自然現象
「現在の事態が収束するかどうかは、わからないとしか言いようがないね」
カイはそう述べると、前を見ながら語り続ける。
「魔物が自然発生するメカニズムを解明できたわけじゃないけれど、こうして出現し始めている以上は僕らや邪竜の存在が原因だと考えていいだろう……それを戻すということができるのかは、わからない。ただ、可能だとしても非常に厳しいだろうことは予想できる」
ユキトとスイハは表情を硬くする――とはいえそれは、二人も推測していることであった。
「その様子だと二人も予想できているかな? 魔物の発生は自然現象に近いものであることは予想できるし、それを人の力で止めるというのは……邪竜との戦いに勝利し、僕らが戦うことがなくなれば魔物が発生しなくなる可能性はある。けれど」
「難しい、かな」
というより、実質不可能では――そうユキトは心の中で呟く。
「そうだね……魔力、魔法という概念がこの世界で生まれてしまった以上は、ね。政府側の動きもどうなるかわからないし、今後、魔法がこの世界に認知されていく可能性は高そうだ」
「そうなったら……」
「未来はわからない。それが良いことなのか悪いことなのか……そうした中で僕らの立ち位置も決めなければならないけれど」
「とにかく、政府と手を組んで立ち回るしかないな……平穏な生活を送るならば」
ユキトの言葉にカイは神妙な顔つきで頷いた。
「ああ、そうだね。僕らはこの世界の人々にとって驚異的な力を所持しているけれど、求めるのはあくまで平穏だ。もちろん、僕たちの中で魔法を悪用するような人間がいれば、対処しなければならないけれど」
「ならないと思うけどな、俺は」
ユキトは異世界で戦った時のことを思い出す。あの結束があれば、仲間達の中で魔法を悪用するような人間が現れることは――
「ああ、そこについては僕も心配はしていない……けれど、環境の問題もある。魔法が周知されれば僕らは矢面に立たされてしまう可能性が高い。そうなったら、僕も大丈夫だと断言できなくなる」
「……環境、か」
「僕らの組織は政府の後ろ盾があるけれど、現時点では秘密裏だ。魔法という概念がこの世界に生まれるにしても、今ならばまだ隠れていることができるけれど……」
「邪竜の動き方次第では戦わなくてはいけなくなる……そうなれば、どうなるかわからない」
「一応、対策とかはあるんだけどね」
「俺もなんとなく予想はつくよ。でも正直、あんまりやりたくはないかな」
ユキトの言葉にカイは頷く。一方でスイハはどういうことなのか首を傾げたが、ユキト達が詳細を話すことはなかった。
「……カイ、邪竜側にまったく動きがなくなったが、結局現時点で何をしているかはわからないよな」
ユキトは話を変える。その言葉を受け、カイは自身の見解を述べた。
「何かしら作戦のための仕込みをしている……というのは間違いないと思う。ただ、組織内で構築した索敵にも引っ掛からない……その範囲は日に日に拡大しているのに、だ。今回のケースだって邪竜の仕込みだと予想していたのに、実際は自然発生したものだ」
カイはそこまで言うと空を見上げる。
「話を今回の件に戻すけれど、ああした繁華街であれほどの魔物が生まれたという事実は、色々な想定ができる。ここは僕らが魔法を使って魔物と戦った場所とはかけ離れているけれど、魔力の発生によって僕らの住む町を中心に魔物が生まれている可能性。あるいは、霊脈などがどこかに存在していて、それが活性化されたことによって生まれたか……検証はきちんとしなければならない」
「現在の組織でそれはできるのか?」
ユキトの疑問にカイは小さく肩をすくめる。
「わからないが、やらなければならない。幸いながらイズミの霊具作成によって環境は整いつつある。どこまでできるかわからないけれど、全力は尽くす……そして邪竜についてだけど、魔物が索敵に引っ掛かるのに邪竜は活動している様子がない……考えられるとしたら、僕らが考えているような仕込みではないということ」
「どういう、ことだ?」
「異世界で邪竜は世界へ侵攻したけれど、それは人間の裏切り者が発生した点が大きい。それを踏まえれば、邪竜は配下の人間などがいればそうした人物達を利用し、味方になる存在を増やしている。以前僕は邪竜が動けば騒動が起きるだろう、仕込みは完了しているだろうと予想したけれど、それは間違いないだろうと思う」
「それを回避するべく、俺達は色々やっているわけだが……止めるのは、厳しそうか?」
「とにかく尻尾をつかまないといけない。それができればいいのだけれど……」
カイの言葉尻がしぼんだ。ユキトもわかっている。邪竜の配下がどういった人物なのかもわからないため、探しようがない。
一度だけ交戦したことはあるが、結局逃げられてしまい、以降どれだけ索敵しても見つからない。邪竜も馬鹿ではないし、その人物は外に出ないようにしているだろう。
「とにかく、作業は進める。ユキト達も、引き続き協力を頼む」
カイの言葉にユキトとスイハは頷く――今はただ、やれることを全力で。それしかなかった。




