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黒白の勇者 ~再召喚された異世界最強~  作者: 陽山純樹
第七章

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受け身の姿勢

 ユキトは夢を見た日、どこか浮遊感にも似た感覚を抱きながら登校した。そして授業を受けている際、ふと邪竜との戦いのことを思い出すのは久しぶりだな、と思った。


(カイ達の記憶を戻し、組織として活動していく中で、思い出すことも少なくなっていたからな……)


 仲間達の記憶は戻した以上、感傷的になることも皆無となって、余計に思い出すことは減った。ただ、久しぶりだったので今日ばかりは夢のことを思い出して色々考え込んでしまう。

 そんな様子がどうやらスイハに伝わったらしく、昼休憩で昼食後、中庭に呼ばれて話をすることに。


「なんだか様子がおかしいけど……」


 それに対しユキトが簡潔に説明すると、彼女はなんだか興味ありそうな表情を示した。


「ユキト達が戦ったことについては向こうの世界でレーネさんとかから多少なりとも聞いたけど……」

「今は色々と忙しいし、カイ達の記憶が戻ったことで思い出す機会はなかったけど、邪竜と戦っている間も仲間との思い出が夢に出てきたことがあったな」

「それは、仲間が倒れたからとか?」

「そうだな」


 ユキト達は迷宮奥に存在する願いを叶える霊具『魔紅玉』によって、失った仲間を蘇らせるという目的を携え邪竜と戦っていた。その時の光景は思い出そうと思えばすぐに記憶から蘇ってくる。

 ある意味、世界を救う戦いであったため異世界の人々にとっては輝かしいものかもしれない。だが、ユキト達はそれこそ死に物狂いで――仲間と世界を救うために戦っていた。特に最前線で戦っていたユキトは霊具の特性から心休まる日々はほとんどなかったように思える。


 しかし、だからといって辛く苦しい戦いだったかと言われると、少し違っていた。無論、命を賭して戦う以上、苦痛と苦悶と、何より犠牲を積み重ねて勝つ以上は後悔もつきまとっていた。自分がもっと強ければ、自分がもっと動けていれば――そんな考えが常にあった。

 けれど、その先にあったのは紛うことなき輝かしい未来。邪竜を倒し平和になった世界。その世の中が見えていたからこそ、苦しい戦いであっても自らを鼓舞することができた。


「……ねえ、ユキト」


 ふいにスイハはユキトへ向かって尋ねる。


「ユキトは邪竜との戦いに勝利したら、どうするつもりだったの?」

「残るか戻るかという話か?」


 スイハが頷くのを見て、ユキトは少し間を置き、


「……正直、具体的な解答がどうだったのか、というのを明瞭には言えない」

「言えない?」

「俺は最前線で戦い続け、常に死と隣り合わせだった。この戦いの先に邪竜との決戦があって、輝く未来がある……それは理解できたけど、自分がその未来に立って何をするかまでは、考える余裕がなかった」

「決められなかったの?」

「そうだ。邪竜と決戦をしている時ですら決めていなかった。最終的に俺だけが生き残り、願いを叶え俺は仲間達と共にいたくて戻ったわけだけど……それを踏まえると、仲間達がどうするかで自分の答えは決めたかもしれない」


 受け身の姿勢――ではあったのだが、これはユキトなりに理由もあった。


「俺自身、自分の未来を決めてしまうと……なんというか、戦いに支障が出てしまうかもしれないと考えてさ」

「あえて考えないようにしていた、と」

「ああ。元々、俺達は仲間を復活させた後にこの世界へ戻ってくるために色々行動しようと考えていた。だからまあ、時間的に余裕もあったわけで、戦いが終わってから考えても遅くはなかったんじゃないか、と考えた面もあった」

「そうなんだ……」

「この世界へ帰還したことも、半ば衝動的だったからな……ともあれ、俺自身後悔はしていないよ。異世界で英雄として生きることも選択の一つではあった。でも、それはきっと内心で後悔を胸に抱くような形になってはいただろうと思うし」


 結果的に再召喚され、こちらの世界にいるカイ達に記憶を戻すきっかけを手に入れることができたのを踏まえると――正解の道だったのかもしれないとユキトは思うが、邪竜との戦いの最中にこんな未来を想像することなどできなかった。


「なんというか、行き当たりばったりみたいな感じだけど……」

「ううん、ユキトなりに色々考えているのはわかった」


 スイハは納得した様子。そこでユキトは逆に質問した。


「突然話を振ってどうしたんだ?」

「あ、ごめん。特に深い意味はないよ……ただなんとなく、どういう気持ちで戦っていたのか気になっただけ」


 ――スイハとしては、何か気になることがあるのだろうかとユキトは疑問に思う。とはいえそれを尋ねるようなことはしなかった。


「ユキト、話は変わるけど邪竜について情報はあるの?」

「いや、まったくないな。そこについては現在も調査中だ。色々やっているけど出ないということは、本格的に活動を停止しているんだと思う」


 そう答えた時――ユキトのスマホに着信が。画面を見るとカイからだった。


「――どうした?」

『すまない、昼休み中に。魔物が出現した』

「わかった。今から対処するのか?」

『いや、流石に無理だ……その、場所なんだけれど』


 カイは少し間を置いた後、


『ずいぶんと厄介な場所だ。とはいえまだ魔物は隠れている。放課後、すぐに対策を立てたい――』


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