彼の幼馴染み
集合場所はとある繁華街の広場。ユキトが訪れた時点で既にメイが待っており、近づくと彼女は気づき手を振った。
「やっほー」
「……ああ」
パンツスタイルかつ淡い色でまとめられているのが特徴的な服装だった。普段見る姿は制服であるし、異世界でも基本的には支給された騎士服であったため、共に戦ってきた仲間ではあるが、ユキトにとっても私服姿というのはとても新鮮に映る。
「カイ達は?」
「さっき連絡来て、もうすぐ到着するって」
ユキトは周囲を見回す。人通りはそれなりにあり、メイを知っているであろう高校生くらいの人もいたのだが、視線を向けてきてもメイの存在には気付かない。
「幻術を使っているのか?」
「当然。なかったら大騒ぎになるよ」
「……今回やってくる二人にはどう説明する?」
「ま、誤魔化し方はいくらでもあるよ」
そう言ってメイはおもむろに帽子を取り出して被った。
「ほら、これで少し俯いていればバレない、みたいな説明をすればいい」
「そんなものか?」
「世間にバレないように動くというのは、別に幻術がなくてもできるからね」
彼女なりの処世術があるらしい。それなら言及する必要もないだろうとユキトは沈黙する。
少しの間、周囲の喧噪が耳に入ってくる。ユキトはふと、気になることがあって問い掛けようか迷ったが、今から始まるイベントにそぐわないとして一度はやめた。けれど、
「……メイ、調子はどうだ?」
「魔力の方? 小康状態かな」
「現段階ではまだ処置をする必要性はないと」
「あくまで現段階、だけどね」
「予感はあるのか?」
「少しだけ」
改めて、そういう事態に陥らないことを祈る――そう思った時、ユキトの視界にカイの姿が映った。彼の後方には、二人の女性。
「来たな」
カイはユキト達に気付き、手を上げながら近づいてくる。
「待ったかい?」
「俺は今来たところだ」
「私もそんなに待ってないから」
やりとりをした後、カイの後ろにいた女性の一人――ミナがメイへと近づいて話を始める。その格好は明るい配色のワンピース。メイを見て満面の笑みを浮かべる彼女はまるで、太陽のような明るさを持っていた。
ユキトはもう一人の女性へ目を向ける。相手は射抜かれて少し緊張した様子。出で立ちはスカートではあるが、こちらはミナと正反対にシックな色合いでまとめている。
一方でカイはスラックスで顔立ちやスタイルの良さもあって大人の男性という印象が強い。彼女の方はカイを意識したのかは不明だが――少しでも、彼に近づこうと大人びた格好をしているように見えた。
そんな姿を見た後にユキトは、
「……久しぶり」
「うん」
頷く彼女。カイの幼馴染み――悠木エリカは、どこか固い表情をしていた。
ただそれはユキトが相手だから、ではない。今回こうして集まったこと――そのメンバーを目の当たりにして、緊張しているのだろうというのが予想できた。
「さて、こうして集まったわけだけれど」
カイはそうした中でも普段通りのテンションで口を開く。
「とりあえず移動しようか。まずは、そうだね……ゆっくりと話ができる場所……公園でも行くかい?」
「そうしようか」
ユキトが同意すると、メイ達も了承し一行は歩き出す。メイとミナは相変わらず喋り倒しており、一方でカイとその横を歩くエリカについては会話もまばらであった。
最後尾のユキトはただ黙ってついていく――時折メイに話を振られ、それに応じたりはする。ただ、必要以上に話をしない、というよりはできないと言うべきだろうか。
(やっぱり緊張しているな……)
エリカを目の当たりにして――ユキトはまたも自分の手で引き起こした出来事を思い出す。
(でも、カイがこうして機会を設けてくれたんだ。今日で、決着をつけないと)
ただ、彼女はどう考えているのか――まずはその辺りから尋ねなければ、とユキトは結論づけた。
移動により公園へと移動したユキト達は、自販機でジュースを買った後に各々好きなように談笑を始めた――といっても、メイとミナは相変わらずであり、ベンチに座りとりとめもない話をする。一方でカイは二人に近づいて話を合わせるような形をとった。
そんな風にするのは、ユキトとエリカをまずは会話させるためだろう――別のベンチに座るユキトとエリカ。最初は会話もなかったのだがやがて、
「……あのさ」
先んじて口を開いたのは、エリカだった。
「ここでこうして会話をするってことは、色々あったことをじっくり話し合おうってことなんだろうけど……」
「……気にしていない、か?」
問い掛けにエリカは小さく頷く。
「その、私としてはあの時色々と相談に乗ってくれて嬉しかったと思ってるし、個人的には迷惑だなんて思ってないから」
――彼女としてはそうなのだろう。けれどユキトとしては違っていた。
彼女に説明しても理解できない領域の話ではある。異世界召喚のことは、一般人である彼女に話すことはできないし、全てをさらけ出すことはできない。
しかし、それでも――ユキトは意を決して語り始めた。




