仲間以上
思わぬ形でカイの幼馴染みと顔を合わせるスケジュールを立て、ユキトはその日帰宅した。メイの予想だにしていなかった要求もそうだが、カイのこともあり普段見ない仲間の一面を見れた気がした。
「おかえり」
そして部屋に入るとディルがいた。ユキトは「ああ」と短く返事をしつつ、
「ああ、そうだディル」
「どうしたの?」
――メイのことを説明しようとしたのだが、途中で言葉が止まった。
(……彼女の知られたくないという要素から考えても、とりあえず秘密にしておいた方がいいのか?)
ディルはこう見えて口は硬いので喋っても誰かに話すようなことはない。だが、仲間達は記憶を戻し魔法を学んでいる状況であり、ディルの動向などによって怪しまれるという可能性は否定できない。
(メイに魔法を使う機会が訪れるかもわからないし、その時が来たら話をするか)
「カイと顔を合わせて、彼の幼馴染みと会うことになった」
「ん、あの人に?」
ディルは聞き返す。ユキトが接触したカイの想い人――ディルも無論知っている。
「ああ、色々あってな。それとカイの友人と、あとはメイか」
「ユキトもいて……か。なんだか変な組み合わせだね」
「突発的に顔を合わせてそういうことになったからな……俺としては大丈夫なのかと不安を感じる面もあるんだけど」
「そんな大層に考えなくてもいいんじゃない?」
ディルはそう楽観的にユキトへと応じた。
「話す機会があるなら、とことん話してきなよ」
「ディルは来ないのか?」
「私が顔を出したら混乱するでしょ? でしゃばってもロクなことにならなそうだし、参加するのはやめておく」
――ユキトの、若干ではあるがトラウマに関わる部分であるためディルは気を遣っている様子だった。
「そうか。なら約束の日、ディルは自由行動だな」
「組織に足を運んで訓練風景でも眺めるよ」
「わかった……さて、今日はどうするかな。鍛錬という気分でもないし、勉強でもするか」
「――あのさ、ユキト」
ふいにディルは、名を呼んだ。彼女へ視線を向けたユキトは、なんだか緊張しているディルの姿を視界に映した。
「一つ気になっていることがあるんだけど、いい?」
「改まってどうしたんだ? ああ、答えられることであれば答えるけど」
「変な意味じゃないんだけどさ……メイのこと、どう思ってる?」
――まさか今日の会話を聞かれていたわけではあるまい、とユキトは内心で驚きつつ、それをどうにか面に出すことはなかった。
ただ、質問の意図が気になり頭の中で疑問符が生まれる。ディルが語っていることは、
「口ぶりからすると、仲間以上の感情があるのかどうか、といったところか?」
「まあ、そんなところ。ほら、記憶を戻してから接する機会も増えたじゃん?」
――ユキト自身、様々な思いはあった。共に戦った異世界における鮮烈な記憶。そこでも輝いていた彼女の姿。
そして今、記憶を戻しなおかつアイドルとして成功しつつある状況を見て、色々思うところあった。けれど、恋だの愛だの――そんな言葉さえ口にすることすら、彼女に対し失礼なのではと思ってしまう自分がいた。
「……好意的なものは、仲間としてならもちろんあるさ。異世界において……邪竜との戦いにおいて彼女の存在は仲間達にとってまさしく精神的な支柱だった。クラスメイトは公言しなかったにしろ、好意を持っている人がいたのは間違いない」
そう告げるとユキトは、ディルへ向け肩をすくめた。
「でも、それ以上は……例えばの話、告白してもメイは断ることは目に見えていたわけで、アイドルとして、癒やし手としての活動こそ彼女の望みであり、そうした役目こそ恋人だと思っていたわけで」
「惹かれるだけの理由はあるけど、メイの態度からして脈なしだと思ったわけか」
「まあそんなところ」
「ならユキトもそんな風に感じていたの?」
「そこは……正直、わからない。恋愛云々にうつつを抜かすような暇はなかったから」
では今はどうなのか――自問をした後、交流会で見た彼女の姿を思い返す。あの時、ユキトの胸にはある感情が宿った。けれどそれは、
「そっか」
ディルはさらに踏み込むことはなく会話を打ち切った。そこで今度はユキトが彼女へ訪ねる。
「急にどういう風の吹き回しだ?」
「いや、単純にどう考えているのか気になって。ほら、ユキトにはスイハもいるし」
「なぜそこでスイハが出てくるんだよ……俺としてはスイハもメイも、大切な仲間であるのは間違いないけど――」
「ん、わかった」
ディルの質問が終了。結局何だったのかと思いつつ、もしかして誰かに聞けと頼まれたのでは、などと思ったりする。
(仮にそうだとしたら誰だろうな? アユミとかシオリか? でも、二人はアイドルとして活動するメイを応援している友人だけど、彼女の人間関係まで気にするようなタイプじゃなかったように思えるけど)
気にはなったがディルに尋ねることはなく、邪推もここまでにしようと考え、ユキトは勉強でもしよう机に向かうことにしたのだった。




