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黒白の勇者 ~再召喚された異世界最強~  作者: 陽山純樹
第七章

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処置の魔法

 メイはそれこそ、仲間内に対しても笑顔で弱みを見せることはほとんどなかった。無論、召喚された世界で残酷な状況を目の当たりにしたことで、涙を流したことは知っている。それは多数の戦死者が出た戦い。邪竜の攻勢が苛烈になって、メイの治療むなしく亡くなる人が多数出てしまった戦い――彼女もまた無力感を抱いた。


 けれど、自分自身のことについては決して弱音を吐かなかった。ことあるごとに不安を吐露する仲間達の相談を受けていたが、メイ本人からそうした言葉が漏れることはなかった。

 アユミを始めとした友人は、心配して幾度となく声を掛けたことはあったが、彼女は笑って応じていた。けれどそんな彼女が今ユキトの目の前で、不安に苛まれている。


「……まず、俺の意見から言わせてもらうけど」


 ユキトはメイと視線を合わせながら口を開く。


「このまま魔力の成長が続けば、体調を悪くする可能性は高いと思う。ちなみにメイ、現時点で体調はどうなんだ?」

「今のところは特に。でも、これから成長すればどうなるか……」

「抑え込む、という処置そのものはあくまで急場しのぎだ。確かに一時的……体調が悪くなる状況を回避できるかもしれない。でも無理矢理魔力を抑え込めば反動が出る」

「うん、わかってる」

「しかも、今後どう成長するかわからない以上、一ヶ月ももつのかだってわからない」


 ユキトの指摘にメイは頷く。けれど決意は変わらない様子だった。


「……もちろん反動によって逆に体調を崩す可能性は高い。正直、リスクの方が高いと思う」

「それでも……お願い」


 メイの言葉はどこか絞り出すようなものであり、ユキトは内心困惑する。

 ここまで言うような状況、異世界における戦いでもそう多くなかった。


「……そうまでして一ヶ月後、イベントというのが重要ってことか?」

「うん」


 頷いたメイの表情はやはり切羽詰まったもの。


「……私は、アイドルという立場で芸能界に入った。短い期間で色々なことがあったけれど、大きなイベントをやるにはとんでもない人が関わっているのを知った」

「だから失敗はできない……自分が体調不良で中止させるわけにはいかないと」

「私が所属するのはグループだから、私がいなくなってもイベントそのものはできるよ。でも、あらゆるスタッフは私を含めメンバーを輝かせるために必死になっている。それを見て……止めるわけにはいかない」


(責任感があるからこそ、こういう申し出をしているということか)


 ユキトはその表情の原因をおぼろげながら理解しつつ、


「……ひとまず、訓練は一ヶ月中止すべきだ。これ以上鍛練を重ねて成長を早めるとどうなるかわからない」

「うん、そうだね。心苦しいけど……」

「正直、アイドル活動と邪竜対策、両方同時並行でやるというのも無理があるよ。メイはまず目先のイベント終わらせて時間的に余裕を作ること。その間に邪竜の居所がわかったとしても、今は仲間の記憶も戻っているし、組織として人員は確保できている。問題はない」

「わかった。ならとりあえず忙しいということで鍛錬は控えるよ」

「それでひとまず様子を見よう。訓練を止めてそれでも成長が止まらなかったら……あるいは、体調面に影響が出てきたら改めて魔力を封じる。現時点でやるのはさすがに俺もリスクが高いと思うし、しない方がいい」

「うん」


 メイの返事を聞いた後、ユキトは小さく息をつき、


「問題は、いざそういう状況に陥った時、顔を合わせられるかどうかだけど。今日ここに呼び出したのだって、無理矢理時間を作っただろ?」

「そこはどうにかするよ。残る問題は処置をするとなったらどこへ集合するかだけど」


 ここでメイは小首を傾げ、


「どういう風に処置をするんだっけ?」

「俺が魔法をメイに付与するだけだ。やり方は今からどうにか記憶を引っ張り出す……その辺の公園だってできるとは思うけど」


 と、言った後にユキトは気付く。


「いや、メイは周囲の人の目を避けるために魔法を使っているよな? さすがにそれは解除してもらわないといけないし……組織の部屋でも借りるか?」

「可能であれば仲間に会う可能性がある組織の部屋は……」

「秘密にしてくれって話だからそうなるか……となったら候補は――」

「なら、ユキトの家は?」


 と、メイは提案をした。ユキトとしては大丈夫なのかと考えたりしたのだが、


「私の家の方がまずいでしょ?」

「そうだな……親はいくらでも誤魔化せるし、それしかないか」

「うん。ディルも自由に動けるだろうし、一番いいと思う……あ、そういえばディルが出てこないね」

「言わなかったけど、今日は不在だ。まあ剣はどこにいても引き戻せるから問題はないよ」

「組織にいるの?」

「そうだ。仲間と色々話したいって。俺と一緒にいるより楽しいってさ」


 そんな言葉にメイはクスクスと笑う。


「そっか。ともあれよろしくね」

「できれば処置することなんてないのを祈っているよ」


 ユキトはそう返事をする他なく、話し合いは終了した。



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