彼女からの相談
組織については着実に強化され、また同時にユキト達の環境も変わっていく。カイ達が通う高校もユキト達が通う高校も進学校という区分であるため、進級と共に受験モードへと切り替わっていく。
ユキトは内心でいよいよか、などと胸中で呟きつつも訓練は怠らない――進級によりクラス替えがあったが、ユキトとスイハは同じクラスとなった。受験する科目が同じであるためだが、他に召喚されたことを憶える面々は別のクラスとなってしまった。
「私がタカオミと連絡し合うよ」
そうスイハは述べ、ユキトは申し訳なく思いつつもその言葉に頼った。結果としてスイハはタカオミ達と共に訓練を続け、ユキトはユキトで独自に動くこととなった。
そして、邪竜に関連する者達の動向については情報一つ得られないままさらに月日は流れ――五月の大型連休前になって、ユキトはとある人物から連絡を受けて、放課後落ち合うこととなった。
「珍しいな、そっちが連絡してくるなんて」
そう告げた相手は、メイ。忙しい最中突然連絡を受けてユキトは驚いたくらいだった。
「まあまあ、同じ組織に所属している以上は、ね」
「それで、話って?」
「うん……ディルもいるし一番能力のことを分析できるユキトが適任かなって」
そう前置きをしたメイ――ちなみに今日、ディルは不在。何事かとユキトが視線を送っていると、
「その、仲間と一緒に修行しているよね?」
「メイは忙しいし、不在の時もあるけど……やってはいるんだよな?」
「うん。私なりに時間を見つけては」
その時間を見つける行為がどれだけ大変なのか――と思ったが、ユキトは言及しなかった。
「それで、さ。訓練中に気付いたんだけど」
「ああ」
「……魔力がどうも、増えてるみたい」
メイの言葉を聞いてユキトは眉をひそめる。それはなぜ魔力が増えたのかではなく、
「鍛錬すれば魔力が増えるというのは、むしろ当然じゃないか? 実際、霊具を持って訓練していたら魔力量は増えたし」
「問題はその増え方」
「増え方?」
「今、ユキトは私が持っている魔力量、見える?」
「……ちょっと待ってくれ」
ユキトは気配を探る。一見すると何も変化がないように思えるのだが、しっかり探ると、
「……確かに増えているな。でもこれは……」
「霊具を持っていた時は、その力に応じるように魔力が引き上がっていった。それは納得できるけど、今回は……」
「お手製の霊具で、他の仲間については変化があるにしろ大きくはない……メイにだけずいぶんと変化が起きているみたいだな……」
ユキトの指摘にメイは小さく頷いた。
霊具を用いた訓練は使えば使うほど内に抱える魔力量が増える。それ自体は過去、召喚された際とまったく同じような変化であるため特段問題はない。記憶だけを抱えたメイ達にしてみれば、むしろ「召喚された時のように戻った」と解釈することができる。
しかし、メイが鍛錬によって得た魔力量はどうやら相当な大きさで、仲間達を飛び抜けている。一見するとこれ自体は良いことのようにも思えるが、急速に魔力が増える場合、体が成長していると同義であるため何かしら問題が生じる危険性がある。
「魔力をどうにかして欲しい、ということか?」
「……可能であれば、少しばかり魔力そのものを封じて欲しい」
「封じる……つまり、成長そのものを抑え込んで欲しいと」
コクリと頷くメイ――それについては確かに前例がある。霊具を用いて急速に成長した際、その成長に体が追いつけず体調を崩す者がいた。
その際の対処法は、身の内から湧き上がってくる魔力を魔法によって抑え込み、少しの間安静にすること。魔力量が突然増え体がびっくりすることで起きる症状であるため、休んでいれば体が慣れてくる。
ただし、ここで問題がある。
「わかった……けど、仲間がその状態になった際、魔法医の助けがあったよな」
「うん……残念だけど、処置方法はわからない」
「だとすると……うーん、一応うろ覚えだけどやり方自体は聞いたような気がする。でも、俺はあくまで素人だ。下手な処置をして、かえって悪化させる危険性もある」
「応急処置でいいんだ。ひとまず一ヶ月……その間だけ、魔力を抑え込めればいい」
「……どういうことだ?」
「今は休む暇はないの。それに、仲間に心配を掛けたくない……鍛錬するだけの魔力は維持したいから、複雑な術式になると思う。それを含めて、一ヶ月誰にもバレないようにしたい」
「仲間に知られたら、無理にでも休ませようとしそうだし……ってところか」
「うん……」
ユキトとしては悩みどころだった。なぜなら彼女に休んで欲しいと願う一人でもあったためだ。
「その、一ヶ月という期間に意味はあるのか?」
「一ヶ月後に大きなイベントがある。それを成功させたら、多少は休みがとれると思う」
「……つまり、その間どうにかしのぎたいということか」
「無理、かな?」
メイの問い掛けにユキトは悩む。投げかける視線は、切羽詰まったものでほとんど見たことがない表情だった。




