もっとも恐れること
――騒動の後、カイはさらに組織により索敵を進めていたのだが、結局邪竜の一派を発見することはできず、動向を窺い知ることはできなかった。
なおかつ他の都市などを調査した結果、魔物が出現している場所を発見。ユキト達はどうするかを協議し、最終的に持ち回りで魔物を討伐することが決まった。
ユキトは決定に最初、大丈夫なのかと不安も抱いたが――その考えは杞憂に終わった。
訓練により強くなった仲間達は、十全に活躍を果たした――カイですら予想できなかったほどの成果だった。
「思った以上に仲間は強くなっているよ」
どこか興奮した様子でカイはユキトへ語った。嬉しい誤算によって、魔物が現れても倒すことができて、ユキト達の組織については盤石な形となりつつあった。
そして、何より重要な霊具開発についても順調だった。イズミ、ツカサ、そしてタカオミという存在によって一気に開発が進んでいる。霊具を作成する上で物資などが限定される中、一つ一つ確実に作成されている。
それらは魔物を討伐する上では高品質――無論、異世界で手にしていた天級や特級クラスの霊具と比べれば劣る物ではあり、ここについてカイはまだまだ懸念を抱いている様子。
「邪竜との戦い……相手も準備は進んでいるだろう。動き出した時、どれほどの規模の戦いになるのか……」
カイはそう呟き、今以上に研鑽を積むべきだと表明。仲間達も気を引き締め直して修行と開発を進めることとなった。
また、ここで仲間の一人がカイへ向け一つ質問をした――邪竜の動きについてどのように想定しているか。すると彼は、
「僕らは邪竜が攻撃している時に召喚された。よって、どのように侵略したのか情報でしか知らないけれど……人間を懐柔し、進行した当初国々の連携を妨げ、足並みを揃えさせないようにした……人間がどういう存在なのかをよく知っているが故の行動だ」
カイはそう考察した後、難しい表情を示しながら続ける。
「攻撃を開始した段階で、軍勢として対抗できたのはフィスデイル王国ぐらいだった……他の国は情報さえ錯綜し、混乱の極みに陥っていた。人間から裏切り者さえ出たのだから、どうしようもない状況だったのは間違いない」
――霊具が豊富にある世界での出来事である。もしこの世界で同じことが起きたら、と誰もが想像をしたことだろう。
「同じ事がこの世界で起きたとしたら、異世界で起きた時以上の惨劇が生まれるだろうね。そもそも魔物に対抗できる手段がない以上、どうにもならない……邪竜が動き出した時点で、手遅れという方がいいかもしれない」
では、具体的に何が起こる――という仲間の問い掛けに対し、カイはさらに語っていく。
「とはいえ、だ。邪竜の力もそれほど大きくない以上、全世界侵攻、などという無茶はできないだろう。配下を多数用意したとしても、精々国を一つ乗っ取り支配する、くらいかな?」
無論、それはつまり自分達の国が支配されることを意味するので、さすがにそんなことは防がなければならない。
「ただ、そのインパクトは恐ろしいものになるだろう。混乱の中で国が崩壊する危険性だって考えられる。しかも対抗できるのは僕達だけだ」
――そしてカイがもっとも恐れることを語る。それは、大量の魔物によって押し潰されること。いかに戦力を整えているとはいえ、多数の魔物相手に仲間達が勝てる道理はない。特級以上の霊具があれば話は別だが、そこまでの武具がない以上魔物と戦えるにしても一騎当千のレベルには至っていない。
「理想的には特級霊具以上の武具を開発し、大量の魔物がいても対抗できるだけの力を得ること……だけど、無茶苦茶な霊具を作成すると政府からにらまれてしまう可能性がある」
それはきっと、組織の存続にも影響してくる――
「この辺りは上手くバランスを取らなければいけない。政府に魔物の脅威を説き、邪竜の恐ろしさを語り、僕らの存在が今以上に認められていく必要がある。ま、この辺りは時間が必要だ。その活動と並行し、邪竜の存在を捕捉する……やることは非常に多いけれど、ここが踏ん張りどころだ」
――そうして仲間達は修練に励む。その中でユキトはとうとうカイの幼馴染みと顔を合わせる日がとうとう到来することになった。
「今から緊張しなくても」
前日、そうディルにツッコミを入れられるほど、ユキトは落ち着きがなかった。
「邪竜との決戦でもそんなに緊張してなかったよ?」
「……まあ、うん。そうだな」
そんな返答にディルはなおも苦笑。冗談を言われても返す余裕すらなく。
「ちなみに私は行かないから、一人で頑張ってね」
「え、そうか」
「だってカイの幼馴染みと私は関係ないし」
「そうだよな……」
どこまでも弱気なユキト。そんな様子にディルはなおも笑い――夜は更けていった。




