魔力集積地
ユキト達はその後も地下街を回り、魔物を倒しつつ調査を進めていく。時間はどんどんと進み、この町へ転移して一時間ほど経過した際、カイはようやく結論を出した。
「厄介な方へ話が進んでいくな」
カイが詳細を説明し終えた時、ユキトはため息をつきたくなった。
「つまり分身ではなく別個の存在だということか」
「そうだね……とはいえ、だ。魔物の特性は似たり寄ったりで、たぶん魔物を生み出す母親のような存在がどこかにいるとは思う」
「そいつを倒せば魔物が増えることはない……というのも、さすがに楽観的じゃないか?」
「まあね。巣が機能している場合はミツバチの中にいる女王バチのように一匹しかいないけれど、そいつを滅した瞬間、別の魔物が同じように子を生み出す可能性がある」
では、どうすべきか――ベストな作戦は同型の魔物を駆逐することだが、果たしてそんなことができるのか。
「ネズミの特性はおおよそわかった。先ほど言ったように巣になるような魔力集積地を作ってみて、そこにネズミが集まるかどうかを検証。成功したなら魔物をまとめて倒そう」
「場所はどうする? どこにでも人はいそうだけど……人払いをすればいいか?」
「人払いをするにしても広い場所がいい。公園とかかな。地下街の上にそういう場所があるみたいだから、そこでやろう」
ユキト達は一度地下街を離れ、公園へと辿り着いた。都会にある憩いの場、自然のオアシス――そんな表現が似合う場所である。
「カイ、魔力溜まりを作成して誘い出すのはわかったけど、それだけで全て来ると思うか?」
「他にも魔物を誘い出す魔力を流す」
「……フェロモンみたいなものか?」
「そんなところ。イズミがいればよりちゃんとしたものになるんだけど、現状を放置はできないし、やれることをやろう」
「もし今後、同型の魔物が再び出現したら……」
「それに備えてイズミに霊具を作成してもらっておく。使わないことを祈りたいけれど」
カイは語りながら作業を進める。その間にユキトも魔法を使用。人払いするもので、ここに辿り着いた時、公園内を歩いていた人は結構いたのだが――魔法使用により、皆無となった。
「あとは遮音の魔法を使って……と。こんなところでいいか?」
「視界を遮る魔法も欲しいな。魔物は見えないにしても、僕らは見えるから」
「ああ確かに……人払い、遮音、視界の遮断……一度にできるような魔法も開発すべきか」
「そうだね」
まだまだやることは多そうだ、とユキトが胸中で呟く間に、準備を終えた。
「よし、それじゃあいくよ」
「俺とスイハは何をすればいい?」
「僕が魔力溜まりを作成する。ユキトは索敵を継続して、魔物が余すところなくここへ来ているかの確認」
「本当に全て来ているかはわからないけど……」
「ひとまず観測できる範囲でいい。今後、こうした魔物が出現した際に対策を立てるし、今はとりあえず目の前の危機的状況に対処するのが優先だ」
「わかった」
「私は?」
スイハが問い掛けると、カイは彼女と視線を合わせ、
「魔物がやってきた際、動向を観察して欲しい。僕は魔力溜まりを作成するのに手が一杯になるだろうからね」
「わかった」
役割が決まり、ユキトは周囲の状況を探るべく索敵魔法を行使。公園周辺を歩く人達を気配で認識し、なおかつ公園内へは近寄らないのを確認できた。ちゃんと魔法は効果を発揮している。
そしてカイは魔力を発した。周囲の人々は魔力を感知できない以上、何が起こったか間近であっても理解できないだろう。けれどユキトには見えた。彼が発した魔力が形をなし、球体のように大きくなっていくのを。
それと共に、索敵魔法により引っ掛かった魔物に動きが。明らかにユキト達がいる公園へと向かっていく。
「カイ、魔物が動き出した」
「うん、いい兆候だ」
「俺達がいる以上、攻撃する可能性もあるが……?」
「地下街で僕らが攻撃しようとしても動きがなかっただろう? 目立たないよう動いていたこともあるし、魔物には敵意がない。僕らから攻撃しなければ、おそらく干渉してはこないだろう」
そうカイは語った後、小さく笑みを浮かべ、
「この世界において、人々は魔物を認識できない。だから自然発生した魔物――特に小さい個体は、敵意がない……呼吸すれば体を維持できるし、襲う必要性もないからね」
「魔物なのにおとなしい、ということか」
「人間に見つからないよう動いているのは、自然発生した最初の頃は人々も姿を認識できていた、ということかもしれない。けれど結果、駆除されてしまうことを学習した魔物は、見つからないよう配慮するようになった」
「駆除か……人間も見えていれば魔物を倒せると?」
「自然発生した魔物はモデルとなった動物の特性を持つケースが多い。この場合、ネズミ駆除の効果によって滅んでいたのかもしれない。けれど、その対策を行いなおかつ姿を消して活動した……推測だけど、こんなところだろうか」
語る間に魔物が近づいてくる。ユキトはその数を察し――自然と全身に力が入った。




