将来
メイと顔を合わせてから、ユキトはしばらく穏やかな日々を過ごした。相変わらず邪竜とその一派を見つけることはできず、状況的には煮詰まってしまってはいるが、それでも組織内の状況は改善している。
とはいえ、敵の居所がわからないことで焦燥感が生まれているのも事実――カイやツカサは邪竜の捜索方法を変えてみるなど試しているが成果は上がることなく、時間が経過するばかり。
他の仲間達も捜索に手を貸すような段階となり、五月中旬に差し掛かった時、放課後の時間帯になってカイから連絡がやってきた。
『少し調査して欲しい場所がある』
そう前置きをされて指定されたのは、複数の場所。
『魔力の流れが調査によって変化していることがわかった。ディルの能力を使って、いくらか魔力を採取して欲しい』
「わかった……俺だけで動くのか?」
『うん、色々な所を回る必要があるからね……時間が掛かることだし、ユキトの負荷が大きいのだけれど』
「構わないよ、次の休みでいいか」
『うん、悪いね』
カイは同意を得られて安堵した様子。そして組織の状況についても報告を行う。
『組織の外部的な立ち位置はそこそこかな。想定している形ではある』
「秘密裏の組織だけど、世間にバレたら面倒どころの騒ぎじゃないよな」
『その辺りはどうにか……仮に露見しても問題ないような体制を築いておく必要があるね。実を言うと、作業を始めてはいるんだけど……』
「……それは、世間に広まる可能性があるって話だよな?」
『あまり考えたくはないけどね』
カイは笑う。声音から苦笑している様子だった。
『もしもの事態が起きてから対処しては遅いから、事前に色々とやっておく……少なくともユキト達がマスメディアの人に追い掛けられるようなことにはならないし、させないから安心して欲しい』
「何をするつもりなのか想像はつくけど……ま、そこはカイに任せる。ところで」
と、ユキトはここで話を変える。
「エリカとはその後、どう?」
『僕の方は相変わらずだけど、ミナとよく話をするようになったらしい。次の休みには一緒にどこか出かけるみたいだ』
「とりあえず、カイの目論見は成功、ってことでいいのか?」
『概ね、だね』
どこか穏やかな口調で話すカイ。
『二人のことは心配いらない。ユキトの方も気に掛けなくて問題ないし、もう過去の清算は果たしたと考えていい』
「わかった……ああ、別に進展の報告は必要ないから」
『うん……と、そうだ。話が変わるけど、一つ質問していいかい?』
「どうした?」
『メイについてだけれど、最近ユキトは顔を合わせたかい?』
――どこか引っ掛かるような物言いだった。よってユキトは、
「えっと、何かあったのか?」
『なんというか、見ていて何か抱え込んでいるような気がして』
「それは……肉体面? 精神面?」
『強いているなら両方かな』
「……アイドル活動が原因だとは思うけど」
『やはり、そうかな』
声のトーンが落ちる。ユキトは以前彼女に処置を施したことを言うべきか迷ったが、
「……芸能人として忙しい毎日を送っていることを考えると、組織に顔を出す余裕もないんじゃないかな」
『そうだね……』
「何か気になることが? それとも、メイの力を借りる必要性が出てきたのか?」
『いや、単純に組織にも時折顔を出すこともあって、忙しいのであれば当面こっちの活動を自粛させるべきかな、と』
思わぬ発言だった。ユキト達からすれば、メイの助力は非常にありがたいし、何より仲間として信頼できるのだが――
『メイにとって、一番重要な時期かもしれない』
「アイドル活動をしていく上で、か」
『うん。彼女が将来どうしていくのか……そこはまだ見えていない。僕らはメイが異世界の経験を通して医者になりたいという気持ちを抱えていることはわかっているけれど、今の活動で心境に変化だって出てきているかもしれない。どちらにせよ、メイにとっては今後の人生を決める重要な局面だろう』
「そうした時に、組織の活動で邪魔をしてはならない、か」
『組織の活動も人生を決める指標の一つだ、とメイは答えるだろうし、彼女はどれだけ忙しくとも組織に顔を出すとは思うけどね』
何か、やれることはないか――カイはどうやらメイにそう思っている様子。
『ユキトも少し考えてくれないか?』
「こんな相談をしても、メイは心配するなと言って終わりそうだけど」
『うん、かもしれない。でも……僕たちは仲間である以上、忙しい彼女をフォローするべきだと思うし』
「そうだな……」
しかしできることは何があるのか――ユキトとカイはその後も色々と話し合い、メイに対し何かできないかを探ったのだが、結局結論が出ないまま話は終了した。
「少し考えてみるか……」
ユキトは頼まれた仕事のことと、メイに関すること――その二つで、頭を悩ませることになったのだった。




