済ませている。今は何より、この世界に災いをもたらそうとしている邪竜の魔の手から幼馴染みを守るため――そういう意思で、カイは邪竜と向き合っている。
「僕らのことは気にしなくていいと仲間に伝えてくれれば……いや、それは逆効果かな?」
「……今はまだ、足らないものが多い。状況が改善するまではユキトやカイに負担を強いるしかないだろうな……まあいい、そこについてはわかった。では二つ目の話」
改まった口調でツカサはカイへ告げる。
「仲間からとある報告があった。魔力を知覚できるレベルには至っていないが、何かしら気配に気付いている人間がいる、と」
「それは……何かの兆候かい?」
「その可能性があると考えている。仲間が言うその人物は、よく一緒に遊ぶ友人だそうだ」
「……普段接している人に、影響を及ぼすと?」
「霊具を扱っている俺達の魔力が、気付かないなりに何か世界に影響を与えている可能性がある」
「ふむ、邪竜を倒したら霊具を封印したいところだけど、さすがに時計の針を戻すことは難しいだろうな」
「……邪竜を秘密裏に倒せたとして、この問題は解決するのか?」
「今はまだ、語れるものじゃないな。僕らができることは一日でも早く邪竜を倒すことだけだ」
「これ以上影響が出ないように、か」
「ただ、日頃から接している人に影響を与えているとしたら、いずれ魔法を扱える人間が現れてもおかしくない……魔物の発生と合わせ、この辺りも注意を向ける必要があるかもしれないな――」




